リーン・スタートアップとアジャイル開発は、うまく組み合わせることによって大きな価値を生む考え方です。しかしそれぞれの違いを明確にして理解しなければ、有機的な関係性を生むことができません。
そこで今回は、リーン・スタートアップとアジャイル開発の違いを明確化しながら、両者を橋渡しするものとしての「デザイン思考」にも注目していきます。
1. リーン・スタートアップとアジャイル開発は何が違う
リーン・スタートアップとアジャイル開発は、それぞれの概念が有する志向対象が違います。
リーン・スタートアップは起業方法論の一種で、簡単に言えばいかに起業を成功させるかに志向性があります。具体的には「必要最小限の商品(MVP)」をまずリリース。反応を元に商品の改善を行っていきます。このとき、商品を実際に使ってもらって「どれくらい満足したか」が重視されます。
一方アジャイル開発はシステムやソフトウェア開発で求められる考え方で、「素早い(アジャイル)」製品提供を行うことに志向性があります。具体的にはソフトウェアの機能ごとに短いスパンの開発計画を立てることで、コンパクトで迅速な開発を目指します。
リーン・スタートアップとアジャイル開発はそれぞれ必要とされた背景は異なりますが、両者は非常に相性が良いのです。
1.1 リーン・スタートアップとアジャイル開発の関係性
リーン・スタートアップとアジャイル開発の関係性は、「不確実性」をキーワードに結ばれます。
リーン・スタートアップでは、リリースされた製品への顧客評価が分からないという「不確実性」があります。この「不確実性」を前提にしているため、顧客の評価軸が見えやすいMVPによってある種の実験がなされるのです。
一方アジャイル開発は、顧客ニーズの変化や技術の進歩といった「不確実性」を背景に生まれました。「不確実性」に対応するために、従来の「ウォーターフォール開発」のように全工程を通した要件定義などは行いません。
このように両者とも「不確実性」への対応を前提としているため、考案された背景が異なっても相性がよいのです。
1.1.1 リーン・スタートアップとは
リーン・スタートアップはアメリカの起業家エリック・リースによって、自身の起業経験をもとに提唱されました。
リーン(Lean)とは「筋肉質」や「痩せた」という意味があり、一般化すると「ムダが無い状態」として理解することができます。つまり、リーン・スタートアップとは大まかに言って「ムダを省いたスタートアップ」のことです。
「ムダを省いたスタートアップ」という理念は以下のサイクルによって実現されます。
■ 構築
仮説(またはアイデア)をもとに企画を作り、時間とコストをかけずに必要最低限の機能を実装した商品を開発。
■ 計測
開発された商品を顧客に利用してもらい、反応を見る。
■ 学習
顧客から得られたフィードバックをもとに商品をブラッシュアップする。
以上のプロセスを経て改めて構築(再構築)に戻りサイクルを回すことによって、顧客の満足度向上を目指します。
1.1.2 アジャイル開発とは
アジャイル(Agile)には「素早い」などの意味があります。つまりアジャイル開発とは「素早い開発」を志向した開発モデルのことです。そして、アジャイル開発における「素早さ」は、イテレーションという概念に象徴されます。
イテレーション(反復)では、小さな機能ごとに「計画」・「設計」・「実装」・「テスト」のサイクルを回しリリースを行います。リリースが小さな単位で行われることによって、社会のニーズの変化に迅速に対応できるという利点があります。
アジャイル開発については、こちらの記事でさらに詳しく解説されています。
2. リーン・スタートアップはなぜアジャイル開発を必要とするのか
リーン・スタートアップは実験的要素が強いため、変化への対応を柔軟に行えるアジャイル開発との相性が良いです。
2.1 【前提】リーン・スタートアップは「顧客志向」を徹底する
リーン・スタートアップの特徴の一つとして、「顧客志向」であることが挙げられます。「顧客開発」とも言われ、起業(またはプロジェクト)の初動から顧客の反応をベースにMVPの開発・リリースが進められます。
