今回は、システムエンジニアの目指すべき1つの目標であるプロジェクトマネージャーについて解説します。どのような役割を担うのかを始め、PMBOKにおける定義、プロジェクトマネージャーに必要なスキル、プロジェクトリーダーとの違い、仕事の流れまで詳しく紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
1. プロジェクトマネージャーの役割とは?
プロジェクトマネージャーの役割とは何か、言葉の定義やプロジェクトリーダーとの違いといった観点から解説します。
1.1 プロジェクトマネージャーの定義
プロジェクトマネージャーとは、プロジェクト全体に対する責任を持ち、総合的に管理を行う役割を指します。
プロジェクトの
- 提案
- 立ち上げ
- 計画策定
- 計画実行
- 管理・監視
- 統制
- 納入
といったすべての工程の進捗管理を実施。プロジェクトのQCD(予算・品質・納期)を徹底的に管理し、顧客の求める成果物を確実に納品する責任をプロジェクトマネージャーは負います。
幅広いスキルと経験を持ち、顧客に利益をもたらすプロジェクトマネジメントを実践できる人材がプロジェクトマネージャーと言えるでしょう。
1.1.1 PMBOKによる定義
プロジェクトマネジメントに関するノウハウが体系的にまとめられたPMBOK(Project Management Body of Knowledge)を参照すると、プロジェクトマネージャーは以下のように定義されています。
プロジェクト・マネジャーの役割は、機能部門マネジャーや定常業務マネジャーの役割とは異なる。通常、機能部門マネジャーは機能部門や事業部門を管理監督することを重視する。定常業務マネジャーは、業務を効率的に進める責任を負う。プロジェクト・マネジャーは、プロジェクト目標を達成することに責任をもつチームをリードするために、母体組織が任命する人物である。
引用元:PMBOKガイド 第6版「3.2 プロジェクト・マネジャーの定義」
1.1.2 PM(プロジェクトマネージャー)とPL(プロジェクトリーダー)の違い
プロジェクトマネージャーがプロジェクト全体を管理するのに対し、プロジェクトリーダーはプロジェクトを計画通りに進めて、納入まで完了させる実行責任者という違いがあります。
一般的にプロジェクトマネージャーが上位の管理者というイメージがありますが、実際には管理と実行という役割が違うだけで上下関係はありません。それぞれの持つ経験やスキルを活かせる役割を担うことが、プロジェクトを効率的に進める上でとても重要です。
2. プロジェクトマネージャーの仕事内容(役割)と流れ
次に、プロジェクトマネージャーの仕事内容とその流れについて解説します。
2.1 仕事内容・役割
プロジェクトマネージャーが管理を担当する分野は、おもに以下の5つに分類されます。
- システム開発/アプリケーション開発/SI
- アウトソーシング
- ネットワークサービス
- eビジネスソリューション
- ソフトウェア開発
プロジェクトマネージャーはそれぞれの分野の業務やテクノロジーに関する知識が必須。その上で、マネジメント手法に基づいてプロジェクトマネジメントを進めていくという役割を担います。
2.1.1 システム開発/アプリケーション開発/SI
顧客の問題解決を実現するITソリューションに関わる分野です。システム開発/アプリケーション開発/SIの分野において、プロジェクトマネージャーはシステムやアプリケーションの設計や開発に関わるプロジェクトマネジメントを実施します。
2.1.2 アウトソーシング
プロジェクトマネージャーは、システム環境の改善を目的としたプロジェクトの中で、アウトソーシングを利用して効果的な運用を行うためのプロジェクトマネジメントを実施します。
アウトソーシングの分野におけるプロジェクトマネージャーの管理対象には、
- 開発
- 保守
- システム運用
- サポートデスク運用
- 業務運用
などが含まれます。
2.1.3 ネットワークサービス
LANやWANといった通信環境の提案・構築・管理に関わるプロジェクトマネジメントを実施します。データを円滑にやりとりできる環境は、より効率的なサービスを実現する上で欠かせません。
2.1.4 eビジネスソリューション
インターネットを活用したビジネスソリューションを提供する分野です。企業の業務システムの設計や開発に関わるプロジェクトマネジメントを実施します。
2.1.5 ソフトウェア開発
ソフトウェアの開発に関わる分野です。ソフトウェアの設計・開発・改善・保守に対するマネジメントを実施します。
2.2 仕事の流れ
プロジェクトマネージャーの仕事は、
- プロジェクトの企画・提案
- プロジェクトの計画策定・立ち上げ
- 開発・ディレクション
- 納入
- 運用・保守
といった流れで進めます。以下で、それぞれの内容について解説します。
2.2.1 プロジェクトの企画・提案
プロジェクトは、企画と顧客に対する提案から始まります。
