国際的に情報セキュリティの重要度が高まっている中、数ある情報処理技術者試験の中でも高い人気を誇り、高度区分試験の中では唯一春期・秋期共に試験が実施されていた「情報セキュリティスペシャリスト試験」が、平成28年10月に実施される秋期試験にて廃止されました。
そして、情報セキュリティスペシャリスト試験をベースとし、情報系国家資格の中で初の登録制「士業」となる「情報処理安全確保支援士」として生まれ変わりました。
今回は情報処理安全確保支援士の試験概要のほか、難易度や勉強方法など、まとめてご紹介したいと思います。
1. IPAが主催する情報処理安全確保支援士制度とは?
1.1 情報セキュリティ系国家資格の最高峰
「情報処理安全確保支援士試験」は、2017年4月から開始された新しい国家資格です。これまでIPA(情報処理推進機構)が主催する情報処理技術者試験の中で実施されていた「情報セキュリティスペシャリスト試験」の内容をベースに、新制度として実施されるようになりました。
東京五輪開催などの関係で需要が増すサイバーセキュリティの人材は、まだ約8万人も不足しているとされています。その人材確保を狙いとして、まず2014年春期試験から基本情報処理技術者試験、および応用情報技術者試験の午後問題においてセキュリティ分野の問題が選択科目から必須科目に変更されました。加えて、2016年春期試験からITスキル標準"レベル2" の「情報セキュリティマネジメント試験」が始まりました。
情報セキュリティスペシャリスト試験をベースとして新設される「情報処理安全確保支援士」は、それより上位の"レベル4" に該当する試験です。さらに情報系資格初の登録制「士業」となったことで、注目を集めています。
1.2 取得のメリットと評価、今後の需要
情報処理安全確保支援士になることで受けられるメリットや評価は次の通りです。
•「情報処理安全確保支援士」の資格名称を使用することができる
• 情報セキュリティに関する高度な知識、技能を保有する証明となる
• 講習受講の義務により、情報セキュリティに関する最新知識や実践的な能力の維持が可能
現状でも、官公庁系システム案件を多く抱える企業では国家資格の高度区分試験合格者を優遇しているところが多く存在しています。
情報処理安全確保支援士は国家資格ですので、合格祝い金や資格手当の支給を行う企業が増えると考えられます。また、現状では未定ですが、国や公共団体のセキュリティ案件の入札要件になることも予想されます。セキュリティの需要が高まるにつれ、資格の認知度や重要性も高まる可能性があります。
ただし「士業」といっても独立して看板を掲げられるような資格とは異なり、会社に所属して本業の傍ら知識を生かすことがメインの資格と言えます。資格さえ取れば印籠のように効力を持つのではなく、ITエンジニアの付帯スキルとして今後発展していくのではないでしょうか。
1.3 試験の免除対象にはテクニカルエンジニア(情報セキュリティ)試験合格者も
新制度開始後2年間は、情報セキュリティスペシャリストなどの旧試験合格者の方には試験の免除条件がありました。しかし免除申請の受付は予定通り平成30年8月19日で締め切られたため、現在は旧試験合格による全面的な免除制度はありません。
ただし午前Ⅰ試験については、次のいずれかの条件を満たすことによって、その後2年間は受験が免除されます。
• 応用情報技術者試験に合格する
• いずれかの高度試験又は支援士試験に合格する
• いずれかの高度試験又は支援士試験の午前Ⅰ試験で基準点以上の成績を得る
1.4 情報処理安全確保支援士の登録方法
情報処理安全確保支援士には、試験に合格し、免除条件を満たしただけではなれません。条件を満たしたあと、「登録簿への登録」を行う必要があります。
出典:新国家資格「情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)」制度のご紹介|IPA
1.5 旧制度(情報セキュリティスペシャリスト試験)との違い
旧制度の情報セキュリティスペシャリスト試験と情報処理安全確保支援士との違いは、次の通りです。
• 情報セキュリティスペシャリスト試験は国家試験であるのに対し、情報処理安全確保支援士は国家資格であること
• 企業等が人材を活用できるよう登録簿が公開される
• 資格の更新が必要(定期的な講習受講を義務化)
• 業務に関して知り得た秘密の保持義務がある
登録簿は、「登録番号」「登録年月日」「試験合格年月」「講習修了年月日」が必須項目となっています。個人情報は任意公開となり、氏名などは公開したくないという場合は、もちろん非公開設定も可能です。
また、情報処理安全確保支援士としての義務(信用失墜行為の禁止、秘密保持義務、講習受講義務)に違反した場合は、資格名称の使用停止、または登録の取消の処分が命じられることがありますので、注意が必要です。
1.6 情報処理安全確保支援士の登録方法
