ネットワークエンジニアはITエンジニア未経験の人でも、比較的チャレンジしやすい職種と言われています。
一方で、「将来性が低い」「やめとけ」などのネガティブな意見を目にすることも多く、転職を躊躇してしまう人もいるでしょう。
そこで今回は、気になるネットワークエンジニアの将来性について解説します。
ネットワークエンジニアの仕事内容や役割といった基礎知識を始め、クラウドの普及による変化といった現状や、求められるスキルまで詳しく紹介。ネットワークエンジニアへの転職を考えている人は、ぜひ参考にしてください。
1. ネットワークエンジニアとは?定義とサーバーエンジニアとの違い
ネットワークエンジニアの将来性を理解するためには、まず基礎知識を理解することが大切です。以下で、ネットワークエンジニアの定義やサーバーエンジニアとの違いについて解説します。
1.1 ネットワークエンジニアの定義
ネットワークエンジニアとは、お客様の要望に合わせてコンピューターネットワークの設計・構築・保守・管理を行うITエンジニアです。
ネットワークエンジニアは、普段当たり前のように使っているネットワークの基盤となる通信環境を支えている存在と言えるでしょう。
他のITエンジニアと比較すると、プログラムを作成するといったコーディングを行うことは少なく、ルーター・スイッチ・LANケーブルといったハードウェアを扱う機会が多いことがネットワークエンジニアの特徴です。
1.2 サーバーエンジニアとの違い
ネットワークエンジニアとよく似ている職種として混同されやすいのがサーバーエンジニアです。
ネットワークエンジニアは、スイッチやルーターといったネットワークの経路の設計・構築・運用を担当。サーバーエンジニアはLinuxやWindows ServerといったサーバーのOS、仮想化やクラウドを含めたミドルウェアといったサーバー周辺の設計・構築・運用を担当するといった違いがあります。
ただし、どちらのITエンジニアもITインフラを構築するという目的は共通していますので、2つの職種を総称してインフラエンジニアと呼ぶこともあります。
そのような理由から、事業会社ではネットワークエンジニアという肩書きを持つエンジニアは少ない傾向にありますので、ネットワークエンジニアを目指すのであれば、事業会社や自社サービスの会社ではなく、データセンターや、IoTに携わる会社を転職先として選択すると良いかもしれません。
サーバーエンジニアについて詳しく知りたい人は、以下の記事も併せてご覧ください。
2. ネットワークエンジニアの仕事内容(役割)と流れ
ネットワークエンジニアの要件定義・設計・構築・運用といった仕事内容と、どのように仕事が進んでいくのかという流れについて解説します。
2.1 仕事内容・役割
まずは、ネットワークエンジニアの仕事内容について見ていきましょう。
- 要件定義
- ネットワーク設計
- ネットワーク構築
- ネットワーク運用
- 保守・監視
といったネットワークエンジニアのおもな仕事内容について、以下でそれぞれ解説します。
2.1.1 要件定義
新規ネットワークシステム構築や既存ネットワークシステムのリプレースなど、顧客はネットワークの構築の依頼に際して、それぞれ目的を持っています。
そのような顧客の要望をまとめた要件定義書(RFP)に基づき、ネットワークシステムの構築に関する提案を行って合意を得るフェーズです。
この要件定義のフェーズでは、顧客のシステムの最適化のためのコンサルティングが含まれる場合もあります。
2.1.2 ネットワーク設計
要件定義に基づいて、
- ネットワークの構成
- 使用するネットワーク機器の種類や数
- 使用するネットワーク回線
といった、ネットワークの基本設計と詳細設計について決めるフェーズ。
- より詳細な要件定義の実施
- 基本設計と詳細設計における設計資料の作成
- ネットワーク機器のパラメーター定義
- コンフィグの作成
- テストのための資料の作成
などを実施するため、豊富な設計経験と構築経験を持ったネットワークエンジニアが担当するケースが多いです。
2.1.3 ネットワーク構築
ネットワーク設計で立てた設計資料とコンフィグなどに従って、ネットワークを構築していくフェーズです。
- ネットワーク機器の設置
- ケーブル接続
- ネットワーク機器へのコンフィグ投入
- 動作確認
- 単体テスト
- 正常系テスト
- 障害テスト
などが一般的にネットワーク構築のフェーズの作業に含まれます。
2.1.4 ネットワーク運用
構築したネットワークの運用を開始し、顧客の要望にあったネットワークへと最適化するために機器の設定変更や構成変更を行うフェーズ。
ネットワークを構築するだけでなく、運用のサポートを行うこともネットワークエンジニアの重要な業務の1つです。
2.1.5 保守・監視
安定した運用が行える状態になったら、それを維持するために保守と監視を行います。
ネットワークシステムは、機器故障・サイバー攻撃・人的要因などから、故障やトラブルが発生します。それをいち早く察知し、影響を最小限に留めることはとても重要です。
トラブルや故障の原因に応じて、機器の操作や機器交換などを行って対処します。
2.2 仕事の流れ
上記で解説した要件定義・設計・構築が上流工程となり、それに基づいて対応を行う保守・運用・監視は下流工程となります。
以下で、ネットワークエンジニアの仕事の流れについて見ていきましょう。
