雇用保険(失業給付・失業保険)の受給手続きを行ってみると、ある葛藤が生まれてくる場合があります。それは、一定期間は「働かなくても前職の収入の5~8割程度のお金がもらえてしまう」ということです(年齢や金額などで割合は変化します)。
もちろん受給の条件には「求職活動を行った実績が必要」とありますが、最低でも90日、最高では330日もの間、まとまった額の給付がもらえるのです。しかしそのお金は、就職するともらえなくなってしまいます。つまり、失業給付をもらえる限りは就職しない方がお得であるように見えるのです。
しかし、それは賢い選択なのでしょうか。かくいう筆者も当初は満額もらうつもりで、受給のノルマを満たすためにあえて人気のありそうな企業に応募し、書類選考落ちを狙ったこともありました。しかしあるとき、これ、という求人に出会ってしまったのです。それが現在の仕事ですが、当初は本気で応募するかとても悩みました。受給期間がまだ2か月以上も残っていたからです。
しかしこうも考えました。受給期間が終了したあと、またタイミングよく同様の求人が見つかるでしょうか?人によって希望の条件は異なりますが、ベストな条件の求人に出会うのはとても難しいことだと思います。
無収入になってから焦って希望とマッチしない企業に就職しても、いずれ後悔してしまうかもしれません。これは!と思う求人を見つけたら、その時こそが応募のし時なのです。
1. 再就職手当をもらおう!
失業給付の受給期間を残したまま就職しても、残りのお金を全くもらえないというわけではありません。
給付期間を3分の1以上残した状態で就職が決定すると、「再就職手当」がもらえます。
この手当を申請すると、受給期間が残り3分の1以上なら支給残額の60%、残り3分の2以上なら70%にあたる金額が、再就職の祝い金として一括で支払われます。
最終的にもらえる額は減ってしまいますが、給与と並行してもらえるボーナスと考えると、かなり嬉しい金額なのではないでしょうか。
2. 再就職手当の支給条件
ただこの「再就職手当」は、就職しさえすれば誰でももらえるというわけではありません。以下の9点を満たした雇用であることが条件になります。
- 基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あること。 例えば総支給日数が90日の場合、30日以上残っていることが必要です。
- 1年を超えて勤務することが確実であること。 雇用が期限付きでない場合、正社員ではなくアルバイトでもOKです。
- 受給手続き後、7日間の待期期間満了後に就職(フリーランスの準備を開始)したこと。 雇用保険説明会を受けた後であればOKです。
- 給付制限を受けた場合は、待期期間満了後1か月間はハローワーク、または認可を受けた職業紹介事業者の紹介によって就職したものであること。 自己都合退職などで3か月の給付制限がある場合、説明会後1か月間は直接応募等で採用されても、給付の対象になりません。
- 離職前の事業主に再び雇用されたものでないこと。 離職前の会社や、前の会社と資本や人事上の関連のある会社への再就職は対象外です。
- 過去3年以内の就職について、再就職手当の支給を受けたことがないこと。 過去3年以内に既に支給を受けてしまった場合は、再利用できません。
- 受給資格決定前から採用が内定していた事業主に雇用されたものでないこと。 雇用保険の受給手続きよりも前に内定していた場合は、対象外です。
- 原則として、雇用保険の被保険者要件を満たす雇用であること。 1週間の所定労働時間が20時間を超え、かつ31日以上雇用見込がある場合、原則として雇用保険の被保険者になります。
- 再就職手当の支給決定の日までに離職していないこと。 支給可否を判定する前に離職してしまった場合は、もちろんもらうことはできません。
フリーランスの場合、エージェントなどに登録して就業してしまうことは給付の対象になりません。
