少子化や新しい働き方の登場で生産性の向上が多くの企業で課題として挙がっています。その課題を打破する手段としてRPAツールの導入を検討する企業が増えていますが、一方で導入後に思うような業務改善を実現できないケースも少しずつ見られるようになってきています。
今回はRPAの市場動向や求人データから、RPAソフトが抱える課題や、RPAエンジニアの将来性・今後の需要などについて紹介していきます。
1. RPAエンジニアは将来性が豊かな職業か?
昨今、金融業界をはじめとする多くの業界でRPAツールの導入が進んでいます。それに伴う現在のRPAエンジニアの需要高は、今後どのように変化していくでしょうか。
RPA(Robotic Process Automation)とは、コンピュータを用いて作業を自動化する考え方のひとつです。
詳細な定義はこちらの記事で解説しているので、興味のある方は是非ご覧ください。
今回はまず『本当にRPA市場は拡大するのか』『市場拡大のネックになることはないのか』を解説し、さらに転職市場におけるRPAエンジニアの現在とこれからについて解説していきます。
1.1 RPAエンジニアの仕事内容・必要なスキル
RPAエンジニアは主に『RPAツールを導入したい企業へのコンサルティング』と『ロボットの構築・保守・運用』を行います。
コンサルティングでは業務をRPAで自動化するための発想力が問われます。
また、ロボット構築・保守・運用では機能や対象業務の拡張を行うためにプログラミング言語を扱うスキルも必要です。
さらに具体的な仕事内容と求められるスキルについてはこちらで解説しています。
1.2 『RPAはノンプログラミングで業務自動化可能か』が議論のポイント
RPAはプログラミングをせずとも、GUIの操作でロボットを構築できます。
よってプログラミング知識がないスタッフでもロボット構築して業務自動化可能ということが大きなメリットとされており、たとえばNTTグループが開発したRPAツール『Winactor』では、ユーザのPC操作を録画して自動でシナリオを生成する機能があります。
ただし『ではRPAはノンプログラミングで、業務レベルの高度な自動化ができるのか』と問われると、必ずしもその通りであるとは言えないのが現状です。自動化する業務が複雑になればなるほど、プログラミングの知識がないと実現できないケースが増えていきます。
そのため導入時に想定したほどの自動化が進まなかったり、エラー対応や内部スタッフのサポートのためにITスキルの高いスタッフを常駐させる必要が出てくる場合があります。
またRPAの適用範囲が広がれば広がるほど、エンジニアが直接開発を担当したとしても実装工数が大きく、結果として導入時の予測ほどには効率化に繋がらないリスクもあります。
このようにRPAは期待値と実態に乖離があり、今後は市場自体の拡大は継続するものの、効果検証のタイミングで撤退する企業も数多く出ることが予測されます。
2. RPA市場は本当に拡大していくのか?
RPAには人材不足や新しい働き方に伴う生産性向上のニーズを解決する期待が寄せられている一方で、過剰な理想と実態とのギャップで導入後に思うような業務改善できないケースも見受けられます。
今後のRPA市場の展開を探るべく、以下でRPAの市場動向や求人データなどについて見ていきましょう。
2.1 RPA市場の成長予測・需要予測
社会的認知の高まりと日本語化の進展によりブーム的に導入が増加したRPAツールですが、過度な期待と実態のギャップで『単なるRPAツールの導入だけではななく、RPA活用のための環境・業務整理が必要』『精度向上・自動化領域拡大のためにはAI等周辺技術の連携が有用』という認識が市場に広まりつつあります。
そのため今後のRPA市場は、全体としてはさらなる拡大を続けていくものの、その内訳としてはRPAツール製品そのもの売り上げより、さらなる自動化・効率化のためのRPA関連サービスの売り上げが伸びていくことが予見されています。
その具体的な売り上げ比は、矢野経済研究所の予測によると2022年度にはRPAツール製品が全体のおよそ21%であるのに対し、RPA関連サービスは全体のおよそ79%を占めることになると想定されています。
参照元:RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)市場に関する調査を実施(2018年)|矢野経済研究所
一方RPA国内市場は全体として、大きな拡大が予測されています。
株式会社富士キメラ総研の分析によるとRPA国内市場は、2023年度には、2018年度の2.4倍の売り上げである535億円の市場規模へと成長することが予測されています。
参照元:『ソフトウェアビジネス新市場 2019年版』まとまる(2019/10/24発表 第19088号)|富士キメラ総研
2.2 RPA関連求人の動向・市場需要調査
RPAはGUI操作で業務自動化のロボット構築が可能です。そのためプログラミング言語と比べて学習コストが低く、IT部門以外の人材をRPA人材へと育成することもできます。
たとえばLIXILでは、RPA人材をグループ内で700人育成するプロジェクトも立ち上がっています。
複数の企業が統合することで誕生したLIXILでは、情報システムの担当者が基幹システムの統合作業に取り組んでおり、RPAの導入や保守を担当するには手が足りないという課題がありました。
