「個人事業主の平均年収が気になる」「個人事業主で年収1,000万円を超える人ってどれくらいいるんだろう」「個人事業主にはどんなメリットがあるのかな」と疑問に思っていませんか。
個人事業主として働く人は増えています。しかし、実際にどれくらいの収入を得られるのかがよくわからないという方も多いですよね。
そこで今回は、
• 個人事業主の平均年収
• 個人事業主で年収1,000万円を稼ぐ人の割合
• 個人事業主になるメリット
という流れで、個人事業主の年収について解説します。
個人事業主が節税対策をするための手法も紹介しています。「個人事業主の収入や税金について詳しく知りたい」という方は、ぜひ最後までお読みください。
1. 個人事業主の平均年収の実態はどれくらい?
まずは、個人事業主の平均年収の実態について解説します。
個人事業主はサラリーマンの給料とは異なり、事業の売り上げから必要経費を差し引いた金額(所得)が収入です。
そこで、ここでは個人事業主の所得金額をもとに年収をご紹介します。
1.1 個人事業主の平均年収はおよそ400万円前後
国税庁が公表している「平成30年分申告所得税標本調査結果」によると、平成30年の個人事業主の平均年収は417万円となっています。
平成30年 | 417万円 |
平成29年 | 414万円 |
平成28年 | 410万円 |
例年の推移を見ると、個人事業主の平均年収は上昇傾向にあります。ただし、個人事業主は年収幅が広いため「年収400万円前後の人の数が一番多い」というわけではありません。あくまで個人事業主の年収を平均した金額が400万円前後ということです。
個人事業主の年収層の分布については、のちほど解説します。
1.1.1 個人事業主が納めている税金の平均額は?
平成30年に個人事業主が納めた税金の平均額は49万円です。平成28年、平成29年が48万円だったため、税金の平均額の推移はほぼ横ばいといえます。
「平均年収417万円に対して、平均税額が49万円は多いのでは?」と感じる方もいるでしょう。しかし、実際には年収417万円の人が49万円の税金を納めているわけではありません。
所得税は累進課税の仕組みを採用しているため、所得が高くなるほど税率が上がり、税金額が増えます。
つまり、高所得者が高い税率で税金を納めていることから、全体の平均納税額を押し上げているのです。
実際の所得金額あたりの平均税額は、次のように決まっています。
所得金額 | 平均税額 |
---|---|
100万円以下 | 8,300円 |
100万円超200万円以下 | 31,300円 |
200万円超300万円以下 | 66,900円 |
300万円超500万円以下 | 142,400円 |
500万円超1000万円以下 | 533,300円 |
1.1.2 申告納税者数はどれくらい?
平成30年分の申告納税者数は、全体でおよそ639万人です。そのうち、個人事業主の割合は全体の26.3%に当たる168万人となっています。
個人事業主における申告納税者数の年収(所得金額)層は多い順に次のとおりです。
• 100万円超200万円以下:44万人
• 300万円超500万円以下:37万人
• 200万円超300万円以下:36万人
• 500万円超1,000万円以下:21万人
• 100万人以下:18万人
個人事業主でもっとも多いのは、100万円超200万円以下の層であることがわかります。
その次にほぼ同じ人数で300万円超500万円以下、200万円超300万円以下が並び、その下に500万円超1,000万円以下が位置している現状です。
申告納税者ベースでは、平均年収417万円よりも低い年収の個人事業主が多いことがわかります。
1.1.3【参考】正社員の平均年収はどれくらい?
同じく国税庁が公表している「令和2年分民間給与実態統計調査」では、正社員の平均年収が433万円でした。
個人事業主の平均年収が上昇傾向にあったのに対して、正社員の平均年収は2年連続でマイナスとなっており、下降傾向にあります。
平均年収433万円の内訳は、給料と手当で369万円、平均賞与は65万円です。賞与を除くと、月収は30万7500円で、社会保険や所得税・住民税などを差し引いた手取りは23万~24万円となります。
2. 個人事業主で「年収1,000万円」を超えている人はどれくらい?
