大学研究所インタービュー。今回は愛知県立大学 小栗・河中研究室を訪問させていただきました。
愛知県立大学 小栗・河中研究室 : http://www.ist.aichi-pu.ac.jp/lab/oguri/
こちらの研究所では、脳波や心電、脈波といった生体信号を活用して人の状態を推定する「生体信号処理の研究」と、交通事故の無い世の中を目指す「ITS(Intelligent Transport Systems)の研究」という2つの分野の研究に取組んでいます。
今回訪問させていただいたそもそものきっかけは、2017年1月に東京ビッグサイトの会場で開催されたイベントの中の一つ、「オートモーティブワールド」というエリアにて、小栗・河中研究所の皆さんが出展されていたブースを訪問させていただいたことから。
ブースでは、愛知県立大学の他にも、複数の愛知県の企業が「自動車安全技術プロジェクトチーム(PT)」として共同出展をしていました。愛知県は、自動車交通事故死者数が全国ワースト1位。愛知県ではその深刻な事実を受け、2013年に、交通事故の抑止と安全対策の取組みの一つとして、企業・大学・行政が一丸となった、こちらのプロジェクトをスタートさせました。
小栗・河中研究室では、イベント当日に「交通事故低減のための安心安全管理技術の開発」として、現在研究をしている「白線状態マネージメント技術による路面標示管理技術の仕様化・実用化」「次世代スマート交差点技術による無信号交差点安全技術の仕様化・実用化」「蓄光・蛍光路面標示技術による次世代路面標示の仕様化・実用化」を紹介。
その中でも、白線状態をマネジメントするというシステムに注目させていただき、取材を申し込ませていただいたところ、快く承諾してくださいました。
目次
1. いざ、愛知県立大学へ!
今回訪問させていただいた愛知県立大学 長久手キャンパスは、名古屋駅から約1時間程。名古屋駅から東山線に乗って藤が丘駅まで行き、そこからリニモ(Linimo)に乗り換えて、大学の最寄り駅である「愛・地球博記念公園」駅で下車します。
リニモは日本発の磁気浮上式リニアモーターカーで、愛知万博にあわせて2005年に開通。静かで、揺れがほとんど無い為乗り心地が良く、車両の大きな窓からは開けたのどかな景色を臨むことができます。
リニモに揺られること10分とちょっと。愛知県立大学に到着しました!
愛知県立大学は、今回訪問させていただいた長久手キャンパスの他にも、守山キャンパス、サテライトキャンパスがあります。長久手キャンパスには、情報科学部、外国語学部、日本文化学部、教育福祉学部が入っており、守山キャンパスには看護学部が入っています。
それぞれの学部棟が広大な敷地内に建てられているのですが、建物がそこまで高く設計されておらず、空が開けている為か、キャンパス内はとても広々と感じられました。
建物内部は吹き抜けの構造になっています。開放感があって、無駄がないデザインとなっており、スタイリッシュな印象です。
そして、こちらがインタビューをさせていただいた小栗教授の研究室がある長久手キャンパスC棟。
研究室入口横の掲示板には、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc)というアメリカを拠点とする電気工学・電子工学技術の学会の宣伝が多数貼られていました。小栗・河中研究室の学生は、海外の学会にも積極的に論文を提出しているのだそう。
研究室は最上階の5階にあった為、眺めがよく、訪問した時はちょうど綺麗な夕焼けを見ることができました。遠くには、愛・地球博記念公園の大観覧車が!
