「ITアーキテクト」という職種をエンジニアの方なら一度は耳にしたこともあるでしょうか?
言葉としては浸透していても実際にITアーキテクトが何をやるのか、あいまいなイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。
ITアーキテクトはエンジニアのキャリアパスとしても認知度が広がっており、特に近年のIT技術革新により、高度な専門性と幅広い知識を持つITアーキテクトのニーズは高まってきています。
本記事では、ITアーキテクトの概要、仕事内容、必要なスキルなどについて詳しく解説します。
目次
1.1 ITアーキテクトとITコンサルタントの違いは?
1.2 ITアーキテクトとITスペシャリストの違いは?
1.3 ITアーキテクトの専門分野ごとの仕事内容
1.3.1 アプリケーションアーキテクチャの設計
1.3.2 インテグレーションアーキテクチャの設計
1.3.3 インフラストラクチャーアーキテクチャの設計
1. ITアーキテクトとは
「設計者」「設計・構築」を意味するアーキテクトという言葉。
ITアーキテクトは、企業の経営戦略や課題に対し、高度なIT知識と広範なIT技術を複合的に取り入れ、システムのグランドデザインやアーキテクチャ(骨格)を設計する「IT分野の設計者」です。
システムのデザインのみならず、プロジェクトを円滑に進めるための、開発者への技術サポートを含め、システムの仕組みから運用までを担うこともあり、ITアーキテクトの業務内容は多岐に渡ります。
1.1 ITアーキテクトとITコンサルタントの違いは?
ITアーキテクトとITコンサルタントとは、「顧客の経営戦略や課題に対してITを活用した最適なシステムの提案」という面において、役割や仕事内容がかぶる部分が多くあります。
両者のわかりやすい違いとしては、ITコンサルタントは「顧客の経営課題の解決」が最優先の目的であり、顧客に対して最適なシステムを企画し提案します。
それに対し、ITアーキテクトはその理想をどうやって実現し運用するかを考えます。
1.2 ITアーキテクトとITスペシャリストの違いは?
ITアーキテクトとITスペシャリスト、両者ともに高度なIT技術と知識を持ちますが、ITスペシャリストはITの専門分野に特化したスキルを持つ専門家であり、システムの「実装」を軸としています。
それに対し、ITアーキテクトはシステムのアーキテクチャを設計し、プロジェクトの方針を定め円滑に進めるための様々な役割を担う、システムやプロジェクトの「設計」を軸としています。
1.3 ITアーキテクトの専門分野ごとの仕事内容
ITアーキテクトにはおおまかに3つの専門分野があり、それぞれの業務を担当します。
実際の業務では、明確に専門分野が分かれているわけではないので、自分の専門分野以外にも幅広い知識を持ち、プロジェクト全体を俯瞰的に見る役割も必要とされます。
【ITアーキテクトが担当する3つの専門分野】
1.3.1 アプリケーションアーキテクチャの設計
経営課題を分析して、機能要件を実現するためのITシステムのアーキテクチャ(骨格)を設計します。
主に、利用するアプリケーションサーバーの決定や、処理方式の決定、業務機能やユーザーの使いやすさなどを意識した設計を行います。また、設計したアーキテクチャの実現性やリスクも評価します。
1.3.2 インテグレーションアーキテクチャの設計
企業内や企業間における統合や連携を実現するため、フレームワークやシステム間の相互接続性に関係する設計業務に責任を持ちます。
1.3.3 インフラストラクチャーアーキテクチャの設計
システム基盤要件(主に非機能要件)を実現するために、セキュリティ、プラットフォームなどのインフラの設計を行います。
2. ITアーキテクトの必要性
近年、「ITアーキテクト」の需要が増しています。その背景には、AIやIoTをはじめとする目覚ましいIT技術革新により、企業のIT活用を取り入れた経営戦略がますます拡大している現状があります。
そしてシステム開発の現場では企業からの高度な要件・ニーズに対応するため、開発スパンが短期化されている傾向にある中で、専門分野別の多様な技術を取り組み、システム化を実現する必要に迫られています。
その過程において、経営戦略に沿った業務要件を正しくシステムに反映したシステム構築を行い、それを的確に開発側に伝えていく「ITアーキテクト」の存在が重要となっているのです。
3. ITアーキテクトの役割