2.2.1 要件定義、設計、構築は「上流工程」
要件定義・設計業務・構築業務は、ネットワークシステム構築の上流工程。
最も責任が重く、担当するITエンジニアに豊富な経験が求められるのが要件定義です。顧客から要望のヒアリングを行い、要件定義書を作成してプロジェクトの管理を実施するため、プロジェクトの成否に大きく関わります。
そのため、担当するITエンジニアにはネットワークエンジニアとしての豊富な経験は必須。さらにコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力も求められます。
設計業務は要件定義に次いで重要です。要件定義に基づいてスケジュールの設定・論理構成設計・物理構成設計など、要件定義を具体的な作業へと落とし込んでいきます。
この設計業務がしっかりと行われなければ、要望を実現するネットワークが構築できず差し戻しが起こったり、プロジェクトがスケジュール通りに進まなくなったりといった事態が発生してしまうでしょう。
構築業務では、機器の発注と配置・配線・機器設定・テスト・バグ修正などを行います。
2.2.2 保守、運用、監視は「下流工程」
保守・運用・監視は、ネットワークシステムの構築における下流工程。この下流工程は、上流工程を担当する企業から依頼を請けて、別の企業が担当するケースも見られます。
運用業務では、状況に応じた設定変更や古くなった機器の交換などを実施。保守業務では、障害発生時の原因特定や機器交換などの復旧作業を行います。
監視業務では、ネットワーク機器のログ管理やアラート検知や調査を行い、ネットワークシステムのトラブルや故障が発生した際の影響を最小限に留める役割を担います。
3. ネットワークエンジニアの将来性と需要について
ネットワークエンジニアの現状の需要や将来性について、以下で解説します。
3.1 ネットワークエンジニアの現状
近年では、クラウドプラットフォーム上に構築したネットワークを利用する企業が増加傾向。導入コストやランニングコストをかけてネットワークを構築する企業は減ってきており、従来の技術だけに限定されるネットワークエンジニアは厳しい状況になっていくでしょう。
一方で、IPA(情報処理推進機構)が公開した「2019年度組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」によると、無線通信・ネットワーク技術は現時点で重要な技術や今後獲得したい技術で上位に位置しています。
「現時点で重要な技術」として企業が1番目に挙げている割合を見ると、設計・実装技術に次ぐ2位。「強化・獲得したい技術」として企業が1番目に挙げている割合を見ると、AI・IoT・ビッグデータに次ぐ4位に位置しています。
このことから、ITビジネスの基盤となるネットワークに関する技術には、堅調なニーズがあることが伺えるでしょう。
ネットワークエンジニアに求められる技術は変化してきていますが、すぐに仕事を失う可能性は低いです。それに安心せず、既存の技術に限定されない付加価値を持ったネットワークエンジニアになることが、将来性を高める上で重要と言えるでしょう。
参照:「2019年度組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」の調査結果を公開|IPA
3.2 ネットワークエンジニアの将来性
ネットワークエンジニアの将来性について、
- クラウドの普及
- オンプレミスへの回帰の流れ
- オンプレミスの技術がクラウドの活用に重要である理由
といった観点から詳しく見ていきましょう。
3.2.1 クラウドの普及
クラウドの普及は、ネットワークエンジニアの将来性に大きな影響を与える重要な要素です。
各事業会社で構築や保守運用を行っていたネットワークやサーバーが、クラウドの普及によって外部に移行します。
これにより、サーバーやネットワークの設置・管理・運用といった現地で手を動かす作業に対する仕事量が大幅に減少。そのため、ネットワーク構築を担っている事業会社には、上流工程に力を入れることやクラウドでのオンプレミスのノウハウの活用方法の模索が求められています。
3.2.2 オンプレミスに回帰する流れも存在
一方で、オンプレミスにカスタマイズ性の高さやコスト優位性などのメリットがある場合も。企業によってはクラウドからオンプレミスに回帰するという流れも見られます。
オンプレ回帰の例として真っ先に挙げられることが多いのが、オンラインストレージサービスでおなじみの米Dropboxだ。
エリック・シュミットの「クラウドコンピューティング」発言から2年後、08年に正式サービスを開始した同社は、当初からデータセンターと併用してパブリッククラウドのAWS(Amazon Web Services)を活用してきた。しかしサービスが急成長し、膨大な量のデータを抱えるようになったことで、全てを自社インフラで対応する方が望ましくなると判断。14年にAWS利用を停止することを決定し、実際に15年にデータセンターへの移行を完了させた。
出典:海外で進む「オンプレミス回帰」その背景に何があるのか|ITmedia NEWS
Dropboxはサービス開始当初からAWSを利用していましたが、細やかなカスタマイズや調整が可能で、コストやパフォーマンスといった面でメリットが得られるオンプレミスにインフラを移行しました。