顧客に対してヒアリングを実施。そして、解決したい課題を洗い出して、プロジェクトの目的・目標を設定します。その際に、プロジェクトマネージャーには、課題に対する分析を行って企画をまとめ、プレゼンによって合意を得る交渉力が求められます。
お客様の希望に沿うことがプロジェクトの原則。その上で、プロジェクトの規模・予算・スケジュールを加味して、達成可能なプロジェクトとなるように調整や予算交渉を行うこともプロジェクトのマネージャーの大切な仕事です。
お客様との良好なリレーションを築くためのコミュニケーション能力、プロジェクトを遂行する上で発生するリスクをケアするプロジェクトマネジメントに対する知識がプロジェクトマネージャーには不可欠。また、契約や関連法規などのビジネスマネジメントも必須と言えるでしょう。
2.2.2 プロジェクトの立ち上げ~計画策定
顧客からのヒアリングを基に、プロジェクトの立ち上げと計画策定をプロジェクトマネージャーは行います。
予算とスケジュールに合わせてプロジェクトメンバーを選定し、人員の確保を実施。社内の人員だけで足りない場合には、外部のパートナー企業との交渉も必要です。限られた予算と期間の中でプロジェクトを達成するための、全体のリソースを考慮したチーム作りはプロジェクトマネージャーの腕の見せ所と言えるでしょう。
プロジェクトの立ち上げにおいては、全体を統率するリーダーシップ、必要となるリソースを見極めたチームマネジメントに関する知識やスキル、内部・外部との交渉力が求められます。
2.2.3 開発及びディレクション
実際にプロジェクトがスタートしてシステム開発が始まった際には、プロジェクトマネージャーはプロジェクトの推進と管理に注力します。
顧客に定期的な進捗報告を行い、現状を共有。追加の機能の実装などの仕様変更があった場合には、スケジュールや予算の調整を行います。
また、プロジェクトメンバーの状況を定例会議などを設けて、内部の状況を正確に把握することも重要な仕事です。プロジェクトを推進し、スケジュール通りに進行するように適切な管理を行うことがプロジェクトマネージャーには求められます。
2.2.4 納入
顧客に開発が完了したシステムの納品を行います。納品後はプロジェクトのレビューを実施し、問題点や改善点を洗い出して検証を行います。次のプロジェクトをより効果的にマネジメントする上で、評価やレビューはとても重要です。
プロジェクトの評価やレビューは、顧客と共に行うケースも多くみられます。
2.2.5 運用・保守
システム納品後の運用・保守を行います。
プロジェクトマネジメントを行う際には、稼働までではなく保守・運用フェーズも考慮することも大切です。顧客の経営戦略に寄与するためにシステムをアウトソーシングする際に、プロジェクトマネージャーが保守・システム運用・業務運用を管理する場合もあります。
3. プロジェクトマネージャーに必要なスキル
プロジェクトの管理を行うプロジェクトマネージャーには、おもに以下の5つのスキルが必要です。
- テクノロジーに関するスキルと知識
- プロジェクトマネジメントに関するスキルと知識
- 顧客の業界や業務に関する知識
- ビジネスマネジメントに関するスキルと知識
- チームメンバーや顧客とのリレーションを築くコミュニケーション能力
以下で、プロジェクトマネージャーに求められるスキルについてそれぞれ詳しく解説します。
3.1 テクノロジー
テクノロジーに関する知識とスキルは、プロジェクト全体を管理するプロジェクトマネージャーにとって必要不可欠。なぜなら、現実的なスケジュール作成のためには、それぞれの工程に関する深い理解が求められるからです。
プロジェクトマネージャーに求められる具体的なテクノロジーに関する知識やスキルについて、以下に記載します。
- プロジェクトで使用するハードウェア・ソフトウェア・ネットワーク技術などのITスキル
- システム開発を効率的に進めるための設計やテストに関する知識
- ソフトウェアの開発や保守に関わる理論・ノウハウ・方法を体系化したソフトウェア・エンジニアリングの知識
このように、プロジェクトマネージャーには、特定の分野の深い知識よりも、幅広い分野のテクノロジーに対する理解が求められます。
3.2 プロジェクトマネジメント
プロジェクトマネージャーにとって、プロジェクトマネジメントに関する知識やスキルは最も重要です。システム開発の現場で積んだ経験ももちろん大切ですが、体系化された汎用性の高いアプローチに対する理解も欠かせません。
セミナー・本・インターネットなどを駆使して、広い視野で効果的なプロジェクトマネジメントのアプローチについて学びましょう。それをベースに経験を積むことが、優れたプロジェクトマネージャーへと成長する近道です。
3.2.1 PMBOKに対する高い理解度
PMBOKに対する深い理解は、プロジェクトマネジメントのスキルを高める上でとても効果的です。