2. 道路側からも安全対策を 「白線劣化データ収集システム」
今回、注目させていただいた「白線劣化データ収集システム」。こちらのシステムの開発がスタートしたのは約4年前から。その頃から、交通事故を減らす為のシステムの考案が始まり、河中准教授が2015年に公益財団法人 科学技術交流財団のメンバーになったことを機に本格的にスタート。
愛知県と公益財団法人 科学技術交流財団は、「知の拠点あいち重点研究プロジェクト」として、大学などの研究シーズ、行政の研究環境、企業とを一致団結させることで、社会の課題の解決することを目指しています。現在、96の企業、16の大学、9の研究開発機関が参加しているのだそう。
そして、小栗・河中研究室では、車はどのメーカーも力を入れて技術開発に取組んでいる為、安全性は高まってきている。けれど、そもそもその車が走る道路側の安全性を高める取り組みというのは、まだあまりされていないのではないか、ということに思い至ります。
「車だけではなく、道路側からも交通事故を減らす為の安全対策を」という発想から、このプロジェクトは動き始めました。
そして、道路側からの安全対策の取り組みとして、研究所の皆さんが注目したのが道路の路面標示でした。
全国には約120万キロの道路があるのですが、道路の路面標示はかすれている所が多く、白線が引かれているのか・いないのか、運転手がわからない場所がかなりあるのだそう。
都道府県道・市町村道というのは、各自治体が管理をしているのですが、白線がどの様な状態かを把握し、管理をすることはできていないのだといいます。また、「止まれ」といった規制標示は警察が管理をしていますが、やはり、どの様な状態になっているかの把握・管理はできていないのが現状です。
そこで、小栗・河中研究室の皆さんは、白線の状態をデータとして収集し、管理するシステムを考案。劣化している白線があれば、すぐに塗り直しを行い、またそれだけではなく、今は塗り直しが必要無い場合でも、あとどれ位で塗り直しが必要かという次の塗り直し時期を把握しておき、劣化時期になった際にはすぐに塗り直しを行えるうようにする、といったことを目指しました。
データの収集方法は、白線の種類によって「モバイル端末型」「設置型」「車両搭載型」の3つのいずれかに分かれます。
「モバイル端末型」は横断歩道、停止線、横断予告、優先予告、止まれマーク向け。実際に現地に行き、タブレット端末を使って白線を撮影。それをデータとして専用のアプリにアップしていきます。
「設置型」は横断歩道向け。白線の近くに白線を監視する固定カメラを設置し、随時、データを収集する方法です。
「車両搭載型」は区画線向け。車のドライブレコーダーを利用し、走行しながら道路脇の白線の状態を撮影していきます。
そうやってGPS情報及び劣化率を集めていき、クラウド上にある独自の地図情報システムにデータとしてアップ。該当箇所にはピンが立てられて地図に表示され、また、劣化の状態が5段階に色分けされて表示されるようになっており、一目で現在の状態を知ることができます。
ちなみに、劣化率のことを剥離率というそうで、今は人の目視によってその基準を出しているのですが、研究所では、学生さんが考え出した計算式によってその率を算出するようにしています。
システムの開発・実験途中である現在は、まだ実験を行っている車は1台。次のステップとして、ゴミ収集車やバス、タクシーも利用してデータを収集したり、あるいはデータを収集する専用のドライブレコーダーを開発し、全国の自治体で使ってもらえるよう、広げていくことを計画しているといいます。
このシステムが広がれば、白線の塗り直し時期の予測と提案ができ、交通事故の軽減に繋がる可能性があるというのもそうでうが、もう一つ、システムによって膨大なデータを収集することによって、他の現象との新しい関係性を見つけられるのではないかといいます。
例えば、路面表示がかすれているエリアは、実は渋滞が多いところであったり、事故が多いところだといった様な関連性を見つけ出し、こういった情報を交通安全の為の情報として発信していきたいとも考えているのだそうです。
この「白線劣化データ収集システム」以外にも研究所の皆さんは、コードを白線に埋め込むことで、車がその上を走っていくことで情報を集めることができるシステムや、夜の暗い時にでも見えやすいように、蛍光材や蓄光材を混ぜこんだ白線の開発といった取り組みも行っています。
3. いざ、研究真っ只中の研究室へ!