また、Dropbox以外にも、セキュリティ・コスト・パフォーマンスなどを理由にパブリッククラウドからオンプレミスへの移行を決める企業は少なくありません。
このことからも、オンプレミスにおける根幹的な技術を持つネットワークエンジニアは、クラウドへの移行が進んだとしても一定の需要が見込めると言えるでしょう。
3.2.3 オンプレミスの知識はクラウドを「使い倒す」ためにも重要
オンプレミスにおけるネットワークに関する知識は、クラウドを使い倒すためにも重要です。
DeNAのクラウドへの移行がそのよい例と言えるでしょう。DeNAは、コストと品質面でともに最高レベルのオンプレミス環境を実現していましたが、2018年6月に全社方針としてクラウドへの移行に舵を切りました。
その際に、QCD(Quality・Cost・Delivery)の観点において、クラウド派とオンプレミス派の意見が対立したのはコスト面。
減価償却済みのサーバーを使い続ける運用と比較すると、クラウドシフトによってコストが3倍になるという試算に。しかし、豊富なネットワーク運用の経験があるDeNAのネットワークエンジニアが頭脳と工数を使えば、現在のコストに近づけられる可能性もありました。
コスト面がクリアされたことで悩んだ南場智子氏はCTOの「優秀なエンジニアを創造的な仕事にフォーカスさせたい」という意見が決定打となり、クラウドへの移行を決断。
それにより、DeNAはこれまでのオンプレミスにおける技術の蓄積によってGCP(Google Cloud Platform)のカタログスペック以上のことを実現できました。結果として提案がGCPに反映されていくなど、世界的にインパクトを与える決断となった成功例と言えるでしょう。
このように、クラウド上に構築するネットワークの可能性を拡げて活用するためには、従来のオンプレミスでの技術がとても重要となるのです。
参照:【ノーカット掲載】オンプレミスかクラウドか。社内を二分する論争にDeNA南場智子が出した"答え"|フルスイング
4. ネットワークエンジニアに必要なスキル
ネットワークエンジニアをこれから目指したいと考えている人向けに、
- TCP/IPの基礎知識
- OSI参照モデル
- クラウド関連の知識
といった必要となる知識について解説します。
4.1 TCP/IP全般の基礎知識
ネットワークの専門家であるネットワークエンジニアに必須のスキルが、TCP/IP全般に関する基礎知識です。
TCP/IPとは、インターネットで標準利用されている通信プロトコルの総称です。 実際には、TCP(Transmission Control Protocol)とIP(Internet Protocol)だけではなく、UDP・ICMP・HTTP・Telnet・SSHといったさまざまな技術で成り立っています。
TCP/IPにおける
- アプリケーション層
- トランスポート層
- ネットワーク層
- リンク層
の4つの階層モデルは、後述するOSI参照モデルと併せて学習すると理解しやすいでしょう。
4.2 OSI参照モデルの知識
ネットワークエンジニアには、業務領域となるOSI参照モデルの第1層から第4層までの知識が必要です。
OSI参照モデルは、ISO(国際標準化機構)によって取り決められたネットワークの通信機能を7階層で表した分割モデルです。
階層によって必要となる技術が異なり、番号が小さくなるほど物理的なレイヤーになっていきます。
一般的にはソフトウェアに近いアプリケーション層から記述しますが、今回はわかりやすいように物理層から順番に記述しました。
- 物理層
→物理的接続、電気信号 - データリンク層
→隣接する機器同士の接続 - ネットワーク層
→ネットワーク上の通信経路の選択 - トランスポート層
→エラー訂正や再送制御 - セッション層
→通信の開始から終了までの通信手段を管理 - プレゼンテーション層
→データの表現、圧縮方式、文字コードなどの定義を管理 - アプリケーション層
→メールやWWWなどのアプリケーション
ネットワークエンジニアは業務に関わる第1層から第4層までの知識を深く理解し、基本知識としてOSI参照モデルの全体を把握しておく必要があります。
4.3 クラウド関連の知識
クラウドの普及に対して対応できるネットワークエンジニアとなるためには、クラウド関連の知識も不可欠です。
ネットワーク仮想化(SDN)やそれに関連したOpen Flowの知識を最低限学んでおくとよいでしょう。AWS(Amazon Web Services)やGCPといったクラウドサービスの知識も学んでおくと、将来性がさらに高まるのでおすすめです。
仮想化技術やWebアプリケーションなどを理解した提案が行えるネットワークエンジニアとなるために、RubyやJavaといったプログラミングに関するスキルも身に付けておくとさらに活躍の場が広がります。
5. まとめ
インターネットが社会のインフラとしてなくてはならないものとなった現代において、ネットワークエンジニアは安定した需要のある職業と言えます。
一方で、クラウドの普及によって、ネットワークエンジニアに求められる技術も変化してきていることも事実。
そのため、ネットワークエンジニアはITエンジニア未経験からでも比較的チャレンジしやすい職種ですが、市場価値を高めていくためにはクラウドに関する知識やプレゼンテーション能力など幅広い技術力を身に付ける必要があります。