フリーランスになるための各種手続きや、フリーランスを取り巻く「月収」や「人口」など市場環境を解説。未経験・スキルなしから独立する際のポイントも紹介します。
1.「未経験&スキルなし」からフリーランスになることは難しい?
一般的に「実務未経験」や「スキルなし」の状態からフリーランスとして独立するのは、難しいです。総じて、基本的には実務経験を数年程度積んでから独立することが望ましいでしょう。実務経験が少ない場合も、資格取得などを通じて最低限のスキルは独立前に事前に身につけておきましょう。
1.1「未経験&スキルなし」の独立が難しい理由
「未経験&スキルなし」からの独立が困難な理由には、主に次の2つが挙げられます。こうしたハードルを踏まえてもなお「未経験からフリーランスとして独立したい」方は、本記事の後半で紹介するフリーランサーの方のインタビュー記事も参考にしてください。未経験からフリーランスとして実績を積むためのアクションプランの参考になるでしょう。
■ 案件獲得の手段が限られる
フリーランサーは即戦力として期待されます。「育てる対象ではない」と認識されている場合がほとんどであり、契約の際にはこれまでの実績が重視されます。従って契約条件もややハードルは高めであり、未経験やスキルのない状態では条件を満たすことが難しいのです。いわゆる「コネ」による紹介ではハードルが下がることもありますが、これも経験したことのない業界の場合は人脈をたどるのも難しく、厳しい戦いとなるケースが多いです。
■ 単価が低くなる
同じ報酬を支払うのなら、やはりスキルの高い人材から採用されていくのは道理です。そのため未経験やスキルなしの状態で案件を獲得しようとすると、どうしても単価が下がってしまうのです。作業量に対して割に合わず、フリーランスになるよりアルバイトをした方がいいという結果になることも。
2.「フリーランス」の働き方の現状
「未経験からフリーランスになる」ことのハードルの高さは前述の通りです。では「フリーランスとして実際に稼げている人はどれくらいいるのか」「そもそもフリーランス人口は国内でどれくらいなのか」といった点が気になる方も多いのではないでしょうか。 フリーランス人口や、「フリーランスで月収10万円以上の人の割合」などについてご紹介します。
2.1 フリーランス人口の変化
フリーランス人口は近年、一気に急増しています。ランサーズ株式会社が2021年に行った「フリーランス実態調査 2021」によると、フリーランス(「副業系すきまワーカー」「複業系パラレルワーカー」「自由業系フリーワーカー」「自営業系独立オーナー」という4形態の合算値)として働く人口は、2020年から57%増加し「1,670万人」となりました。 なおその数は全労働人口のうち24%を占め、かつ経済規模も昨年より10兆円近く増加の28兆円に達しています。
2.2 代表的なフリーランスの職種と仕事内容
フリーランスの代表的な職種のうち「Webライター」「Webデザイナー」「プログラマー」の3つの職種をピックアップし、仕事内容や必要なスキル、想定月収などを一覧で比較してみました。
職種 | Webライター | Webデザイナー | プログラマー |
---|---|---|---|
主な
仕事内容 |
Webメディアなどの原稿を執筆。必要に応じて写真撮影するなど素材の用意も行う | 依頼主の希望に沿うように、Webサイトの見た目(画像や文章のレイアウト)を作る | 決められた仕様(設計書)にもとづいてシステムを実装する。必要に応じてテストも行う |
必要な
スキル |
・ライティングスキル ・コミュニケーションスキル |
・デザインスキル ・HTML等の基礎知識 ・Webマーケティングに関する知識 ・コミュニケーションスキル |
・プログラミングスキル ・コミュニケーションスキル |
想定月収
(単価) |
1~50万円
(文字単価や執筆本数、専属契約の有無などによる) |
30~60万円 | 20~100万円 |
2.3 フリーランスで「月収10万円以上稼いでいる人」はどれくらい?