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が発行した「フリーランス白書2020」によると、個人事業主で年収1000万円を超えている人は全体の11.8%です。
個人事業主の10人に1人は年収1,000万円を超えていることがわかります。
年収分布について詳しく見てみましょう。
年収 | 割合 |
---|---|
200万円未満 | 22.5% |
200万円~400万円未満 | 22.9% |
400万円~600万円未満 | 19.9% |
600万円~800万円未満 | 11.6% |
800万円~1000万円未満 | 10.0% |
1000万円~1200万円未満 | 4.4% |
1200万円~1500万円未満 | 3.7% |
1500万円以上 | 3.7% |
個人事業主は、400万円未満がほぼ半数を占めていますが、1,000万円以上を狙うことも可能です。
3. 個人事業主の年収1,000万円と正社員の年収1,000万円の違い
個人事業主は、正社員と比較すると同じ年収1,000万円でも手元に残る金額が非常に少ないです。個人事業主には正社員にはない「働き方の自由度の高さ」があるとはいえ、この点はやはり見逃せない点ではあるでしょう。
理由は次の3つです。
• 所得控除できるものが正社員より少ない
• 税金の種類が1つ多い(個人事業税)
• 社会保険料(健康保険、年金)が全額自己負担になる
つまり、同じ年収なら正社員のほうが手取りが多くなりやすいです。
さらに詳しく見ていきます。
3.1 所得税と住民税
所得税と住民税は、所得金額に対して課税されます。所得金額が少ないほうが、課税金額が少なくなってお得です。
個人事業主と正社員の所得の計算方法は次のとおりです。
• 個人事業主の所得:年間収入−必要経費
• 正社員の所得:年間収入−給与所得控除
年収1,000万円の場合、正社員の所得は1,000万円−220万円(給与所得控除)=780万円です。
一方で、個人事業主は必要経費が変動します。220万円を超えるかどうかで、個人事業主と正社員のどちらが得かが決まるのです。
3.2 社会保険料
社会保険料とは、健康保険料と年金保険料を意味します。
健康保険の種類は、それぞれ次のとおりです。
• 個人事業主:国民健康保険
• 正社員:全国健康保険協会あるいは健康保険組合の健康保険
年収1000万円の場合、国民健康保険料のほうが高くなるので正社員が得といえます。
年金保険料の種類は、それぞれ次のとおりです。
• 個人事業主:国民年金保険(一律月16,260円)
• 正社員:厚生年金あるいは企業年金
個人事業主の国民年金保険料は、年収に関係なく月16,260円です。一方で、正社員の厚生年金保険料は年収1000万円の場合、月55,266円です。
3.3 将来の年金給付
一見すると、月あたりの年金保険料が少ない個人事業主のほうが得に思えるかもしれません。しかし、個人事業主と正社員は将来の年金受給額に大きな差があります。
個人事業主の年金保険料は、全額個人で負担している上に金額が月16,260円と少額のため、将来の年金受給額は非常に少ないです。
それに対して、正社員は個人が負担する金額に上乗せして、会社がさらに同額を負担してくれます。年収1,000万円の場合、個人と会社が負担する厚生年金保険料は合計で月110,532円です。
