今回は、システムの運用管理の資格、ITILファンデーションについての情報をご紹介します。ITILに興味がある方だけでなく、システムエンジニアやインフラエンジニアの方は、ぜひ参考にしてください。
1. ITILファンデーションとは?
1.1 ITIL(アイティル)とは
ITILとは、英国の政府機関から出版された、ITシステム運用管理のためのフレームワークです。Information Technology Infrastructure Libraryの略で、「アイティル」と読みます。
ITシステムを安定稼働させるために必要な、運用管理業務全般をまとめてITサービスマネジメントと言います。このITILは、ITサービスマネジメントを考える上での、指標(枠組み)となるものです。
1.2 ITIL4ファンデーションとは
ITIL4ファンデーションは、ITサービスマネジメントについての知識を証明する世界共通のITIL入門認定資格です。
2019年11月にシラバスが大幅に改訂され、旧「ITILファンデーション認定資格」から新「ITIL4ファンデーション」に名称が変更されました。
ITILを採用したシステム運用業務を行う企業が増える中、数あるIT資格試験の中でも運用管理に関わる基礎知識として、ITエンジニア、とりわけSEやインフラエンジニアの間で人気の資格となっています。
1.3 ITIL4ファンデーションの有効期限は3年
ITIL4ファンデーションは、「ITILに関するスキルと知識の有意性」を証明しています。そのため資格取得から3年の更新期限以内に、同一分野での受験、研修、継続教育などを実施して「資格を更新」しなければ、この「有意性」が失われてしまいます。
3年以内に更新しなかった場合、資格のステータスは「期限切れ」になります。ただし、上位試験の受験資格は期限が切れても残ります。
2. ITIL4ファンデーションを取得するメリット
2.1 キャリアアップにつながる理由
ITIL4ファンデーションに合格すると、「ITサービスマネジメントの共通言語と基礎知識を習得している証明」になります。それによって、より高度な役割やプロジェクトへの参加機会が増え、キャリアアップにつながります。
また国際資格でもあるため、転職市場でも有利に働く可能性があります。
2.2 実務で役立つ具体的な職種や場面
ITIL4が実務で役立つのは、主に次のような職種です。
• ITサービスマネージャー
ITサービスの計画、設計、運用などを行う
• システム管理者
ITインフラの運用・保守を行う
• プロジェクトマネージャー
IT関連プロジェクトの管理を行う
• ITサポート・ヘルプデスク
ITに関する問い合わせ対応を行う
ITIL4の知識があれば、変更管理プロセスにおいてリスク評価や計画立案に役立ち、システム停止などのトラブルを未然に防ぐことができます。それでもインシデントが発生した場合は、優先順位づけや関係部署との連携をスムーズに行えます。
さらに問題管理では、根本原因の特定や再発防止策を考えることに貢献できるので、サービスの品質向上にも繋がります。
2.3 企業がITIL4資格取得者を求める理由
企業がITIL4ファンデーションの取得者を求める理由は、効率的なITサービス管理の知識があると分かるためです。
取得者はサービス提供や問題解決の最適な方法を理解しているため、業務プロセスの改善やコスト削減に貢献することができると期待されています。
3. ITIL4ファンデーションの難易度と勉強時間
ITIL試験を目指すにあたっては、独学か、研修コースの受講を推奨していることもあります。ITILファンデーションの実際の難易度について見ていきます。
3.1 ITスキル標準での難易度は「レベル1」
「ITSSキャリアフレームワークと認定試験・資格の関係(ISV Map Ver12.4)」によると、ITILファンデーションは「レベル1」にあたります。
Oracle Masterブロンズや、PHP初級と同じ位置づけとなっています。
※以前はITパスポート試験もITSSレベル1に分類されていましたが、2018年より独立した資格体系となりました。(参考:ITSSのキャリアフレームワークと認定試験・資格とのマップ Ver12.4)
3.2 勉強時間
独学の場合、後述するPing-tの合格体験記によれば、多くの方が2週間~1か月の勉強時間で取得されています。
また、試験を管理する英国AXELOSの公式サイトにて、以前はITILファンデーションの試験範囲(シラバス)が公開されていました。シラバスの項目単位で、おおよその勉強時間が記載されており、全て合計してみたところ、20時間弱でした。