最も多いのは年収100万円未満です。
出典:フリーランス実態調査結果|内閣官房日本経済再生総合事務局
フリーランス人口は急増していますが、その内訳としては「主たる生計維持者ではない人が本業として行う」場合や「本業が別にある人が副業として行う」場合が多いことを意味しています。つまり本業でないタイプのフリーランスの場合、多くの方が月収10万円未満となっています。
■ 主な生計者が本業としてフリーランスを行う場合
主たる生計維持者が本業としてフリーランスを行う場合、最も割合が高いのは「月収200万円以上300万円未満」の19%。
出典:フリーランス実態調査結果|内閣官房日本経済再生総合事務局
なお本業として行う場合は、80%程度の方が月収10万円以上を達成しています。新たにフリーランスになる場合、「本業ではない場合」も「本業」でも月収10万円が第一の目標値と言えるでしょう。
3. フリーランスになるために必要な手続き
これからフリーランスになるためには、どういった手続きが必要なのでしょうか。「下準備」「開業手続き」「開業後」の3つのフェーズに分けて、必要な手順をご紹介します。
▶ 【急がば回れ】フリーランスになる前にやるべき準備について徹底解説!-【Relance】
3.1 下準備編
自営業と同様に、フリーランサーは正社員よりも収入が安定しづらくなります。するとクレジットカードや住宅ローン、カーローンの審査で苦戦することが増えます。家や車のローンを組む場合は、正社員のうちに済ませておきましょう。同様にクレジットカードの利用枠の引き上げなどもしておきましょう。
3.2 開業手続き編
開業するにあたり必要な手続きには、次のようなものがあります。
■ 開業届を出す
個人事業主として正式に働く場合、開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を税務署に提出する必要があります。開業後一か月以内に提出しなければならないため、注意が必要です。なお提出の際には、印鑑と身分証明書の持参が必要です。
■ 青色申告承認申請書の提出
個人事業主の確定申告では「白色申告」と「青色申告」の2種類から選ぶことができます。本格的にフリーランスとして活動する場合は「青色申告」がおすすめです。申告内容が複雑にはなりますが、控除を受けられる枠が増え、赤字の繰り越しが三年間可能になるというメリットがあります。
■ 健康保険の切り替えを検討
会社の健康保険に加入している場合、退職後も二年以内であれば継続利用が可能です。しかし以降は国民健康保険に切り替える必要がありますので、計画的に準備を進めておきましょう。
■ 厚生年金から国民年金への切り替え
健康保険とは異なり、厚生年金は継続利用ができません。退職日から14日以内に、居住地の役場で国民年金への切り替え手続きが必要なので忘れないように気を付けて下さい。
手続きに行く際に必要なものは、次の5点です。
• 年金手帳
• 身分証明書
• 印鑑
• 退職日を証明できる書類(退職証明書など)
• 支払いの手続きに必要なもの(クレジットカードや通帳など)
3.3 独立後編
独立したら、フリーランスとして受注する案件を探すことが必要です。「個人で営業する」「エージェント経由で仕事を探す」など様々な方法がありますが、いずれの場合も契約の手続きが必要です。
またフリーランスの場合、毎年の確定申告が必要です。確定申告には期限がありますが、初年度は戸惑うことも多いため、早めの着手がおすすめです。
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4. 実際に未経験・スキルなしからフリーランスになったエンジニアの例
未経験・スキルなしからフリーランスになった方はどのように行動したのか、インタビューを例にご紹介します。独立まで~独立後のアクションプランの参考にしてください。
4.1 金融機関の営業から交通事故をきっかけにエンジニアに転身した女性
金融系企業の営業職だった矢島さんは、交通事故によって一時仕事を休んだことがエンジニアに転職を考えることになったきっかけでした。現在はITアシスタントという部署で、PCのキッティングやシステム操作方法のレクチャーなどを行う業務についていらっしゃいます。今後フルタイムの出勤から在宅勤務への移行を希望しており、それに必要なスキルの習得も進めています。
4.2 29歳から勉強を始めて美容師→エンジニアに転身した男性
美容師をしていた貴田さんは、仕事や収入の厳しさをきっかけにフリーランスエンジニアに転向しました。勉強は苦手とのことですが、動画サイトなどを利用して効率よくスキルアップしているとのことです。なお独立当初はフリーランスだからとプレッシャーを感じていたものの、どこの現場でも正社員同様に扱われて、良い意味でのギャップを感じていらっしゃるそうです。