情報処理安全確保支援士の更新は、ベンダー試験によくある「更新試験を受けて合格する」といった必要はなく、毎年のオンライン講習と3年毎に1回の集合講習で更新可能となります。
出典:情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)の受講する講習について|IPA
1.7 新試験はいつから実施されたか
情報処理安全確保支援士の初回試験は、2017年4月から開始しました。
1.8 CISSP認定試験と比較すると
CISSP認定試験とは国際的なセキュリティプロフェッショナルの認定制度であり、米国の非営利団体(ISC)² が主催する民間資格です。2017年現在、全世界に117,756人の資格保有者がいる世界的な人気資格となっています。
CISSPだけでなく、上位試験としてSSCP、CSSLPなども実施されています。
CISSP試験と情報処理安全確保支援士(SC試験)との違いには、次のような点が挙げられます。
SC試験 | 国家資格 | 国内限定資格 | 前提条件なし | 7,500円 |
---|---|---|---|---|
CISSP試験 | 民間資格 | 国際資格 | 実務経験5年以上 | 749USドル |
CISSPは国際的にとても評価の高い資格ですが、受験料が8万円をこえる高額であり、さらに5年(大卒者は4年)以上の情報セキュリティのプロフェッショナルとしての実務経験が求められます。そのためか日本国内での有資格者数は、他国と比べて低い水準にとどまっているようです。
CISSPと情報処理安全確保支援士のどちらを取得すべきかは、国際的に活動していきたいのか、それとも官公庁など国内案件重視でいくのか、今後のキャリアパスを考えつつ決めるといいのではないでしょうか。
ただ、情報処理安全確保支援士になる資格を有する者の条件として、「資格試験合格と同等以上の能力を有する者」が挙げられていますので、CISSP取得者も無試験で情報処理安全確保支援士として登録できるようになる可能性があります。今後の動向に注目していきたいところです。
2. 情報処理安全確保支援士試験の難易度
2.1 合格率
初回となった平成29年度春期(2017年4月)からの合格率は、以下のとおりです。
年度 | 応募者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 (受験者比) |
合格率 (応募者比) |
---|---|---|---|---|---|
平成29年春期 | 25,130人 | 17,266人 | 2,822人 | 16.3% | 11.2% |
平成29年秋期 | 23,425人 | 16,218人 | 2,767人 | 17.1% | 11.8% |
平成30年春期 | 23,180人 | 15,379人 | 2,596人 | 16.9% | 11.2% |
平成30年秋期 | 22,447人 | 15,257人 | 2,818人 | 18.5% | 12.6% |
平成31年春期 | 22,175人 | 14,556人 | 2,744人 | 18.9% | 12.4% |
令和元年秋期 | 21,229人 | 13,964人 | 2,703人 | 19.3% | 12.7% |
令和2年春期 | 延期 | ||||
令和2年10月 | 16,597人 | 11,597人 | 2,253人 | 19.4% | 13.6% |
令和3年春期 | 16,273人 | 10,869人 | 2,306人 | 21.2% | 14.1% |
令和3年秋期 | 16,354人 | 11,713人 | 2,359人 | 20.1% | 14.4% |
令和2年度春期の試験延期は、新型コロナウイルス流行への対応によるものです。同流行により受験者数は減少傾向、合格率は増加傾向にありますが、これは「自信のあまりない人が申し込みを見送っているから」という可能性があります。
イレギュラーな状況であるため、今後の動向にも注目が必要です。
2.2 情報セキュリティスペシャリストの難易度と同じ
情報処理安全確保支援士は情報セキュリティスペシャリスト試験をベースに作られており、ほぼ同レベルの水準と言われています。
過去の情報セキュリティスペシャリスト試験の合格率は平均15%程度であり他の高度区分試験と比べると少し高めの数字ですが、それでも試験としては超難関の部類に属していました。
情報処理安全確保支援士は、初回の2017年春の応募者数が25,130名、受験者数が17,266名、合格者が2,822名となっています。初回の合格率は約16%となっており、難易度としては難関の部類であることが伺えます。
しかしながら、他の高度区分試験は年1回の試験なのに対し、情報処理安全確保支援士だけは年2回のチャンスがありますので、高度区分試験の中では最も受験し易い資格であると言えるでしょう。
2.3 試験開始初年度は合格の狙い目?