これらの条件(特に条件2)を満たさない短期の派遣や雇用保険対象外のアルバイトの場合は、「就業手当」を受け取ることができます(ただし、アルバイト等でも雇用期間の定めがないなど、条件を満たしていれば再就職手当の対象になる場合があります)。
3. フリーランス(個人事業主)の支給条件と注意点
再就職手当の支給要件は、再就職するか事業を開始することが必要となるため、個人事業主(フリーランス)として起業し、事業を開始した場合にも再就職手当は支給されます。
フリーランスが再就職手当を受ける際の注意点は以下の通りです。
3.1 フリーランスが事業を開始した場合の5つの受給条件
フリーランスの場合、正社員と同様のルールも含めた次の5つの受給条件が求められます。
3.2 フリーランスが再就職手当を受給する際の注意点
フリーランスが再就職手当を受給する際には、特に次のことに注意する必要があります。
- 1年を超えて事業継続出来ると認められること
受給条件2. の詳細として、「会社が倒産せずに存続し、1年を超えて事業を安定的に継続できるとハローワークに認められること」が求められています。
フリーランスとして事業を1年以上続ける見込みがあることを証明できる書類には次のようなものが有効です。◆ 開業届
◆ 業務委託締結に関する書類
◆ 事業を行う場所の契約書 - 起業する予定であると伝えてはダメ
起業や独立をするために退職したとする場合は、再就職手当を受け取ることが出来ない可能性があります。ハローワークに離職票を持って失業給付の申請に行く際に「起業する予定がある」と伝えることは避けましょう。 - 開業届を提出するタイミングに注意
待期期間中に開業届を出した場合、再就職手当の支給要件から外れてしまいます。開業届(会社設立や事業所の契約含む)を提出するのは失業認定日(待機期間後)以降にしましょう。 - 事業継続の連絡が定期的に入る
再就職手当の申請をして、手当を受け取った後ハローワークから定期的に「事業を継続できているか」連絡が入ります。継続できていることを伝えましょう。嘘をつき、発覚した場合重い罰金が課せられます。
4. 再就職手当の計算方法
再就職手当は早期に再就職するほど金額がアップします。
再就職手当の具体的な支給額の計算式は、次のとおりです。
・支給残日数が3分の1以上・・・基本手当日額×支給残日数×0.5=支給額
例えば所定給付日数90日の方が、基本手当日額が5000円、支給残日数が70日だった場合
◆再就職手当は、5000円 × 70日 × 70% = 245000円となります。
出典:厚生労働省
5. 再就職手当の手続き方法
再就職手当をもらうために必要な手続きの流れは、次のようになります。
5.1 再就職手当申請書をもらいに行く
再就職先の入社日の前日から1か月後までの間に、再就職手当の申請書をもらいにハローワークへ行きます。必要な持物は、次のとおりです。
- 雇用保険受給資格者証
…基本手当日額等の情報が記載されている紙です。 - 失業認定報告書
…毎月の失業認定日に、就活の実績などを記載し提出する紙です。 - 採用証明書
…これは新しい雇用先の事業主に書いてもらうものですが、難しい場合は内定通知書や同様のメールのコピーなど、入社日が分かる資料を持参すればOKです。
5.2 再就職手当申請書を記入する
再就職手当を申請する場合、次の4点の書類提出が必要になります。
- 関連事業主に関する証明書
…離職前と新しい事業所の間に、資本や人事上の関わりが全くないことを確認する証明書です。
地域によりレイアウトが異なる場合があります。
※新しい雇用先の事業主に記入してもらう項目があります。 - 雇用保険受給資格者証
…基本手当日額等の情報が記載されている紙です。 - 出勤簿またはタイムカードのコピーなど、就業の実態が確認できるもの
…入社日を含めて、コピーを取るまでの期間でOKです。
期間は短くても大丈夫なので、実績のみ記入します。 - 再就職手当支給申請書
…以下に詳しい記入方法を記載します。
※新しい雇用先の事業主に記入してもらう項目があります。