5. フリーランスエンジニア向けのおすすめ求人の動向
フリーランスエンジニアの近年の求人動向として、まず収入面についてはプロエンジニアで扱っている求人案件によると、かけだし向けの案件は「月収30~40万円」から。アッパー層向けの案件になると、「月収150万円(年収1800万円)」というものもあります。
それでは、仕事内容別に詳しく見ていきましょう。(プロエンジニア調べ)
5.1 ヘルプデスク系
■ どんな案件が多いか
ヘルプデスク系とされている求人の主な作業場所は、非IT企業内のIT部門です。例えば、大手小売企業(良品計画など)や、不動産企業(〇〇都市開発など)、エネルギー(〇〇ガスなど)等が顧客になります。
作業内容は、主に勤務先の社員が使用するPCのキッティング(セットアップ、各種ソフトウエアの導入等)、IT関連トラブルへの対応、社員に対して新システムの使い方のレクチャーを行うことが多いです。
■ 平均月収・年収の目安
ヘルプデスク系案件の平均月収は、チームメンバークラスであれば35~45万円程度がボリュームゾーンです。リーダークラスであればそれ以上の案件もありますが、一般的なヘルプデスク案件のMAX月収目安は55万円ほどです。
なお月収55万円を提示する案件の場合、前述の作業内容を一人でこなすことが出来るのは大前提として、インフラ(サーバー・ネットワーク等)に関する知識や、メンバー管理経験も求められます。
■ 求人動向
ヘルプデスク系の案件は、そもそもの件数が少ない状況です。理由はそのポジション柄、企業の内部情報に触れやすいこともあるためです。そのため各企業の社員が担うことが多くなっています。
また、技術だけでなく各企業の業務フローや独自の『お作法』を覚える必要もあります。人の出入りを激しくしたくないことから、フリーランスのような期間の定めのある契約の場合、短期で離脱されるリスクがあるため、その他のエンジニアよりも募集が少なくなっています。
■ 身につけておくべきスキル
ヘルプデスク系案件を受注したい場合、次のようなスキルを身につけておく必要があります。
• MicrosoftOffice(Word、Excel、Powerpoint)
• Active Directoryに関する知識
• マクロ・VBAに関する知識(既存のマクロを修正出来るレベルは必須)
• WindowsOSの知識(OS、HW故障時の対応)
• ネットワークの知識(障害時の1次切り分け)
• AWS、Azure、GCP等クラウド製品のサポート経験(製品問わず)
• LinuxもしくはWindowsサーバーの運用、保守経験
5.2 ネットワークエンジニア系
■ どんな案件が多いか
金融系企業(銀行、証券、保険 等)、社会インフラ企業(エネルギー、通信キャリア、交通(鉄道、航空、道路))等、大規模かつ大手の企業での案件が多い傾向があります。
■ 平均月収・年収の目安
ネットワークエンジニア系案件の平均月収は、メンバークラスであれば40~60万円ほどがボリュームゾーンです。リーダークラスであればそれ以上の案件もありますが、一般的なネットワーク案件のMAX月収の目安は80万~90万ほどです。
80万以上の月収を得られる案件の場合は、ネットワーク担当として顧客との折衝やネットワークの設計や構築はもちろん、メンバー管理や采配等リーダー的な経験も求められます。
■ 求人動向
ネットワークエンジニア系の案件は、次々と増えています。ITインフラは物理的な環境からクラウド環境に移行されてきているため、これまでの環境を刷新するための大規模な案件が増えています。
■ 身につけておくべきスキル
ネットワークエンジニア系案件を受注したい場合、次のようなスキルを身につけておく必要があります。
• NW機器に関する知識(特に、Cisco製品に関する知識)
• 英語の読解力があると尚可(新しい機器や仕組みについては翻訳されていない参考文献が多いため)
• CCNA、CCNP等の資格取得
5.3 コーダー系
■ どんな案件が多いか
企業コーポレートサイト、キャンペーンサイト等を作る案件が多数あります。サイトを作りたい企業(エンドユーザー)から直接というよりは、サイト制作専門に受託している企業や広告系企業からの募集が多いです。
業務範囲として、顧客から「こんな感じで」と伝えられたイメージをデザインし、モックアップの作成、HTML、CSSコーディングまでを行うような、UI/UXデザインも含めて対応するケースも数多くあります。
■ 平均月収・年収の目安
コーダー系案件の平均月収は、メンバークラスであれば40~55万円ほどがボリュームゾーンです。それ以上の案件では、ディレクターとして取り纏めを行ったり、フロントエンジニアとしてJavaScriptを扱える等、より幅広いスキルが求められます。