参考書や過去問がまだ出揃っていない初回試験は難しいイメージがありますが、実は情報処理技術者試験については初回試験は合格率が高い傾向にあります。
近年新設された「ITパスポート試験」は、初回である平成21年春期試験の合格率が「72.9%」と高い数字でした。しかし第2回にあたる秋期試験以降は、約50%程度で推移しています。
また2016年春期から始まった「情報セキュリティマネジメント試験」の初回の合格率はなんと「88.0%」と、とても高い数字となっています。
しかし、情報処理確保支援士においては、初回合格率が約16%であることを考慮すると、新設試験だから易しめというわけではないようです。レベル4相当の資格だけに、やはりしっかりとした対策が必要となりそうです。今後の合格率にも注目したいところです。
3. 試験日・合格点・受験料
支援士試験の受験料や登録簿への登録手数料、更新に必要な講習の受講料などの詳細は次の通りです。
3.1 試験時間・出題数・合格点
試験時間、および出題数については、情報セキュリティスペシャリスト試験と同一です。また合格ラインが60%なのは、情報処理技術者試験共通の数字です。
試験時間 |
午前Ⅰ:50分(9:30~10:20) 午前Ⅱ:40分(10:50~11:30) 午後Ⅰ:90分(12:30~14:00) 午後Ⅱ:120分(14:30~16:30) |
---|---|
出題数 |
午前Ⅰ:小問30問 午前Ⅱ:小問25問 午後Ⅰ:大問3問(うち2問に解答) 午後Ⅱ:大問2問(うち1問に解答) |
合格点 | 全ての試験科目において60%以上で合格 |
3.2 試験日程
その他高度区分試験は春期または秋期のどちらか1回の実施ですが、情報処理安全確保支援士試験については、春期・秋期の年2回実施されます。
申し込み受付期間 | 試験のおよそ3か月前から2か月前まで |
---|---|
試験日 |
春期試験:4月の日曜日 秋期試験:10月の日曜日 |
【令和4年度秋期試験の日程】
令和4年度秋期試験の試験日は、「令和4年10月9日(日)」です。
申し込み受付期間は未発表ですが、令和4年7月頃が予定されています。
申し込み忘れが不安な方には、IPA公式のメールニュースへの登録がおすすめです。
▶ メールニュース|IPA
なお令和4年度春期試験(令和4年4月17日実施)の申し込みは、受付を終了しています。
3.3 試験会場
情報処理技術者試験と同じIPAの運営になりますので、試験会場も他の試験と同じです。
情報処理技術者試験は以下の都道府県で実施されており、希望した試験地内の試験会場から自動で割り振られる形となっています。
北海道 | 札幌、函館、帯広、旭川 |
---|---|
東北 | 青森、盛岡、仙台、秋田、山形、郡山 |
関東 | 水戸、土浦、宇都宮、前橋、埼玉、千葉、柏、東京、八王子、横浜、藤沢、厚木 |
中部 | 新潟、長岡、富山、金沢、福井、甲府、長野、岐阜、静岡、浜松、名古屋、豊橋 |
近畿 | 四日市、滋賀、京都、大阪、神戸、姫路、奈良、和歌山 |
中国 | 鳥取、松江、岡山、広島、福山、山口 |
四国 | 徳島、高松、松山、高知 |
九州 | 福岡、北九州、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、那覇 |
3.4 受験料と登録料
情報処理技術者試験の受験料はレベル1から4まで全て同じ「7,500円」です。ただし情報処理安全確保支援士については、登録まで行うとなると、登録手数料や講習の受講料が必要になります。
【登録料】
• 登録免許税9,000円
• 登録手数料10,700円
その他、必要書類の中には、市区町村発行の身分証明書や住民票の写しなども必要になります。
【講習料】
• オンライン講習20,000円(毎年)
• 集合講習80,000円(3年毎)
4. 情報処理安全確保支援士の勉強方法
4.1 情報処理安全確保支援士の参考書と問題集
情報処理安全確保支援士に限った内容ではありませんが、情報処理試験の対策方法は過去問の攻略に尽きると思います。
参考書は試験範囲を確認するためのほか、過去問で不明な点を調べるのに使用して、とにかく多くの過去問に触れることが大切です。
過去問は書籍の他、公式ホームページからもダウンロードできます。
『情報処理教科書 情報処理安全確保支援士 2022年版』
『令和04年【春期】情報処理安全確保支援士パーフェクトラーニング過去問題集』
『ポケットスタディ 情報処理安全確保支援士』
4.2 勉強方法は旧SC試験と同じでOK
試験の流れのイメージとしてSC試験そのものの図が提示されており、出題範囲・内容もこれまでのSC試験と変わらない、と明記されています。多くの参考書もその前提で作られているようです。
今後も情報処理安全確保支援士の試験対策は、情報セキュリティスペシャリスト試験の対策をそのまま行うのが最善ではないでしょうか。
5. 情報処理安全確保支援士試験は今後も要注目
情報処理安全確保支援士は制度の内容からも一定数の確保が必要になると予想されます。試験の開始当初、政府により2020年までに登録者3万人を目指すという目標が掲げられていました。しかし実際には2021年10月1日登録時点で情報処理安全確保支援士の登録者は合計19,450名にとどまっており、その難度の高さがうかがえます。情報処理技術者試験初心者から目指そうという方にはまず情報セキュリティマネジメント試験からの受験がおすすめです。
既存の情報処理技術者試験とは異なる試験制度として独立させるほど重要視されている情報セキュリティ分野について、今後も要注目です。
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