出典:AXELOS ITIL Foundation Certification - IT Service Management(※現在はリンク切れです)
勉強時間は、実務経験の有無や、予備知識によっても変わってくるため、これらの数字はあくまで目安として捉えると良いでしょう。
また、ITIL4ファンデーションには、研修資格という制度もあります。これは15から24時間程度の研修を受けた後に試験を受けて、65%以上の正答で合格するというものです。このことから、公式でも試験勉強は20時間前後が妥当だと考えられているのではないでしょうか。
3.3 合格率
合格率や合格者数は非公開となっています。
2018年度までITSSが同レベルとされていたITパスポート試験の合格率が50%前後と考えると、同じく50%程度ではないかと考えられます。
しかし、筆者が実際に受験した経験上、合格率は若干高めなのではないかと感じます。ITIL独特の用語を学ぶ必要があるので、試験対策は必要ではあるものの、四肢択一であること、CCNAのようにコマンドを打つ必要もないため、参考書で万全に試験対策を行って受験すれば、全く歯が立たないことはない難易度と言えるでしょう。
4. ITIL4ファンデーションの勉強方法
ITILファンデーションの試験対策は、受験するバージョンによって異なるため、実施されている最新バージョンの参考書を用意すると安心です。 2018年3月現在のバージョンは、ITILファンデーションシラバス2011です。
4.1 おすすめの参考書・問題集
■ IT Service Management教科書 ITIL 4ファンデーション
通称「黄色本」と呼ばれる、公認対策書です。用語の知識から大まかな流れまで、ITIL4全体の繋がりを理解することができます。章毎に多くの確認問題があるので、試験内容の理解度をチェックしながら読み進めることができます。巻末には2回分80問の模擬試験もついているので、最終チェックも可能です。
研修を受講せずに独学合格を目指すなら、必ず読んでおきたい一冊です。
出典:IT Service Management教科書 ITIL 4ファンデーション|翔泳社
4.2 研修コースの選び方と注意点
ITIL4ファンデーションには、前述のように「研修資格」という制度があります。
これらの研修は、ITILから認定を受けたスクールである「ピープルサート認定研修アフィリエイト」が実施しています。
研修期間は2~3日間で、受講料金は15万円~20万円(税別、受験料込み)と幅広い設定です。どこも高額ですが認定機関であれば品質は保証付きですので、開催地が研修に通いやすい場所という観点で選ぶことがおすすめです。
4.3 独学で合格するための勉強法
かつては黄色本で基礎を学びつつ Ping-t のweb問題集を併用するパターンが、独学する方の間で主流でした。今は公認の参考書を丹念に読み、練習問題を解く方法がおすすめです。
Ping-tでは、今でもITILファンデーションのweb問題集が公開されています。ただ対応バージョンがv3-2011であるため、ITIL4には対応していないためご注意ください。
5. ITIL4ファンデーションを受験するには
ITIL4ファンデーションは、ピープルサートの公認試験機関、またはプロメトリックで受験することができます。
国家試験のように試験日は設定されていないので、自分のスケジュールに合わせて自分で試験日を設定することができます。
5.1 受験料と受験概要
申し込み受付 | 随時(申込方法は複数あり) |
---|---|
受験料 | 67,793円(税込) |
試験日 | 随時(テストセンターにより異なる) |
試験会場 | 全国のピープルサートの公認試験機関、またはプロメトリック試験会場
【ピープルサートの公認試験機関一覧】 【プロメトリック試験会場(テストセンター)一覧】 |
問題数 | 40問 |
出題形式 | 四肢択一、CBT方式 |
試験時間 | 60分 |
合格点 | 65%以上(26/40) |
合格発表 | 試験終了後、即時 |
5.2 申し込み方法
プロメトリックのサイトから、プロメトリックIDを作成後、予約画面を開いてログインすることで予約ができます。
詳しい予約方法については、以下のページから確認することができます。
▶ 【プロメトリック】PeopleCert/ITIL(R) ファンデーション試験
5.3 試験当日に持参するもの