前述と重なる部分もありますが、ITアーキテクトの主な役割をまとめて次に挙げます。
● システム全体を俯瞰しながら、経営戦略に沿った最適なIT技術を適切に取り入れたシステムの構築をする
● プロジェクト関係者各々の立場や役割を考慮して、プロジェクトを成功に導くための連携や調整をする
● システムのアーキテクチャを設計し、運用リスクや生産性を考慮した上でプロジェクトの方針を定める
● 顧客の要求をヒアリングし、開発側との調整をはかる「橋渡し」の役割を果たす
● システムのあるべき理想の姿と、顧客の経営戦略、開発側の考えを技術的観点から調整し折り合いをつける
3.1 これからのITアーキテクトに求められるもの
近年、企業のクラウドサービス導入が増加の傾向にあります。クラウドでは必要な時に必要なリソースを調達できるため、ITアーキテクトはその時点で最適なアーキテクチャをすぐに提供することが可能になります。アプリケーション部分においてもクラウドサービスのAPIを活用して、より早くアーキテクチャを構築できます。
このように、クラウドを活用した継続的なアーキテクチャの提供が可能になれば、運用フェーズにおけるITアーキテクトの需要も欠かせなくなると考えられます。
また、今後は顧客の経営層に対して、企業サービスの採算性や生産性を向上させるためのクラウドサービスやデータ活用の提案、また、企業が継続的なより良いITサービスを提供する仕組みを提案することなども求められるようになるでしょう。
4. ITアーキテクトに必要なスキル
4.1 ITアーキテクトが身につけておくべき11のスキル
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)はITアーキテクトが持つべきスキルを下記の「ITスキル標準V3 2011」で定義しています。
1. アーキテクチャ設計:システム要件の分析と定義、アーキテクチャ設計指針の定義をする
2. 設計技法:データモデリング技法を理解し、設計技法を適用する
3. 標準化と再利用:開発標準を定義して、既存資産の再利用をする
4. コンサルティング技法の活用:コンサルティング技法の選択と活用、分析ツールとモデルの理解と活用
5. 知的資産管理と活用:ノウハウなどの知的資産の管理とそれらの活用をする
6. テクノロジー:IT業界・IT関連技術の動向を把握する
7. インダストリー(ビジネス):関連業界動向・関連業界のアプリケーションを把握する
8. プロジェクトマネジメント:プロジェクトを統合してマネジメントを行う
9. リーダーシップ:リーダーとして、チームメンバーをまとめる
10. コミュニケーション:情報伝達、情報の整理・分析・検索をする
11. ネゴシエーション:企業や顧客との交渉を行う
(参照URL:ITスキル標準V3 2011–IPA)
これらのスキルの中でもITアーキテストにとって特に重要な2つのスキルを下記に説明します。
【高度なIT知識とシステム全体のアーキテクチャの設計スキル】
企業や顧客からの要件を満たすシステムの実現や提案をするには、高度なIT知識は必須です。
システム構築においては実現可能な範囲で、運用のしやすさや、整合性・一貫性を考慮し、システム全体のアーキテクチャ(骨格)をしっかり形成する専門的な設計技法の知識が求められます。
【コミュニケーションスキル】
ITアーキテクトは一連のプロジェクトに携わる多くの人達と連携して業務を進めていきます。
下記に挙げる例のように、プロジェクトの推進には高いコミュニケーションスキルが求められます。
・顧客からの要望を正確にシステムに反映するためのヒアリング力
・プロジェクトの概要やシステムの仕様を開発側に正しく伝える
・顧客側と開発側の双方の考え方に折り合いをつけて調整する役割を担う
5. まとめ
ITアーキテクトになるために特別な資格などはありませんが、様々な専門知識と幅広いIT技術や知識はもちろん、技術面以外にもシステム開発の中軸となってプロジェクトを推進するための多様なスキルが必要とされます。
そのため、多くのプロジェクトで様々な経験を積み、専門知識や技術の学習を重ねることでITアーキテクトへの道が開かれていくでしょう。
ITアーキテクトはシステム開発における重要なポジションのためやりがいもあり、給与面でも高待遇が得られる職種です。
少しでも興味を持たれた方は、本記事を参考にスキルを磨き、ITアーキテクトを目指してみてはいかがでしょうか。