そのため、個人事業主より正社員のほうが将来の年金受給額は高額になります。
4. SE・IT業の場合は「個人事業主」と「正社員」どちらが得?
SE・IT業の場合、個人事業主と正社員ではおよそ月収66万円を境にどちらが得かが分かれます。月収66万円ほどまでは正社員のほうが得、月収66万円を超えると個人事業主のほうが得です。SE・IT業で独立を検討しているなら、月収66万円をひとつの目安にするといいでしょう。
年収が低いうちは正社員として働き、高くなったら個人事業主として独立するのが、生涯年収を高く維持できる選択です。
それぞれの年収について詳しく解説します。
4.1 SE・IT業の正社員の年収
SE・IT業の正社員の平均年収は575万円(平均年齢41歳)、中央値は500~600万円です。
年収575万円の場合の手取り額は、およそ447万円となります。
年収の内訳は次のとおりです。
年収 | 5,750,000円 |
---|---|
健康保険料 | 250,980円 |
介護保険料 | 18,894円 |
年金 | 512,724円 |
所得税 | 192,200円 |
住民税 | 297,600円 |
手取り額 | 4,477,602円 |
20歳から60歳まで40年間働いた場合、手取りの収入はおよそ1億7,910万円(手取り年収4,477,602円×40年)+退職金です。
正社員は給与・賞与以外に退職金と高額の年金を受け取れます。
退職金 | 1,916万円 |
---|---|
年金(65歳~83歳(日本人の平均寿命)の18年間受給を想定) | 2,751万円 |
手取りの年収、退職金、年金を合算すると、正社員の手取りの生涯年収はおよそ2億2,577万円となります。
4.2 SE・IT業の個人事業主(フリーランス)の年収
SE・IT業の個人事業主が正社員と同じ生涯年収の2億2,577万円(手取り年収447万円)を得るには、年収795万円(月収66万3,166円)を稼ぎ続ける必要があります。
理由は、個人事業主に次のハンデがあるためです。
• 健康保険料、介護保険料が全額自己負担
• 国民健康保険料が健康保険組合より高い
• 所得控除の最大額が低いため、所得税と住民税が高い
• 個人事業税がある
• 退職金がない
• 国民年金は厚生年金より受給額が低い
個人事業主の年収795万円の見かけの手取り(左)と実際の手取り(右)は次のとおりです。
年収 | 795,800円 | |
---|---|---|
健康保険料 | 730,000円 | |
介護保険料 | 80,000円 | |
国民年金 | 195,120円 | |
所得税 | 796,100円 | |
住民税 | 619,500円 | |
個人事業税 | 252,900円 | |
自前で用意すべき退職金 | 0 | 479,000円 |
自前で用意すべき年金 | 0 | 327,750円 |
手取り額 | 5,284,380円 | 4,477,630円 |
上記のとおり、 個人事業主は年収795万円を稼いでようやく、 正社員と同じ手取り額447万円を得られます。
ただし、個人事業主は正社員のように年齢に比例して収入が上がるとは限らないため、若く稼げるときにより多く貯蓄に回さなければいけません。
5. 個人事業主になるメリットは?
正社員と同じ手取りを得るためにより多く稼ぐ必要がある個人事業主。では、個人事業主になることにどんなメリットがあるのでしょうか。
個人事業主になるメリットは次のとおりです。
• 開業手続きが簡単にできる
• 利益が少ないうちは税負担が小さい
• 税務申告が簡単にできる
• 自分で仕事量を調節できる
• 自分の働きが収入に反映される
• 人間関係の悩みから解放される
収入面だけでは単純に比較できないほど、さまざまなメリットがあることがわかります。
さらに詳しいメリットについて見ていきましょう。
5.1 正社員にはない「働き方の自由度」
個人事業主になる大きなメリットのひとつに「働き方の自由度」があります。
個人事業主は自分の働き方を自分で決められる自由度の高さが魅力です。働く時間や場所を自由に決められます。
そのため、地方や海外に移動してリモートワークをすることも可能です。納期を守れば、働く時間帯なども柔軟にできるでしょう。
また、正社員に戻って、副業として個人事業主を続けるという働き方もできます。一方で、個人事業主として収入が増えれば法人化もできます。
生涯年収が正社員を下回るリスクがあったとしても、日々の働き方の自由度が高いことは大きな魅力といえるでしょう。
5.2 節税対策の手法もさまざま
個人事業主は、所得税・住民税・個人事業税などの税金が高くなりやすい一方で、節税対策の手法があります。
年金制度や共済、節税対策の手法などを活用することで、働き方の自由度を保ちながら、将来に向けた備えが可能です。
詳しく見ていきましょう。
5.2.1 iDeCo
iDeCoは、「個人型確定拠出年金」の愛称で、老後資金をつくるための年金制度です。
個人が拠出した掛け金を自ら長期にわたり運用することで、老後の資金を効率よくつくる仕組みとなっています。