この課題を解決するためにLIXILは、『業務部門の担当者自らが、RPAのロボットを構築できるよう教育する』という方針を採りました。
参照元:LIXIL、RPA人材をグループ内で700人育成|JDIR
このような事例をはじめ、多くの企業でRPAを活用できる人材のニーズが高まっています。
このことは求人検索エンジン『スタンバイ』の求人動向調査にも現れており、『RPA』の単語が含まれる求人数は1年間で6.4倍、『RPAエンジニア』が含まれる求人数は9.1倍に増加しています。
2.3 RPA市場の成長予測への疑問点
RPAには『不要論』が根強いのもまた事実です。
たとえばRPAツールはノンプログラミングをうたいながらも、実際には変数や繰り返し処理などプログラミング知識が必要になるケースが多いため、RPA導入後に適切なIT人材を投入できない場合、効果的な業務効率化を実現できない可能性があります。
また、RPAツールは万能ではありません。
いくら定型作業の自動化・効率化ができるとはいえ、そもそも必要な業務とそうでない業務の取捨選択ができていない状態だと、ロボット構築のための要件定義ができずに破綻してしまう場合もあります。
さらに『自動化がうまくいかなかった時のデバッグをどうするのか』『マウス操作の自動化をせずとも、指示した通りにアプリケーションを動作させてくれるREST APIを利用した方が正確かつ効率的ではないか』などの問題点も残っています。
このようにRPAには多くの課題があり、今後の展開によっては撤退企業が増え、調査会社が予測するほど市場が大きくならない可能性もあります。
3. RPAエンジニアは転職市場で有利か?
拡大するRPA市場の一方で、転職市場におけるRPAエンジニアの需要はどのような状況となっているのでしょうか。
RPAエンジニアに求められている現状のスキルと、それらのスキルの立ち位置を踏まえた上で、転職市場におけるRPAエンジニアの傾向を紹介していきます。
3.1 【前提】異業種からの転身がしやすい職種の1つである
RPAエンジニアに求められるスキルの多くは、他の分野のIT技術者であっても共通もしくは関連するものが多いです。RPAツールとの連携を行うVBAのスキルや、ブラウザ操作自動化を行うSeleniumやPuppeteer、iMacrosなどの既存技術は、RPAエンジニアでなくともテスト工程や日々の業務の自動化のために活用される技術です。
さらに『コミュニケーション能力』や『顧客の要望をシステム要件に落とし込む能力』もまた、RPAのプロジェクトのみならず、全ての分野のシステム開発で必要とされる能力です。
そのためRPAエンジニアは、異分野のIT技術者として働いていた人材にとっても転身しやすい職種の1つであるといえます。
3.2 RPAエンジニアは『要件定義力』『顧客対応力』が評価される
RPAは『業務のどの範囲からどの範囲までを自動化するのか』『どこからどこまでを人間の役割として残すのか』『メンテナンスはどのように行うのか』『運用ルールはどのように定めるのか』という、細かな要件定義力が求められます。
特に小規模~中規模案件では、要件定義からテストまでを一人のエンジニアが一気通貫で担当するケースも多く、エンドユーザーと直に触れ合うことが多く、顧客対応力が評価されやすい傾向にあります。
こういった事情によりRPAエンジニアは、技術力としては必ずしも高く評価されるわけではないが、マネジメント力や要件定義力などを含めた総合力に強みのある人材は高評価を得られる仕事であるといえます。
3.3 テクニカルスキルとしては『ニッチ』かつ『変化』が予測されることも事実
RPAは現在、発展途上の段階にあります。
RPAには定型的な作業を自動化する『RPA1.0』、AIや自然言語処理を利用して非定型作業を自動化する『RPA2.0』、自律的なAIによる柔軟な判断が可能な『RPA3.0』という発展段階の分類があるのですが、現在のRPAはまだ『1.0』の段階にあります。
そのため今後の展開次第では、流行っていたRPAツールが廃れるという可能性も十分に考えられます。
またRPA2.0への移行が進めば、RPAエンジニアにはAIや機械学習のスキルが求められるようになる可能性もあります。
これらのことを踏まえると現時点でのRPAのテクニカルスキルは、今後も変化せずに長期間用いられる続けるデファクトスタンダードというよりは、今後廃れる可能性も考えうる『ややニッチな技術』という位置付けになります。
4. まとめ
調査会社の予測では今後拡大が見込まれるRPA市場ですが、導入にあたっての理想と実態のギャップから、今後RPAから撤退する企業も出てくる可能性も想定されます。そのためRPA市場としての将来性は基本的には高い水準を保っているものの、懸念点がないとは言い切れない状態であるといえます。
またRPA自体の発展で今後ツールとの連携に必要なスキルが変化することも予測されており、現時点のRPAエンジニアに求められるテクニカルスキルと、将来のRPAエンジニアに求められるテクニカルスキルが変わる可能性もあります。そのため、RPAエンジニア一本でIT技術者としてのキャリア形成をしていくためには、今後の変化に対応するためにAIや要件定義力など幅広いスキルを養う必要があると言えます。