IT業界に身を置いていると一度は耳にする「業務委託契約」というフレーズですが、厳密にいうと法律上は存在していません。便宜的に業務委託契約と呼ばれている契約には、正確に言うと民法で定められる「準委任契約」と「請負契約」の二種類が存在します。今回はその二種類と、加えてそれらと混同されやすい労働者派遣契約について、違いを一目で分かる表にまとめてみたいと思います。
目次
1.1 業務委託契約とは
1.2 業務委託契約の契約書に印紙は不要?
2.1 完成しなくても決められた作業を遂行すればOKな契約形態
2.2 準委任契約が選ばれるケース
3.1 完成責任(成果物責任)がある成功報酬型に近い契約形態
3.2 請負契約が選ばれるケース
4.1 業務委託契約と労働者派遣契約との違い
4.2 準委任契約・請負契約・派遣契約の違いまとめ
4.3 業務委託契約を選択するメリットとデメリット
1.業務委託契約とは?
1.1 業務委託契約とは
冒頭でも少し触れましたが、一般的に「業務委託契約」と呼ばれる契約は、厳密には二種類に分かれます。それは「準委任契約」と「請負契約」です。主な違いには、瑕疵担保責任の有無や報酬の支払いポイントなどがあります。詳しくは後の項にて説明致します。
1.2 業務委託契約の契約書に印紙は不要?
業務委託契約の契約書には、印紙が必要なケースと不要なケースがあります。その違いは、これも「請負契約」と「準委任契約」の違いです。
完成責任のある「請負契約」に該当する場合は、「2号文書」を作成するため印紙が必要です。それに対して完成責任のない「準委任契約」に該当する場合は、「2号文書」を作成する必要もないため、印紙は不要になります。
「完成責任」については、後ほどの項で詳しくご説明したいと思います。
2.準委任契約とは?
2.1 完成しなくても決められた作業を遂行すればOKな契約形態
法律に関する業務を委任する場合のみ「委任契約」と呼ばれ、それ以外の業務については全て「準委任契約」と呼ばれます。つまりIT開発や設計などのIT業務であれば、常に準委任契約に該当します。
準委任契約の特徴としては、次の3点が挙げられます。
・労働期間に対して報酬が支払われる
・瑕疵担保責任がない
・発注側に指揮命令権がない
つまり明確な目標はなく、「1か月働いたら、いくら貰える」というような形です。そのため完成させる必要はありませんが、民法第644条に定められる「善管注意義務(善良な管理者の注意の義務)」という義務が発生します。その義務を満たさない場合は、損害賠償請求や契約解除などが可能となるので注意が必要です。
業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のこと。注意義務を怠り、履行遅滞・不完全履行・履行不能などに至る場合は民法上過失があると見なされ、状況に応じて損害賠償や契約解除などが可能となる。
[補説]民法第644条に「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」とある。
(出典:コトバンク - 善管注意義務)
また、準委任契約では瑕疵担保責任はありません。例えばシステム開発の一部を担当した場合、担当箇所でエラーが発生しても準委任契約であれば法的な修正義務はないのです。
なお準委任契約の場合、委託者(発注者)側に直接細かい作業指示を行う権利はありません。契約内容に従った上で、受託者(受注者)は自由に作業を進めることができます。
2.2 準委任契約が選ばれるケース
準委任契約は、駐在型の作業で結ばれるケースが多いようです。
またIT開発などで開発フェーズにより契約形態を変更する場合、要件定義や基本設計、受け入れテスト(ユーザーテスト)などの作業で準委任契約が選択されるケースが多く見られます。
3.請負契約とは?
3.1 完成責任(成果物責任)がある成功報酬型に近い契約形態
次に請負契約の特徴としては、次の3点が挙げられます。
・成果物を完成させる義務(完成責任)があり、作業結果を納品し検収を受けた後に報酬が支払われる
・瑕疵担保責任がある
・発注側に指揮命令権がない
つまり「明確な目標・目的があり、それを満たすことによって報酬が支払われる」という形式です。いくら時間をかけて仕事しても、目標を満たせなければ報酬を受け取ることはできません。
また、瑕疵担保責任があります。納品物に不備があれば、修正(瑕疵修補)する義務があります。修正できない場合、損害賠償を請求される場合があります。ただしこの瑕疵担保責任には有効期間(瑕疵担保期間)があり、6か月~1年程度の期間が設定されるケースが多く見られます。
なおこちらも、発注側が受注側に直接細かい作業指示を行う権利はありません。
3.2 請負契約が選ばれるケース
「○○を○月○日までに完成させる」など、成果物の納品を求められるケースに多いようです。
ソフトウェア開発などでフェーズごとに契約形態を変更する場合、詳細設計や製造(プログラミング)、単体テストや結合テストなどの工程で請負契約を選択するケースが多く見られます。
4.業務委託契約と労働者派遣契約との違い
4.1 業務委託契約と労働者派遣契約との違い
準委任契約や請負契約などの「業務委託契約」と一見同じように作業する形態に、民法ではなく労働者派遣法にて定められる「労働者派遣契約」があります。業務委託契約と労働者派遣契約の違いは、「発注者側に指揮命令権があるかないか」です。
労働者派遣契約では、派遣会社(派遣元)ではなく発注者側(派遣先)に指揮命令権があります。それに対して準委任契約や請負契約の場合は、発注者側には指揮命令権がありません。現場では混同しがちですが、準委任契約や請負契約にもかかわらず発注者側が直接細かな作業指示を行っていた場合、偽装請負と呼ばれる違法状態になりますので、注意が必要です。
また労働者派遣契約の場合、完成責任や瑕疵担保責任はありません。
4.2 準委任契約・請負契約・派遣契約の違いまとめ
まとめると、次の表のようになります。
発注者側の指揮命令権 | 完成責任 | 瑕疵担保責任 | |
---|---|---|---|
準委任契約 | なし | なし | なし |
請負契約 | なし | あり | あり |
派遣契約 | あり | なし | なし |
4.3 業務委託契約を選択するメリットとデメリット
労働者派遣契約ではなく準委任契約や請負契約などの業務委託契約を結ぶことのメリットとデメリットには、次のようなものがあります。
■メリット
業務委託契約のメリットの一番大きな点は、派遣可能期間の定めや最大人数の制限を受けないという点です。そのため派遣契約では受注することのできない案件も、業務委託契約であれば受注することが可能です。
■デメリット
一方のデメリットは、発注者に指揮命令権がないため業務指示を随時受けることができない点です。すぐ近くで作業していても直接指示を仰ぐことはできず双方のリーダーを経由する必要があるなど、間接的な手順を踏むことになります。
5.契約内容はしっかりと確認しよう
毎月報酬が支払われるスタイルだと一見準委任契約のように見えますが、請負契約でも毎月の作業報告書を納品することで定期的に報酬が支払われ、準委任契約のように見える場合もあります。フリーランスなどで自分自身で契約を行う方は特に、トラブル回避のためにも契約書はしっかりと確認し、自分の契約形態がどちらにあたるのかをきちんと確認しておくことがおすすめです。
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