源泉徴収というとサラリーマンの給与所得を思い浮かべがちですが、実はフリーランスであっても作業の内容によって源泉徴収が必要な場合があります。フリーランスエンジニアが確定申告で損をしないためにも、源泉徴収についてはしっかり把握しておく必要があるのです。
今回は、フリーランスエンジニアと源泉徴収の関係や源泉徴収の計算方法と請求書への記載方法、確定申告の際の注意点についてご紹介したいと思います。
1.源泉徴収とは
源泉徴収とは、報酬を支払う側が報酬から所得税(源泉所得税)などの税金をあらかじめ天引きし、代わりに国に納税を行う制度のことです。会社勤めをしていると源泉徴収票や年末調整でおなじみの制度であり、支払者を本人ではなく企業が代行するという特徴があります。 しかしこの源泉徴収は会社員だけのものではなく、フリーランスなどの個人事業主であっても自身が発注者となることや、作業の内容により支払者が作業の発注者(クライアント)になる場合があります。
2. フリーランスエンジニアが源泉徴収される場合とされない場合
フリーランスの皆さんは、自分で確定申告を行い納税します。そのため、源泉徴収とは無縁と思うかもしれませんが、次のように源泉徴収される場合があります。
2.1 源泉徴収の対象となる範囲
フリーランスエンジニア(個人事業主)が主に以下の種類の案件で業務を受注して報酬・料金等を受ける場合は、依頼者(クライアント)が源泉徴収を行う必要があります。
- 原稿料
フリーランスエンジニアではライティングなどの原稿料が当てはまります。
- 演説料
フリーランスエンジニアとして演説が発生することは稀ではありますが、そのような場合には源泉徴収の対象になります。
- デザイン料
ロゴ作成などデザイナーのデザイン料や、Webサイトのデザイン料の収入も源泉徴収の対象になります。
※要件定義、システム設計やプログラミング、クライアントなどとのディレクション、
HTMLやCSS、JavaScriptといった言語を使用したコーディング、環境テスト等に関する報酬は、源泉徴収されません。
この他にもプロスポーツ選手やモデルの報酬などの源泉徴収が必要な仕事がありますが、フリーランスエンジニアに関係する業務はこの3つを押さえておけば良いでしょう。
◆ 詳しい対象については、国税庁の説明ページをご覧下さい。
国税庁 - 源泉徴収が必要な報酬・料金等の範囲
2.2 源泉徴収義務者になるケース
源泉徴収義務者とは、給与や報酬を支払う側となり源泉徴収をしなければならない義務がある側を指します。一部の業務を外注するなど、フリーランスエンジニアが自ら仕事の発注者となる場合には源泉徴収をする側になります。
ただし、以下の場合は源泉徴収義務者にはなりません。
・常時2人以下のお手伝いさんなどのような家事使用人だけに給与を支払っている
・弁護士報酬などの報酬・料金(確定申告などをするために税理士に報酬を支払っても、源泉徴収をする必要はありません。)
2.3 クラウドソーシングに源泉徴収は必要?
クラウドソーシングの場合もフリーランスと同様に、報酬が対象となる 2.1 における作業を行う場合は源泉徴収が必要になります。
2.4 扶養の範囲内で働く場合に源泉徴収は必要?
