2018年に創設されたLinux技術者認定試験LinuCの出題範囲が、2020年より大きく変わりました。
そこでLinuCの難易度やLPICとの出題範囲の違い、資格取得のメリットなどについて、LPI-JAPANの鈴木敦夫理事長にお話をお伺いしました。
1. LinuCを立ち上げた経緯についてお聞かせください
我々は20年近くLPIInc.さんと共にLPICを開発してきました。
より良い試験を作り上げるため、日本語品質はもちろん問題の品質や、認定書の発行などの作業も改善し、我々が実施するようにしていました。
試験開発に於いても、ベータ試験の実施や問題の開発に加え、試験範囲の改訂では、現場で活躍する技術者からの意見を集約し多くの知見を提供してきました。
また、技術者の成長を促進するためにLPI-Japanとして出資し、LPICレベル2、レベル3の開発を行いました。
特にレベル3については要件定義を日本で行って開発しており、受験者もほとんどが日本人でした。
これらの努力によって日本のLinux技術者の育成に大きく貢献できたと思っています。
しかし、LPIInc.さんの体制変更により方針が変わり、試験問題の漏洩への対応がとられないなど試験の品質が保てなくなり、やむをえずLinuCを立ち上げました。
2. LinuCの認定試験開発から今春の出題範囲変更に至るまでの経緯を教えてください
当初、LinuCは品質問題の解決を目指し、新たな問題に入れ替えるとともに問題が漏洩しにくい仕組みを取り入れ、試験の出題範囲は従来のLPICとは変えませんでした。
この目的はこの2年間で果たせ、ほぼ品質がきちんと担保されていることも受験履歴のデータからも確認でき、良かったと思っています。
今回の新バージョンのLinuCでは、より良い認定として行くべく、最初に100社以上の会社にご協力頂きまして、実際の開発現場ではどういった人材が必要かを調査しました。
そしてアンケートやヒアリングの結果を元に概要や方向性を作成し、有識者約50名の方に入ってもらい開発を進めました。
有識者というのは、現場でLinuxを使ったシステム構築をされている方、カーネル開発、IoT開発、アプリケーション開発をされている方、運用管理やサポートをされている方などさまざまな技術者の方です。
また、教育をされている方、書籍を書いている方などにも参加して頂いています。
これによって多角的に、また、現場目線で全体的に見直しをかけることができ、結果として人材像や認定範囲を大きく見直し、今実践で役立つものにすることができました。
3. LinuCとLPICの出題範囲の違いを教えてください
今の時代にマッチした技術者を育成していくという観点で目次構成にも変更を入れ、新たな項目を3つ追加しました。
一つ目は、Level1、Level2ともに、「仮想マシン、コンテナ対応」です。
従来の物理サーバーの知識だけでなくクラウドを支える仮想化の知識は必須となってきています。
二つ目は、「オープンソースの文化」です。
オープンソースの概要を理解し、上手く利用していくために必要なことを知ってもらうことが目的です。
オープンソースのライセンス、コミュニティ、エコシステムなどについて把握し、理解しておくことが積極的な活用に欠かせないと考えています。
三つ目が、「システムアーキテクチャ」です。
今の時代、物理サーバーのみならず、オンプレミス、パブリッククラウドの活用など色々なシチュエーションが考えられます。
それぞれの環境にあった、全体を見通せるアーキテクチャ要素が重要になってきます。
そういったことから、Level2では「システムアーキテクチャの要素」が追加されています。
この3つが新領域ではありますが、他にも変更されている部分はあります。
例えば、従来のLinuCは物理サーバーのプリミティブなコマンドのみでしたが、現在は統合監視や自動化ツールなどに関する知見も必要です。
そこで、統合監視のzabbix(ザビックス)、自動化ツールのAnsible(アンシブル)など、現場で実際に使われるツールなどを盛り込み、より現場に即した内容に全ての項目を見直しました。
全体を通して見直しをしていますので他にも、新しい機能やコマンドで置き換えられた箇所もあります。また、新項目を増やした分、現場で使われていない知識を削除しています。
この点もLPICとの大きな違いかもしれません。
4. 試験範囲の開発はどのように行われましたか?