ピンクの部分は申請者本人の記入欄です。
黄色い部分は、新しい雇用先の事業主に記入してもらう必要があります。
事業主の印が必要なところには、雇用保険に届け出ている印を押してもらいます。
機械で処理するため、枠内に収まるようできるだけ丁寧な文字で記入します。
カバン等に入れる際、二つ折りなどにしないよう気を付けましょう。
その他、いくつかの項目について詳細を説明します。
⑯賃金月額
…時給や日給の場合は、おおよその値でOKです。
(例)時給1,300円×8時間×週5日×4週間=208,000円
⑰雇用期間
…支給の条件2に当てはまるかどうか、記入内容から審査されます。
「雇用期間の定めなし」に○がついていればOKです。
「定めあり」の場合は、契約更新条件が「無」かつ、1年を超えて雇用する見込みが「有」となっていれば支給の対象になります。
そうでない組み合わせの場合は、ハローワークの判断になります。
⑲過去3年以内の再就職手当受給の有無額
…支給の条件6に当てはまるかどうかの確認です。
5.3 書類提出
上記4点の書類の提出は、ハローワークへ直接持参するほかに、郵送も可能です。
郵送の場合は提出期限の当日消印有効ですが、余裕を持った発送が安心です。
提出期限は、雇入年月日(入社日)の翌日から1か月以内です。
6. 再就職手当はいつもらえるの?
6.1 再就職手当の支給日
提出書類に記入漏れや不足がない場合には、おおよそ1か月後に支給か不支給かの決定通知書が郵送されてきます。
支給になる場合は、通知から1週間程度後が支給日になります。
審査(新しい職場への在籍確認など)が行われるタイミングは1か月後が多いようですが、ハローワークが混雑する3、4月や大型連休に重なったり、また事業主への確認事項などがあったりすると処理に時間がかかるため、1か月以上時間がかかる場合もあるようです。
6.2 再就職手当の受け取り方
提出書類に記入漏れや不足がない場合には、支給か不支給かの決定通知書が郵送されてきます。
支給になる場合は、通知から1週間程度で口座に入金されます。
審査にかかる時間は状況によりまちまちのようですが、ハローワークが混雑する3、4月や大型連休に重なったり、また事業主への確認事項などがあったりすると処理に時間がかかるため、支給日まで1か月半程度かかる場合もあるようです。
7. もし新しい職場をすぐに退職することになってしまったら
再就職手当を受給した場合でも、本来の受給期間の満了前に新しい雇用先を退職した場合は、残りの失業給付を受給できる場合があります。
万一退職する事態になった場合には、ハローワークへ訪れてみることがおススメです。
8. 再就職手当を受けた場合、さらにもらえる「就業促進定着手当」
再就職する際に気になるのは、前の仕事と新しい仕事の収入差ではないでしょうか。
年収アップが見込まれるなら問題ないですが、減ってしまうとなるとつい二の足を踏んでしまいます。
最初は収入少なめだけど、良い職場だからこれから頑張って昇給していきたい。けれど懐具合が寂しい…そう考えている方には朗報があります。
再就職手当の支給を受けた方限定で、引き続き6か月以上雇用され、かつ再就職先で6か月の間に支払われた賃金が前職の賃金と比べて低下している場合は、その差額をまるごと「就業促進定着手当」として受け取ることができるのです。
この手当の存在も、再就職手当がもらえる時期に就職することの大きなメリットになるでしょう。
※個人事業主(フリーランス)は、誰かに雇用される訳ではないので就業促進定着手当はもらえません。
9. まとめ
失業給付と再就職の関係について、いかがでしたでしょうか。
このご時世、もらえるものは全部もらってしまいたいのが人情ではありますが、自分にとってベストな求人との出会いはそうそうあるものではありません。
貴方もこれぞという求人を見つけた際には、ぜひ支給残を惜しまずチャレンジしてみて下さい。
そしてめでたく就職が決まったあかつきには、再就職手当を忘れずに活用してみて下さいね。