扶養の範囲内で働く場合でも、対象となる報酬に当てはまる場合は源泉徴収が必要です。
ただし実際に収入が扶養の範囲内に収まっていた場合は、確定申告(還付申告)を行うことで支払った税金が還付される場合があります。
◆ 確定申告について詳しくは、後の項番 5 をご覧ください。
3.源泉所得税の税率と計算方法
源泉徴収される所得税額及び復興特別所得税*の額は給与と報酬などの支払金額(源泉徴収の対象となる金額)によって次のようになります。
◆ 税率:100万円以下は10.21%、100万円以上は20.42%
請求金額 | 計算式 |
---|---|
100万円以下 | 請求金額 × 0.1021 |
100万円より上 | (請求金額 - 1,000,000)× 0.2042 + 102,100 |
*復興特別所得税
東日本大震災からの復興に必要な財源を確保するために創設された新しい税金。
平成25年1月1日から令和19年12月31日の間に生ずる所得について源泉徴収を行う際、復興特別所得税額も含めて徴収されます。上記の0.21%(100万円超の部分には0.42%)が復興特別所得税率となります。
4.請求書への書き方
源泉徴収税の支払いは依頼者側になりますが、主に報酬を受け取る側のフリーランスエンジニアも計算が必要です。
源泉徴収税額を請求書へ記載する場合、次のように消費税と合計の間に「源泉徴収税」欄を追加します。
※小計に対して消費税は足して、源泉徴収税は引いて合計額を算出しますので、注意して下さい。
◆ フリーランスの請求書作成についての詳細は、次の記事で紹介しています。
5. 確定申告の際の注意点
源泉徴収により引かれすぎた税金(所得税)が戻ってくる手続きこそが確定申告。源泉徴収の対象になる業務を行った年の確定申告には、注意すべき点があります。
5.1 二重に所得税を納めないように注意!
報酬を受け取った際に既に源泉徴収は前払いされているため、そのまま確定申告で所得税を支払ってしまうと二重に税金を納めることになります。確定申告時は、忘れずに源泉徴収額を差し引いて所得税を支払いましょう。
◆ 手続きの方法
確定申告の手続きの際、確定申告の申告書B「所得税及び復興特別消費税の源泉徴収税額」欄に、源泉徴収済金額の合計を記入することになっています。
5.2 源泉徴収された金額は把握しておくことが大切
源泉徴収は案件1つごとに発生するため、会計ソフトや帳簿で請求額と入金額の差額を記録しておくなど、源泉徴収された税額がわかるようにしておきましょう。
フリーランスの場合、源泉徴収票をもらうことはありませんが、代わりに支払調書という帳票を受け取る場合があります。その場合は支払調書を確定申告書の添付資料として使用することができます。
ただし支払調書の発行は義務ではないため、支払調書が必要な場合はあらかじめ発注者に発行して欲しい旨を依頼しておくと確実です。
◆ 収入管理等に便利な会計ソフトについては、こちらの記事も参考にしてみてください。
5.3 多めに納めた源泉徴収税は確定申告で還付される
【所得税額が0円になるケース】
フリーランスの場合、所得金額が基礎控除にあたる48万円*を超えなければ所得税額は0円になります。
そのため所得金額が48万円*以内ならば、源泉徴収された所得税は確定申告でそっくり還付されることになります。
【青色申告特別控除が受けられる】
さらに青色申告を行うことで、最大65万円*分の青色申告特別控除が受けられます。また必要経費として認められた金額分も、控除の対象となります。
つまり「48万円+65万円*+経費」の分については、源泉徴収された所得税が還付される可能性があります。
【白色申告の場合】
白色申告の場合、控除の対象となるのは「48万円*」分のみになります。
帳簿の記載など労力は多少増えてしまいますが、それ以上にメリットが大きい青色申告はフリーランスとして本格的に活動していく方にはおすすめです。
*所得2,400万円以下の場合。令和元年分以前の基礎控除の金額は、納税者本人の合計所得金額にかかわらず、一律38万円です。
*65万円分の控除を受けるには電子申告システム(e-Tax)または電子帳簿保存での提出が必要。◆ 確定申告と青色申告のメリットについての詳細は、こちらの記事も参考にしてみてください。
6. まとめ
フリーランスエンジニアの場合、税金の前払いになるのが源泉徴収です。取引が多くなればなるほど報酬額は大きくなり、源泉徴収額も増えるでしょう。源泉徴収の把握をしていないと、確定申告時に二重で税金を支払うこととなり損をしてしまいます。
フリーランエンジニアにとって案件ごとに徴収額を確認する作業は面倒なことかもしれませんが、この記事を参考に源泉徴収の理解を深めて、こまめな記帳管理を心掛け、確定申告を正確に行うことをおすすめします。