そして、「顧客志向」を中心に据えた「構築→計測→学習→再構築」のサイクルを繰り返すことによって、確実に顧客満足度を高めていくことができます。
2.1.1 短いスパンで顧客実証を繰り返す必要がある
不確実性の高い現代において、あらゆるスタートアップは自社の商品が顧客のニーズを満たしたものであるという確証もなしに行われます。そのため、どのようなアイデアも実験的状況にさらされるのです。
であれば実験の取り返しのつかない失敗を避けるために、リリースされる商品は必要最低限のものである必要があります。
そして、MVPを短いスパンで提供して顧客実証を繰り返すことで、商品のブラッシュアップを図っていきます。
2.1.2 InstagramとTwitter創業期の事例
顧客実証が成功の鍵となった事例として、「Burbn」(後にInstagram)と「Odeo1」(Twitterの原型)があります。特に、現在写真共有アプリの代表的存在であるInstagramは「顧客実証」によって急速な成長を遂げました。
Instagramの前身であるBurbnは、もともと位置情報アプリとしてリリースされました。このとき写真共有機能はいわば補助的なものでした。しかし、顧客の反応から写真共有機能にニーズが集まっていることが分かりました。
そこで、位置情報機能と写真共有機能の主従を逆転させInstsgramとしてリリースしたところ、爆発的に人気が高まったのです。
2.1.3 ユーザーストーリーを重視しつつ柔軟性を持つアジャイルとの相性がよい
リーン・スタートアップでリリースの単位となるMVPは「出来の悪いβ版」とは本質的に異なる、アイデア(仮説)の検証が可能なプロダクトのことです。
そしてユーザによる検証を可能とするには、MVPはユーザーストーリーと紐付いている必要があります。
そのため、ユーザーストーリーとの関係性において価値が大きい機能から開発していくアジャイル開発は、リーン・スタートアップと相性がよいのです。
2.1.4 アジャイルとリーンには「デザイン思考」も重要
リーン・スタートアップとアジャイル開発の組み合わせは、「デザイン思考」によってより効果的なものとなります。
リーン・スタートアップで仮説やKPIを定め、アジャイル開発でプロダクトを形にする。これらの間に「デザイン思考」を導入することによって、仮説を検証するためのMVPをより細かく検討することが可能となります。
2.2 アジャイルとリーンの組み合わせで市場で優位に立つこともできる
アジャイルとリーンの組み合わせによって、顧客満足度を高めつつ、プロダクトを早期に市場に送り出すことができます。そのため収益化も早く、後発のプロダクトよりも知名度が集まりやすくなります。
3. 【結論】アジャイルとリーンは「組み合わせ」で理解しよう
アジャイルとリーンを組み合わせで理解するというのは、それぞれを有機的な関連性の中で捉えるということです。
つまり、生まれた背景の異なる考え方を個別に理解し実行するのではなく、相互依存的な「役割」として考えなければなりません。
3.1 デザイン思考の役割
デザイン思考の役割は、アジャイルとリーンの橋渡しをするところにあります。
顧客による検証を経た後にリリースされるMVPは、当然ブラッシュアップされたものである必要があります。言い換えると、ユーザーのフィードバックが反映されていなければなりません。
そして、ユーザーによるフィードバックの効果を最大化するためにも、デザイン思考における「共感」や「概念化」といった考え方が必要なのです。
3.2 アジャイルの役割
アジャイルの役割は、デザイン思考を経て得られた施策を形にしていくことです。変化への対応が柔軟に行えるため、デザイン思考による方向性の転換にも耐えることができます。
3.3 リーンの役割
リーンは、デザイン思考やアジャイル開発を有機的に関連づけるためのフレームワークとしての役割を持ちます。具体的には仮説や追うべきKPIを立てることによって、スタートアップ時の方向性を定めることにも寄与します。
4. まとめ
リーン・スタートアップとアジャイル開発は似て非なるものですが、相補的な関係性にあります。そして両者の関係性のなかにデザイン思考も導入することによって、より顧客のニーズを満たした商品が生み出されるのです。