■ 求人動向
コーダーの求人は、現時点では減っています。コロナの影響でキャンペーン等が減りサイト制作のきっかけが減っているためです。そのため今後増える可能性は大いにあります。
■ 身につけておくべきスキル
コーダー系案件を受注したい場合、次のようなスキルを身につけておく必要があります。
• HTML/CSSなどを用いたマルチデバイス環境での業務上でのWebサイト実装経験
• Photoshop、Illustrataor、XDによるWebサイト制作実務経験
• WordpressやMovableType等CMSの実務経験
▶ 参考記事
Webデザイナー案件に強いフリーランスエージェントおすすめ6選【2024年最新】|Movie Works
5.4 フロントエンドエンジニア系
■ どんな案件が多いか
一般ユーザー向けサイトやWebサービスの画面部分の開発がメインです(企業内の管理画面などクローズドなものはほぼなし)。
規模の大きいサイトではコーダー案件のように制作会社での募集もありますが、『ライブ配信アプリ』や『マッチングサービス』など、スタートアップ系の企業の案件の場合はエンドユーザーから直接募集がかかる場合が多いです。
■ 平均月収・年収の目安
フロントエンドエンジニア系案件の平均月収は、メンバークラスであれば50~60万円ほどがボリュームゾーンです。TypeScriptやJavaScriptが使えることはもちろんですが、それらのフレームワークの中でもモダンなものを使いこなせたり、PHPやRuby等サーバサイド言語の経験もあるとより高い金額が狙えます。
■ 求人動向
フロントエンドエンジニアの求人は、続々と増えています。理由は、新しいWebサービスやアプリがどんどん増え続けているためです。
■ 身につけておくべきスキル
フロントエンドエンジニア系案件を受注したい場合、次のようなスキルを身につけておく必要があります。
• 言語はTypeScript、JavaScript
• フレームワークはVue.js、React.js、Next.js、Nuxt.js
5.5 サーバーサイドエンジニア系
■ どんな案件が多いか
フロントエンド同様WebサイトやWebサービスにおける開発が多いですが、こちらは管理画面開発等クローズドなものも含まれます。制作会社での募集もありますが、『ライブ配信アプリ』や『マッチングサービス』などスタートアップ系の企業の案件の場合はエンドユーザーから直接募集がかかる場合が多いです。また、ソーシャルゲーム等のサーバーサイド開発案件もあります。
■ 平均月収・年収の目安
サーバーサイドエンジニア系案件の平均月収は、メンバークラスであれば50~70万円ほどがボリュームゾーンです。JavaScriptやTypeScriptなどフロント部分の経験があったり、AWS等クラウドインフラの知見があると適性の幅が拡がり、それ以上の単価が見込めます。
■ 求人動向
サーバーサイドエンジニアの求人は、続々と増えています。理由はフロントエンドエンジニアと同様で、新しいWebサービスやアプリがどんどん増え続けているためです。
■ 身につけておくべきスキル
サーバーサイドエンジニア系案件を受注したい場合、次のようなスキルを身につけておく必要があります。
• Node.js(Express.js)
• PHP(Laravel)
• Ruby(Ruby on Rails)
• Java(SpringBoot)
• Python(Django、Flask)
• Go
6. フリーランスエンジニア向けのおすすめ資格
これからフリーランスエンジニアを目指す方に共通しておすすめしたい資格は、基本情報技術者試験と応用情報技術者試験です。これらの資格は、次のような点でおすすめです。
• 国家資格である(信用度が高い)
• 取得者数が多い(国内では抜群に知名度が高い)
• 有効期限がない(一度受かればずっと履歴書に書ける)
• 受験料が比較的安い(ベンダー試験は数万円する上に有効期限が短いものも多い)
• 試験範囲でITの基本知識を浅く広く網羅している(特にIT未経験からの転職時には、基礎の理論からしっかり押さえているとアピールすることができる)
情報処理技術者試験について詳しく知りたい方は、次の記事をご覧下さい。
7. まとめ
今回は未経験やスキルのない状態からフリーランスになる方法として、フリーランスという働き方共通の現状や難しさ、必要な手続きなどから始まり、フリーランスエンジニアになった方の実例や案件の動向をご紹介しました。未経験では良い案件を見つけるのが難しいのが現状ですが、エージェントなどのサポートシステムもあるので上手に利用してみて下さい。