先ほど申し上げた約50人の有識者の方々にご協力頂いて、やり取りにはSlackを使い、Wikiに書き込んで作り上げていくという作業を3か月強かけてやりました。
また、Face to Faceでの会議では、議論した内容はetherpadを使って議事メモを取り、ネット経由の参加者も含め議論内容を共有しながら、1回あたり5~9時間かけて行いました。
各項目で議論が白熱すると時間が掛かりましたね(笑)。全員が一度に集まれない場合も多いので、次のミティングでレビューを行い、また方向性が変わっていくことなどもありました。
5. LinuCの難易度はLPICに比べて高いですか?
ボリュームと、難易度に関しては大幅な変更はないと思います。
ボリュームについては、新規追加した項目はありますが、重要度の下がった技術は項目から外していますのでこれまでとほとんど変わらず、より現場に即した技術を効率よく学べる認定になっています。
難易度については難しくなったとは考えていません。
むしろLevel1についてはより受けやすくなっていると思います。
20年前は必要な知識でしたが、今は必要となる機会の少ないブート周りの知識と、システム立ち上げ時のファイルシステムのチェックについての知識などはLevel2に移行したからです。
これらについてはもともとLevel2で体系的に学べるように設計されていますが、当時は、まだLinuxが安定していなかったこともあり、知らないと対応できないケースが多かったのでLevel1でも触れていたものです。
Level2の方でまとめてしっかり学べるようにすることで、レベル1で学ぶべき内容とレベル2で学ぶ内容がきれいにわかれてすっきりしました。
まとめますと、ボリュームも難易度もさほど変わらず、LinuCのLevel1はより受けやすくなり、Level1・Level2ともに今のエンジニアに求められる知識や技術を効率よく学べる認定になっていると思います。
6. どのような企業がLinuCを評価されていますか?
我々を支えて頂いているスポンサー企業、ビジネスパートナーなど100社以上の方々に支援と評価を頂いています。
また我々が新たなLinuCの説明で様々な方とお話させて頂く中で、特に共感を持って頂いているのが、純粋に現場で役に立つしっかりした技術者を育成したいと考えている企業や学校の方々でして、今の時代に合ったより良いものになったと言って頂いています。
また、LinuCは従来より多くの企業に於いて推奨資格にして頂いています。
7. 具体的にどんな方にLinuCを取得してもらいたいですか?
今回のLinuCはすべてのIT技術者を目指す方々に受けてもらいたいですね。
我々はこの認定試験を通して本質的な技術者を育てたいという思いがあります。
まずこれを学べば、どんなタイプの技術者になるにしても、そこの領域で活躍できる技術者になれると信じています。
LinuCを通して、基礎的な素養が身につきます。
LinuCを立ち上げたもともとの考えとして、Unix系のエンジニアを育成する価値を見出しています。
Linux(UNIX系のOS)は、いわばレゴのように非常に小さな部品を組み合わせて大きな部品ができており、OS全体が構成されています。
このためLinuxを学ぶということは、ひとつひとつの仕組みを学ぶことになり、ハードウェアのアーキテクチャやネットワークなどコンピュータの仕組みがわかってきます。
仕組みが理解できれば、自分で調べ、自分で組み立て、自分で考えて、自分の意見が言えるようになるなど、"自立した技術者" になれますのでそこを目指してもらいたいですね。
LinuCを学べば今の時代に必要とされるさまざまなIT技術者になるための基礎ができる。
これがLinuCの目指しているところです。
どんなエンジニアの方でも最初でも後になってでもLinuCを学ぶと、非常に深みのある技術者になれると思っています。
また、オープンソースであればネットワーク上に情報がたくさんありますので、それらを利用して容易に、新しい技術を調べ、問題を解決することができます。
できれば、LinuCを通して主体的に行動でき、自らの考えを述べられる技術者になって、オープンソースのコミュニティ等でも積極的に発言して、いろんな技術者とのネットワークを作って活躍する舞台を広げてほしいですね。
ハードルは自分の中にしかありませんので、自分が割り切って発言すると決めて、ぜひグローバルな場で活躍して頂きたいです。
我々はそのお手伝いをしたいと思っています。
8. 今後LinuCをどんな試験の位置付けに育てていかれたいですか?