iDeCoの加入者は、毎月一定の掛け金を積み立て(掛け金を拠出し)、定期預金、保険、投資信託などの運用商品から好きなものを選び、掛け金を元手に自ら運用します。
そして60歳以降に、運用して得た利益分を含む金額を、年金または一時金として受け取るのです。
5.2.2 小規模企業共済
出典:小規模企業共済|中小機構
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者が一定の加入要件を満たして掛け金を支払うことで、退職金として資金を受け取れる仕組みです。
掛け金月額は1,000円から7万円までの範囲内で、500円単位で自由に選択できます。
支払った掛け金の全額が所得控除の対象です。たとえば、掛け金7万円なら年間で最高84万円の所得控除を受けられます。
小規模企業共済制度に加入していると、今までの掛金の一定割合まで貸付を受けることも可能です。
5.2.3 ふるさと納税
ふるさと納税は、実質負担2,000円の「寄附」というかたちで好きな自治体を応援しながら、所得控除を受けられる仕組みです。
ふるさと納税でおこなった寄附は、2,000円を超える部分が一定の限度額まで全額、所得税・住民税から控除されます。
使い方は、ふるさと納税ができるサイトにアクセスし、寄附する自治体と返礼品を選ぶだけです。申し込みと支払いが完了すると、自治体から「寄附金受領証明書」と「返礼品」が届きます。
「寄附金受領証明書」を必要な書類を揃え、所得税・住民税控除の手続きをすれば完了です。
5.2.4 経費への計上
あらゆる支払いを経費に計上することで、収入を低く抑えて節税できます。
個人事業主の場合、自宅で仕事をしているなら家賃やインターネット代、電気代、仕事のために購入した機材なども経費に計上可能です。
経費に計上するためには、根拠をきちんと用意することが重要になります。たとえば、家賃は仕事に使用している面積と使用時間で経費分が決まるというわけです。
ただし、厳密に計算して割り出すことは難しい場合が多いため、一般的には料金の3割が目安になります。
6. IT関連のフリーランス案件の求人動向
IT関連のフリーランス案件の求人動向をご紹介します。
プロエンジニアで扱っている求人案件では、月収60万円~80万円のものが多いです。
最も高い案件では月収150万円、年収1800万円ほどになります。かけだしでも月収30万~40万円ほどです。
職種別に実際の案件を見ていきましょう。
6.1 ヘルプデスク系
プロエンジニアに実際に掲載されているヘルプデスク系の案件をご紹介します。
▸ 案件情報:大手グループ総合不動産会社の社内ヘルプデスク・デバイス管理など
社内SEチームに参画し、社内のIT関連相談窓口やデバイス管理などの業務をする案件です。
社会人としてのビジネスマナーやコミュニケーションスキルはもちろん、社内ヘルプデスク経験や社内システム運用経験などが求められます。
ヘルプデスク系の報酬の目安は50~60万円ほどです。
6.2 コーダー系
プロエンジニアに実際に掲載されているコーダー系の案件をご紹介します。
▸ 案件情報:Webデザイナー/Webコーダー★ファンコミュニティ促進サービス
Webサイトのコーディングやデザインチェック、ディレクションなどが中心の業務です。
Webコーダーとして、HTMLやCSSを用いたマルチデバイス環境でのWebサイト実装スキル、WordPressをはじめとするCMSでの実装スキルなどが求められます。
コーダー系の報酬の目安は50~60万円ほどです。
6.3 フロントエンドエンジニア系
プロエンジニアに実際に掲載されているフロントエンドエンジニア系の案件をご紹介します。
▸ 案件情報:フロントエンドエンジニア★モバイルバッテリーのシェアリングサービス開発
スマホアプリ開発やWebアプリ開発を請け負う会社で、モバイルバッテリーのシェアリングサービスを新規開発する業務です。
PHP、TypeScriptなどのプログラミングスキルをはじめとするWebシステム開発のスキルが求められます。
フロントエンドエンジニアの報酬の目安は70~80万円ほどです。
6.4 サーバーサイドエンジニア系
プロエンジニアに実際に掲載されているサーバーサイドエンジニア系の案件をご紹介します。
▸ 案件情報:サーバーサイドエンジニア★大規模ゲームのAPIサーバー開発・運用
オンラインゲームの自社開発、受託開発をおこなう企業における、大規模サーバー開発・運用が業務です。
Ruby、Ruby on Railsなどを使ったWebサービスやAPIサーバーの開発スキルが求められます。
サーバーサイドエンジニアの報酬の目安は70~80万円ほどです。
7. まとめ
今回は、
• 個人事業主の平均年収
• 個人事業主で年収1000万円を稼ぐ人の割合
• 個人事業主になるメリット
の流れで、個人事業主の年収についてお伝えしました。
個人事業主は正社員と比較して年収が大きくは変わりません。しかし、自由度の高い働き方やあらゆる税金対策による節税を実現できるというメリットがあります。
今回ご紹介した内容を参考に、個人事業主というキャリアを視野に入れてみてはいかがでしょうか。