2016年5月18日(水)、東京タワースタジオ内にて、「これからの時代を生き抜くために必要な世界最先端の教育とテクノロジー」と題して、教育の未来について考え語り合うイベントが開催されました。
イベントは、第1部「教育」と第2部「テクノロジー」というプロジェクトになっており、国立シンガポール大学教授の田村こうたろう氏、The Keys global CEOのAYESHA KHANNA氏、医師・医学博士でありベンチャー起業家である斎藤元章氏と、世界の最先端で活躍する3人が登壇されました。
目次
【第一部①】「”今”日本の親は何をすべきか」田村こうたろう氏
● シンガポールはアジアで最も子供の教育に適している
● 最適な教育の時期とは、そして生まれる「超知性」
【第一部①】「”今”日本の親は何をすべきか」田村こうたろう氏
まず、プログラムの一番初めの登壇を担ったのは田村こうたろう氏。同氏は、元参議院議員であり、第一次アベノミクスにて、経済財政・金融・地方分権を担った人物。そしてエール大学やハーバード大学、ランド研究所でも研究員を務め、現在は、ミルケン・インスティテュートのシニア・フェロー、そして国立シンガポール大学リークワンユー公共政策大学院にて名誉顧問として活躍されています。
● シンガポールはアジアで最も子供の教育に適している
田村氏は、今、そして将来のことを考えた時、子どもを育てていく場所として最適なのはアジア、そしてその中でもシンガポールだといいます。 実際に家族でシンガポールに移住し、娘様をシンガポールで育てていらっしゃる同氏がシンガポールを押す理由は、まず”世界最高水準の教育”が整っているということ。シンガポールでは、政府が国をあげて教育に力を入れており、その為に優秀な講師陣を集め、子供たちは小学校低学年からプログラミングやロボット工学、バイオ、3Dプリンター工作、そして経済や起業家精神といったことについても学んでいきます。その為、日本の子供がシンガポールの学校に行くと、そのレベルの高さからついていくことができないといいます。 そして、シンガポールは様々な分野で”アジアナンバーワン”であること。下記のように、シンガポールはアジア及び世界のトップを走っているといいます。
・一人当たり名目GDP(2011年)・・・アジア1位
・富裕層の割合・・・世界1位
・ビジネスのしやすさランキング(2012年)・・・世界1位
・最も住みやすい都市ランキング(2012年)・・・世界1位
・国際競争力レポート「政治への国民の信頼」(2012~2013年)・・・世界1位
・国際競争力レポート「教育システムの質」(2012~2013年)・・・世界1位
・世界競争ランキング(2012年)・・・アジア1位、世界4位
など
シンガポールは、世界全体でみても、勢いとパワーがある国であり、その様な環境の中で子供を育てることは、子供たちに良い影響を与えることができるといえそうです。
● 最適な教育の時期とは、そして生まれる「超知性」
では、人が0~22歳の期間の中で、最も人生の成功に繋げることができる教育時期はいつなのか。田村氏はノーベル経済学賞受賞のジェームス・ヘックマン氏を引き合いに出し、それは”0~6歳までの教育”だと言われている事実を伝えました。そして、日本には幼児教育がなく、プロと言われる教師が少ないことを問題として指摘し、逆にシンガポールには高い教育を受け、経験を積んだ教育を担う人材が数多くいるといいます。
そして、更に田村氏は、今後の教育について「超知性」という言葉を説明しながら提言。超知性とは、「人類の知力を大幅に超える人工の知性」で、研究開発や資産運用など、これまで人間が行っていたことをこの超知性が行うようになり、そうすると人間の知力自体に意味が無くなってくるといいます。 しかし、では人間が必要無くなるのかというとそうではなく、「多様性の中の異端のぶつかり合いによって新しいものが生まれる」のであるといいます。その為に、優秀な多様性を育むべく、最適な環境の中、子供たちに色んなことを体験させ、好きなことを突き詰める機会を与えることが必要だと語りました。
【第一部②】「世界最先端グローバル教育企業が実践している具体的教育カリキュラム」AYESHA KHANNA氏
次に登壇されたのが、AYESHA KHANNA氏。同氏は、シンガポールにてグローバルな教育を提供するThe Keys globlのCo-FounderおよびCEOであり、教育・テクノロジー・都市化の分野におけるアドバイザーとしても長年活躍されてきた人物です。
● 3歳からハイレベルの教育アプローチ
The Keys Academyでは、どの様に子供たちに教育のアプローチをしているのか。
まず、「コーディング」「ロボット工学」「3Dプリンター工作」という最先端のテクノロジーを教えているといいます。
次に、holiday programにて、新しい物事の考え方・捉え方を教えており、それは、「クリエイティブティ」であったり「コミュニケーション」であったり、そして「問題解決能力」だといいます。
そして、業界のプロフェッショナルと実際に交流をするプロジェクトを行っているといいます。
また、アプローチ時期は3歳からと、やはり幼少期からの教育が大切だと考え、早期からの取り組みを行っています。