LinuCのレベル1、2はしっかりした技術者として成長していくために必要な基本的な技術要素と、素養を身に付けるための重要な認定と位置づけており、様々な技術者タイプへの成長を支える認定として定着させることでIT技術者の質を上げていくことに貢献できればと願っています。
この方向性を明確化し、IT技術者育成の指針として頂くために、オープンテクノロジーのキャリアマップ(技術者タイプと認定マップ)を公開しています。
オープンテクノロジーのキャリアマップ(技術者タイプと認定マップ)
このキャリアマップでは、技術者タイプに応じた価値ある認定を示しており、目指す技術者タイプに成長していくために活用できます。
そして今後、これを発展させていこうと思います。
従来は "効率化のためのIT" でしたが、現在は "より事業に付加価値を与えるためのIT" というふうに技術の適用範囲が広がってきています。
またその先にはAIやビッグデータ、ブロックチェーンなどの技術力を持った技術者タイプも入ってくると思います。
どの技術者タイプを目指すにしても表面的な技術や使い方を身に付けるのではなく、仕組みや意味を理解した本質的な技術者であることが重要です。
そういった理解を深めていくために、オープンソースなどのオープンテクノロジーを通じて学習していくことが有効です。
ベンダー固有の知識を先に習得してしまうと、その知識を基準に物事を考え、理解するようになってしまうため、それを支える技術などの仕組みを理解するのがおろそかになりがちです。
今求められる技術者というのは、技術の仕組みを理解し、しっかりした自分の考えを持ち、日々変わる技術にも対峙していける技術者ですから、このオープンテクノロジーのキャリアマップを是非活用頂ければと思います。
このように様々な技術者タイプがありますが、従来のシステムのアーキテクチャを理解し、クラウドを支える技術も理解しているなど複数の技術者タイプの多方面に渡るスキルを持ち合わせている人は、さらに価値が高くなります。ですから、なりたい、あるいは育成したい技術者像をイメージし、複数の技術者タイプの認定を取得していけば、より価値のある技術者になれると思います。
こうした中、ITの現場ではシステム要件を理解し、様々な技術を価値に変えていける、複数の専門的な技術を理解した上で、実現可能なアーキテクチャを描ける人材が求められています。
そのようなアーキテクチャを描けるエンジニアを新しいLevel3の資格にしようか議論しています。
我々が目指すのは、技術的にシステムの中まで見切れているアーキテクチャがわかるエンジニア、つまり、失敗しないシステムを設計できる人です。
もちろん今のLevel3のような専門要素も理解している技術者ですので、我々が検討している新しいLevel3の認定はそこそこ難しいということになりますね(笑)。ですが、これが今グローバルでも一番求められている人材ではないかと思っています。
また、こういった人材が設計したシステムを具現化できる人としてレベル2技術者を位置付けているので、レベル2技術者にもアーキテクチャの要素を入れています。
また最近では、パブリッククラウドの技術者にも注目が集まっていますが、ただ表面的にパブリッククラウドの使い方を知っているだけではこの仕組みに使われるだけの技術者になりかねません。
これをしっかり使いこなすことが必要です。
やはりIT技術の仕組みをしっかり押さえ、自分自身の中に技術の軸を持っていることが大事です。
新しくなったLinuCのLevel1・Level2をはじめとするオープンテクノロジーの認定を通して、本質的な技術力を磨いて、一人でも多くの技術者が大きく成長していくことを願っています。
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