近年、企業内のエンゲージメント向上、生産性の向上などには、心理的安全性が必要だと言われており、1on1ミーティングを採り入れる企業が増えています。
しかし、単純に制度を取り入れたからと言って上手くいくわけではなく、むしろ、「1on1はもうやりたく無い」といった声も良く聞きます。そこには上司の傾聴力不足がその理由にあるようです。
本日は、組織開発、キャリアデベロップメントのスペシャリストである、柴田郁夫氏に話を聞いてみたいと思います。
株式会社志木サテライトオフィス・ビジネスセンター
代表取締役社長 柴田 郁夫
早稲田大学院理工学研究科修士課程建設工学修了。株式会社GKインダストリアルデザイン研究所を経て、昭和63年株式会社PI(パーソナル・アイデンティティ)サポート研究所を設立、代表取締役社長に就任。その後同社を名称変更し「株式会社志木サテライトオフィス・ビジネスセンター」として現在に至る。平成9年より10年間、青森大学に研究室を持ち「コミュニティビジネス論」「eビジネス論」等を担当。経営学部助教授、准教授、客員教授を務める。平成19年度、日本テレワーク学会の第4代代表理事(初代学会長)を務め、現在同学会顧問。一般社団法人地域連携プラットフォーム共同代表理事。公共機関と協働して「創業スクール」を継続して開講。「職育」をテーマとして始めたキッズステーション(民間学童保育)を提供する株式会社アーク教育社代表取締役社長。NPO法人東上まちづくりフォーラムでは設立時から2017年7月まで約15年間理事長を歴任。
仕事を選択する上での価値観「キャリアアンカー」。日本とアメリカのキャリアパスの違い
【Q】柴田さんは、MITスローン経営学大学院の元教授エドガー・ヘンリー・シャイン氏と共著・出版もされていますよね。その中で日本の組織、キャリアの問題を扱っていますが、具体的にはどのような点で問題がありますか?
エドガー・ヘンリー・シャイン氏は、我々キャリアコンサルタントであれば誰もが知る偉人であり、組織心理学の分野で多くの業績を残された方です。
シャイン氏は人々が仕事を選択する上での価値観を「キャリアアンカー(キャリアの碇)」と表し、人間には「8つのキャリアアンカー(※1)」があるということを論述されております。
人々は転職をするたびに会社という波止場にアンカーを下ろします。というアンカーを持つ人、ワークライフバランスを保ちたいというアンカーを持つ人など、人それぞれキャリアアンカーがあり、それらのアンカーは8つに分けられると言われているんです。
一般的に、アメリカでは35歳までに多くの転職を重ね、自身のキャリアアンカーを確立させる人が多いのに対し、日本では平均的に転職回数が少なく、35歳までにキャリアアンカーを確立させられる人は少ないと言われています。シャイン氏は、日本のような環境下では、自身のキャリアアンカーが何かを見極める機会が少なく、キャリアに悩む人が生まれやすいとも言っています。また、これらの環境では、個々の労働意欲や生産性の低下にも影響してしまうのです。
(※1)8つのキャリアアンカー:「専門・職能別能力」「経営管理能力」「自律・独立」「保障・安定」「起業家的創造性」「奉仕・社会貢献」「純粋な挑戦」「生活様式」
▶ 参考記事:キャリアアンカーによる自己分析のやり方とは?診断結果の活用方法を紹介!|マジキャリ
エンゲージメント向上のための鍵は「傾聴力」
【Q】Googleをはじめとして、近年エンゲージメントの重要性や、心理的安全性が大切だと言われていますが、これはなぜですか?
近年、企業や組織において「ワークエンゲージメント」はキーワードであり、私自身も昨年「ワークエンゲージメントの実践法則」という書籍を出版させていただきました。
ワークエンゲージメントを日本語に翻訳すると「経営陣・会社と従業員との絆」だと言わせていただいておりますが、この絆は従業員の希望・やりたいことと会社の方針・方向性が統合されていると深まり、ワークエンゲージメントが高いという状態になると言えます。
ワークエンゲージメントが高いと、業務に没頭できるため心理的安全性が保たれ、生産性やクリエイティビティの向上、結果的に会社の業績の向上に繋がるわけです。
【Q】スタートアップでも、1on1ミーティングを取り入れる動きが増えていますが、この制度がうまく機能していない組織が多いようです
1on1ミーティングでは業務内容に関する話し合いは行われているかと思いますが、先ほどご説明した従業員の希望・やりたいことに関するワークエンゲージメントを高める質問が出来ていないことがうまく機能していない原因の一つだと思っています。
従業員の働きがいや今後のキャリアビジョンについて明確化し、進行中の業務や今後対応する業務との擦り合わせを行うことで、企業で働くことの意義を感じてもらえるため、退職率の低下や業績の向上にも繋がるわけです。
とはいえ、日頃業務内容に関するミーティングにしか慣れていない方が、すぐにキャリアビジョンについて話し合いができるかというと、なかなか難しいんですよね。どう質問を投げかければいいかわからない、どういう雰囲気でミーティングを始めればいいかわからないなどと、大半の方は悩んでいます。
そこで、私はIT企業向けに行っているワークショップでは、「まずは聴くことから始めましょう」と話しています。つまり、傾聴が大事ということですね。
部下の発言に対しての一方的なアドバイスは業務に関する指摘であれば良いですが、ワークエンゲージメントを高めるための質疑応答では、まずは部下の話を聞き、助け船は出しても、全てを語らず、本人から回答がでてくるのを待ち、聞くに徹するということが大切なんですよね。
【Q】傾聴力が大切とのことですが、傾聴力を高めるにはどのようなアプローチをすべきでしょうか?