通称「ピンボック」ことPMBOKは、アメリカのPMIという非営利団体によって作成されたプロジェクトマネジメントに関する知識が体系的にまとめられた参考書のようなもの。プロジェクトマネジメントの普及を目的に作られており、世界基準として利用されるほど信頼性の高い内容が記されています。
プロジェクトマネージャーとして活躍したい人は、基礎知識として内容をしっかり理解しましょう。
3.3 業界知識・業務知識
顧客の企業が所属する業界や業務に対する知識もとても大切です。
金融・流通・商社などの業界によって、当然ですが事業内容は大きくことなるもの。顧客が属する業界についてしっかりと学び、正確な知識に基づいてプロジェクトを進めるスキルがプロジェクトマネージャーには求められます。
3.4 ビジネスマネジメント
プロジェクトマネジメントだけでなく、ビジネスに関するマネジメントのスキルもプロジェクトマネージャーには必要です。
- 定期的な進捗報告によってお客様との良好なリレーションを築く
- 顧客の経営戦略に利益をもたらす新規プロジェクトの提案
- プロジェクトを遂行する上で発生するビジネスリスクの回避と軽減
- 契約や各種法規といったコンプライアンス関係の知識
発生するリスクやトラブルを最小限に抑え、顧客と自社に利益をもたらすプロジェクトを実現するため、プロジェクトマネージャーにはビジネスに関するマネジメントを行います。
3.5 コミュニケーション能力
プロジェクトマネジメントを行う上で、人との良好な関係を保つコミュニケーション能力を求められます。
プロジェクトマネージャーはプロジェクトを管理する役割。プロジェクトは基本的に一人ではなく、チームで進めます。そのため、チームメンバーの管理もプロジェクトマネージャーに役割に含まれるのです。
円滑なコミュニケーションによってリーダーシップを発揮し、プロジェクトチームという組織を運営できる知識やスキルは不可欠と言えるでしょう。
4. プロジェクトマネージャーの年収の目安
プロジェクトマネージャーの平均年収は約619万円です。日本の平均年収が409万円と比較すると、高い平均年収と言えるでしょう。
参照:プロジェクトマネージャーの仕事の年収・時給・給料情報|求人ボックス / 平均年収ランキング|doda
プロジェクトマネージャーはプロジェクト全体を管理する重要な役割を担います。そのような責任の大きい役割であることが平均年収の高さに反映されていると考えられるでしょう。経験やスキルによっては、年収が1,000万円を超える場合もあります。高い年収が得られるプロジェクトマネージャーは、システムエンジニアが目指すべきキャリアパスの1つです。
5. プロジェクトマネージャーの働き方や役割についてよくある質問
プロジェクトマネージャーの働き方や役割についてよくある質問について以下でお答えします。プロジェクトマネージャーになるにはどのような資格を取ればよいか、キャリアパスについて不安を感じている人はぜひ参考にしてください。
5.1 おすすめのプロジェクトマネジメントに関する資格は何?
PMBOKを作成したPMIが認定するPMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)資格がおすすめです。プロジェクトマネジメントの世界基準として認められているPMBOKに記載された知識に基づいて試験は実施されます。そのため、PMP資格はプロジェクトマネジメントのデファクトスタンダードと広く認知されているのです。
PMPの資格を保有していれば、世界に通用するプロジェクトマネジメントのスキルがあることを証明できるでしょう。2021年5月時点では、試験はオンラインで受験でき、料金はPMI会員で405ドル、一般会員で555ドルです。最新の情報や詳細については以下の公式サイトをご覧ください。
■ 公式サイト:PMI® 試験・資格について|PMI日本支部
5.2 プロジェクトマネージャーの将来性やキャリアパスは?
システムエンジニアからキャリアをスタートし、プロジェクトマネジメントに関する知識と経験を積んでプロジェクトマネージャーを目指すのが一般的なキャリアの積み方と言えるでしょう。さらに、ビジネスに関する知識を深めていくことでステップを踏み、経営層へと回るというアプローチがプロジェクトマネージャーにとって最適なキャリアパスです。
6. まとめ
プロジェクトの全体を管理し、プロジェクトの成否を分ける重要な役割を担うプロジェクトマネージャー。QCD(予算・品質・納期)をコントロールし、顧客の求めるシステムの納入の遂行に責任を負うため、プロジェクトマネジメント・テクノロジー・コミュニケーション能力・業界知識など、幅広い知識とスキルが求められます。
その分、プロジェクトマネージャーは年収が高くなる傾向があり、経営層を目指すステップとしても最適です。これからシステムエンジニアを目指そうと考えている人は、将来的なキャリアとしてプロジェクトマネージャーを一つのマイルストーンとして設定すると働き方が明確になるでしょう。