試験当日は、試験開始15分前までに受験センターに到着している必要があります。持参するものは、本人確認書類のみです。次の中から1点を選んで、当日忘れずに持参してください。
運転免許証、パスポート、マイナンバーカード、住民基本台帳カード、在留カード、特別永住者証明書、運転経歴証明書
5.4 合格発表と合格認定証
合否は試験日当日、試験会場の場で結果を見ることができます。
合格すると7営業日以内に、ITIL4試験を実施する「PeopleCert」から「受験者ポータル」へアクセスするためのメールが届きます。この「受験者ポータル」から、紙の認定証の郵送申請(有料)が可能になります。
6. ITIL4ファンデーション取得後のキャリアパス
6.1 ITIL4を活かせる職種とキャリアパス
上でもご紹介しましたが、ITIL4ファンデーションを実務で活かせる職種には、次のようなものが挙げられます。
• ITサービスマネージャー
ITサービスの計画、設計、運用などを行う
• システム管理者
ITインフラの運用・保守を行う
• プロジェクトマネージャー
IT関連プロジェクトの管理を行う
• ITサポート・ヘルプデスク
ITに関する問い合わせ対応を行う
これらの職種をこれから目指したいという方にも、ITIL4ファンデーションの取得はおすすめです。またこれらの職種から派生するキャリアパスとして、ITコンサルタントを目指す方にもITIL4の学習は役立ちます。
6.2 ITIL4の上位資格
ITIL4の上位資格には、次のようなものがあります。
■ ITIL 4 Managing Professional (MP)
ITILの実用的な面に重点を置いて、サービス管理を効率的に行うための知識と技術を身につける資格です。特に、実務におけるサービス提供と運用の向上に焦点を当てています。
■ ITIL 4 Strategic Leader (SL)
ITILの戦略的な側面に関する資格で、ITサービスがビジネス目標を達成するための役割を理解し、サービスの価値を最大化するための戦略的思考を育成します。
■ ITIL 4 Master
ITILの知識と経験が豊富で、ITILの原則やプラクティスを実効性のある方法で適用できる能力を示す最上級の資格です。取得には、実務経験やプロジェクトの実績が求められます。
これらの資格取得には高額な研修を受講する必要があるため、主に企業で社員に向けた研修の一環として実施されているようです。しかしITサービスマネージャーの方には実務に役立つ資格ですので、機会があればチャレンジしてみてください。
6.3 ITIL4取得を活かせる実際のフリーランス案件例
例えばフリーランスエンジニアの場合、ITIL4ファンデーションに合格することで、次のような案件を受注する際に有利に働きます。
こちらの案件は月額80万円(年収960万円)から、不動産会社でユーザーサポートを行う案件です。尚良スキルとして、「ITパスポートやITILなどIT系の資格をお持ちの方」という条件が挙げられています。平均単価の上がりにくいヘルプデスク業務ながら、高単価が見込める案件です。
詳しくは、次の案件ページをご覧ください。
▶ 参考:【ヘルプデスク】不動産会社のユーザーサポート・ヘルプデスク|プロエンジニア
7. 体験談:短期取得なら研修コースの受講も視野に
筆者が受験した際は、団体受験で旧バージョンでしたが、2日間の研修コースを受講し、最終日の午後に受験するという形で、受験者のほとんどが合格していました。
試験合格を短期間で目指す場合は、研修の受講がおススメと言えますが、研修は高額なことが多く、会社が費用を負担して受講を推奨することが多いようです。
Ping-tの受験記を見る限り、参考書等で対策を行えば独学でも取得できるようなので、ご自身のスケジュールに合わせて対策を講じると良いでしょう。
8. まとめ
技術者としてITシステムを開発する際、目に見える形として「どう作るか」に重点を置きがちですが、同様にITシステムを「どう守るか」という、運用フェーズについても丁寧な検討が必要です。
ITシステムの安定稼働をサービスとしてとらえ、顧客満足度の高いシステムの運用管理をいかに効率よく実施していくか。ITサービスマネジメントの指標として、エンジニアがITILを学ぶ価値は十分あると言えます。スキルアップの一手段として、ITILファンデーションの取得を検討されてみてはいかがでしょうか。
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