こちらはMBAを勉強するプログラム。holiday programのテーマは「HAVE FUN. LEAN NEW SKILLS」。これまでに「Run a Restaurant」「BUILD AN APP」「NAVIGATE DEEP SPACE ROBOTS」「DESIGN A VIDEO GAME」といったテーマで開催されてきています。
こちらはシリコンバレーにてロボット製作を行っている会社を訪問した時の様子。 幼少期より、子供たちに価値のある、ハイレベルな教育を提供していることがわかります。
最後の質疑応答の際、参加者のお1人が、自分はITやサイエンスについて勉強をしてきていなく、Keys Academyは子供を対象としているものなので対象外になるけれど、自分のような大人はこれからどうすればいいと思いますか?といった質問をされました。それに対してのAYESHA氏の答えはとてもシンプルで、「今から勉強してください」というものでした。これからの時代、ITとサイエンスは出来なくてはならないスキル。今からでも身に付ける為に勉強をしてください。シンプルだけれど、今後のことを真剣に考えさせられる印象的な言葉でした。
【第二部】「AI(人工知能)時代を生き抜く術」 斎藤元章氏
そして、最後に登壇されたのが、医師であり、ベンチャー起業家であり、現在人工知能の最先端を担うといわれる斎藤元章氏。2016年6月には、高効率人工知能ハードなどを開発する株式会社Deep Insightを設立しています。 テクノロジーの進化とそれにあわせて起こる今後の世の中の変化をもとに、「子供達に何を教えて、何を学んで貰えばよいのか」について語りました。
● もはや、人工知能は人間の想像をはるかに超えている
まず、斎藤氏から語られたのは、人工知能によってもたらされるであろう"極めて大きな衝撃"についてでした。
例えば、画像圧縮処理の分野では、既に人工知能は人間が全く理解できない手法と数式を用い、画質が良くて高圧縮な手法を生み出すことが可能だといいます。これまでは、諸々の前処理や前提条件の提供といった準備を人間が行う必要があったのが、今や人工知能は人間を必要としなくなっているのです。同氏は、これは、人間ですら見出していない「特異点(パターン)」を人工知能だけが理解をしてしまっているということであり、これまで人間が行ってきた、パターンを見出し、仮説を立て、実験により検証し、仮説を修正・変更、そこから結論を導き出すという知的で高度な作業を人工知能が代替えできてしまう、ということを意味します。
つまり、人間の知的労働力の多くを人工知能が置換する「新産業革命」が起きるのだといいます。しかもこれらが起こるのは5年以内と、もうすぐそこまで差し迫ってきているのです。
● 「シンギュラリティ(特異点)」は全ての人間の在り方を変える
そして斎藤氏は、今後、人類は「シンギュラリティ(特異点)」の時期を迎えるといいます。
この「シンギュラリティ」とは何か。一般的にそれは、「1台のコンピューターまたは人工知能が、地球上の全人類の知能の総和を超えてしまう状態・時点」といわれるといいます。しかし、斎藤氏は本質的定義として、「これまでの社会の仕組み、価値観、常識などの全てが変革され、既存の前提条件が成立しない状態」だと説明します。つまり、これまでの人間の在り方が全て変わるということであり、それに向けた理解、啓蒙、覚悟、準備が必要になってくるといいます。そして、この大きな変換を乗り越える為には、シンギュラリティの前段階である「全特異点」(社会的特異点)を良い形で乗り越えることが鍵になるといいます。
では、まず初めに人類が直面する「全特異点」では、どの様な変化が起きるのでしょうか。斎藤氏は、科学技術と情報通信技術が究極まで発達し、生産性も無限に高まり、医療も劇的に進化することで、「人間が生きる上でのあらゆる問題から解放される」といいます。食糧問題が解決されて食べる為に生きる必要が無くなったり、老化がコントロールできるようになって寿命が延びたり、お金事体も無くなるので利益や財産に固執することもなく、グローバル化やグローバル競争の意味もなくなる。つまり、「全く新しい価値観、尊厳、社会基盤が出現する」ということだといいます。
今の時点では、想像もできないような世の中ですが、斎藤氏によるとこれらの変革はもう差し迫ってきているのです。
最後に斎藤氏は、これらの状況を踏まえ、子供たちにはこれから世の中が加速度的に変化していくことを伝え、そしてテクノロジーリテラシーを教えるとともに、それだけでなく、身近な自然への理解と興味も育んでいくことが重要だと語りました。
今回のイベントで話された内容は、聞くだけでは想像もできない世界ですが、その変化の波はもうそこまで来ています。まずは、これから起きるであろう大きな変化を世の中が認知すること。そこから、自分たち人間がこれからどのように生きていくべきなのかを考え、それに向けての準備と対応をしていくことが、まった無しで迫られているといえます。
そして、その様な大きな変化が起こると予想される中、これからの未来を担う子供たちの可能性を伸ばしていく為に、子供をどの様な環境で育て、どの様な学習をさせていくかを、私たち大人は今一度、真剣に考える必要があるといえるでしょう。