傾聴力を高めるには、カウンセリングの本質を理解するだけではなく、やはり実践が大切なのではないかと思います。
当社が提供しているワークショップでも初めにカウンセリングの原理を理解していただきますが、私自身が実践するカウンセリングも見学して頂きますし、実際に受講者の皆さんもカウンセリングの実践練習を行って頂きます。
短時間のワークショップですが、柔軟性のある方であればある程度傾聴力を意識したカウンセリングができるようになるんですよ。
より深い理論まで学びたい方は、当社のキャリアコンサルタント養成講座をお勧めします(笑)
多重関係を除いたカウンセリングを目的とした「キャリア相談室」設置のメリットとは
【Q】欧米では、組織内にコーチングやキャリアコンサルタントを設置する企業も多いようですが、日本でもこのような動きが増えているのでしょうか?
はい。日本でも大手企業の中で「キャリア相談室」というカウンセリング専門の窓口を設ける企業が増加しています。
キャリア相談室を設けるメリットは「多重関係でのカウンセリング」を防ぐ為ですね。
多重関係とは、「相談者とカウンセラー」という関係とは別に、「上司と部下」などと複数の関係性があることを言います。上司部下、夫婦といった別の社会的関係性が重複してしまうと「職場においてマイナスに評価されるのではないか」や「妻や夫に悪く思われたら嫌だからこのことは言わないでおこう」といった気持ちが邪魔してしまい、正常なカウンセリングが行えない場合があるんですよね。
業務内容に関するミーティングは上司部下間で行う必要がありますが、キャリア相談室では相談者の業務に直接関わりのないカウンセラーがいるのが大事だと認識する企業が増えてきたということでしょう。さらに、国家資格を持ったキャリアコンサルタントがいれば、カウンセリング内容は守秘義務により公開されることがないので相談者が本音を話しやすい環境でカウンセリングを行うことができます。
社内の人間関係、コミュニケーション改善、社員の成長に繋がるカウンセリングノウハウの習得方法。柴田氏が提供するキャリアコンサルタント養成講座
【Q】貴社の講座では、どのようなIT企業の方々の受講が多いのでしょうか?またこの資格を取るとどのようなメリットがありますか?
当社のキャリアコンサルタント養成講座の受講者は、PG、SEとして開発現場を経験され現在は経営陣の一人である方や、採用人事、管理職の立場に立たれている方が多くいらっしゃいます。
受講目的は人それぞれですが、職場の人間関係・コミュニケーションの改善や、資格取得、管理職の方は部下や新入社員などの成長のために受講される方が多いのが特徴ですね。本来であれば、キャリア相談室を設けて多重関係ではないカウンセラーがいるのがベストではありますが、そこまでやるにはいろいろとコストもかかるので、まずは上司がこのような知識やスキルを身に着けようという企業も増えているのだと思います。
養成講座は週1日8時間の研修を計10日間行います。毎週宿題として講座で学んだことをご自身の職場、環境で実践していただくのですが、着実に手ごたえを感じられる方が多く、講座通りに傾聴を意識してみたところ、部下の自分に対する態度が変わったという声や、職場だけでなくご家庭でも夫婦間でのコミュニケーションが増え、関係が改善されたという声もございました。
【Q】実際の試験内容はどのようなものなのでしょうか?また資格取得には具体的にはどの程度の勉強量が必要ですか?
試験内容は学科試験と実技試験があり、学科試験は50問4者択一の問題を100分間で解いていただき、35問以上正解で合格。実技試験は面接と論述の2科目があり、6割以上の点数がとれていれば合格です。面接試験では実際のカウンセリングを行っていただきます。学科、実技共に合格できて初めて国家資格者になれます。
具体的な勉強量についてですが、当社では学科試験の赤本を毎年出版しており、Amazonでジャンル1位を獲得した教材がございます。1500問以上の問題を掲載しており、個人差はありますが約60時間の学習を行えば7割以上の点数がとれるよう構成しております。仮に1日2時間学習時間が確保できれば、1か月で学科試験に合格できます。
実技試験対策の教材も出版しておりますが、当社では実技試験の受験対策講座も行っており、受講者の実力に合わせて受講時間を自由に決められます。養成講座を受講された方であれば、約6時間程度の受験対策講座受講で合格できています。
【Q】貴社のキャリアコンサルタントの資格講座の特徴を教えてください
1つ目は、リーズナブルな受講料ですね。講座はコロナ渦以降、全てオンラインで実施し設備費を削減することで、受講費を業界最安値の価格帯で提供させていただいています。
2つ目は、高い合格実績です。全国平均の合格率は約55%程度ですが、当講座受講者の初回合格率は約70%です。講座で使用する教材は私自身が監修し出版した教材を使用しており、著者本人が講師として指導させていただきます。また、国家資格よりも更に合格率の低い国家検定キャリアコンサルティング技能検定を取得している講師陣が中心となっておりますので、受講時間80時間という短期間で資格取得の実現が可能なんですよ。
3つ目は、組織開発(Organization Development)まで学べることです。これは組織の課題を「人と人」、または「グループ間」などの関係性にあると捉えたアプローチで、近年話題にあがる企業カルチャーに関係する内容です。当社の講座ではアドバンス資格として、組織開発に関する指導もございます。
また、受講後のフォローや人的ネットワークも当社の特徴だと思います。受講生同士と関わる場や、国家資格取得済みの卒業生協力のもと自主勉強会の開催、ITや福祉、人材紹介等の業界ごとのネットワークの紹介など、今後のキャリアに活かせそうな情報交換ができる場を提供しております。
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柴田郁夫氏の著書