「白線劣化データ収集システム」についての説明をお伺いした後は、小栗・河中研究室の学生の皆さんが研究を行っている部屋を実際に見せていただくことができました。
部屋の入口で、オリジナルキャラクターの「APU(あっぷ)ちゃん」が出迎えてくれました!こちらのAPUちゃんは研究室の皆さんがデザイン・開発をしたキャラクターで、デバイスに向かって「おはよう」「こんにちは」などと話しかけると、反応し、返事をしてくれるようになっています。
こちらは、被験者の脳活動の様子を解析し、脳がどれくらい活発な状態であるかを測定しています。
こちらはドライブレコーダから眠気を推定するシステムで、トラックやタクシーを中心に普及しているドライブレコーダのデータを利用しています。
ドライブレコーダから、速度や前方映像といったデータを取得することができ、そこからドライバの眠気を推定。運転中、ドライバに推定された眠気をリアルタイムにフィードバックすることで、交通事故を減らすことを目指します。この眠気は普段、ドライバが運転している中で取得していくことが可能です。
こちらはドライバーの生体信号データを取得している様子。視線情報や筋電位・心電図を計測し、そこから「違和感」を推定しているのだそうです。
これは自動運転に向けた取り組みということで、ドライバの意思と加減速のタイミングが合致しない際の違和感を明らかにすることで、快適な自動運転の普及と、交通事故の減少を目指しているといいます
こちらは血圧を測ることができる小型のマイクロコントローラ「Ardino」。
通常、血圧はカフという腕帯を腕に巻き、加圧をして測定します。ただ、このやり方だと血圧を測ることができるのは巻いている時だけに限定されてしまいます。
そこで、圧迫させることなく、連続的に血圧を測定する為にArdinoをベースとして開発。。Ardinoに接続されている光電容積脈波センサによって血圧が測定できるようになっており、指に乗せるだけでいいとのこと。
今後は、ウェアラブルデバイスやスマートフォンに組み込むことで、日常生活の中で手軽に血圧を測定し、健康モニタリングに繋げることを目指しています。
こちらは、カメラを使って皮膚の映像を取得し、その映像から生体信号を抽出して健康状態を推定するシステム。
特殊なセンサを装着することは、身体へ負担をかけてしまいますが、皮膚映像を使うこちらの方法であれば、カメラの前にいるだけでデータを取得することができ、身体に負担をかけることもありません。
在宅医療や健康モニタリングの充実が求められている現在において、研究所では、人に負担をかけることなく、日常生活の中で自然に使える健康管理のシステムの開発を目指しているのだそうです。
こちらは、トイレで尿流量計測を行うという研究。通常、尿流量計測は専用の機器で行う為、普段の排尿時に測定はできません。ただ、毎日する排尿には人の重要な健康情報が詰まっています。
そこで、トイレの便座部分にカメラを設置し、空中に放水された尿の様子を毎日撮影することで、排水量を推定、そこから健康状態を把握します。
毎日排尿をチェックをする為、身体に異常があった際にはいち早く発見することができ、また、身体に直接触れないで計測をする為、計測機器による感染も防ぐことができるといいます。
「未来型トイレ」として進められているこちらの研究は、現在、大手トイレメーカーさんと共同で開発をしているのだそうです。
小栗・河中研究室の学生の皆さん。研究に真剣に取り組んでいます。
研究室では他にも、生体信号を計測し、「心の見える化」をする研究もしており、その一つとして人の「ビビリ度」の定量化を行っています。2016年7月から9月にかけて、毎日放送がNTT西日本等の協力によって開催したお化け屋敷「ふたご霊」(http://www.mbs.jp/obake/)では、脈拍や体温といったバイタルデータの解析とアルゴリズムの開発を担当し、人の恐怖や驚きといった心の状態の可視化に取組んだのだそう。
また、NTT西日本とゴルフダイジェスト社による、ゴルフのプレイ中のメンタル状態を可視化する取組みにも技術面から参画されたといいます。
研究室ではこの様に、企業との連携によるプロジェクトも多く、NTT西日本、LIXIL、DENSO、FUJITSU、豊田合成、名古屋COI、矢崎、TTDC、KICTECなど、共同開発の実績を積んできています。
また、年に平均で6回程、ヨーロッパやアメリカをメインに、国際学会での発表にも取組んでいるとのことで、国内外で、積極的に活動をされていらっしゃるのだそう。
河中准教授曰く、研究所の皆さんは、「健康で有意義な暮らしを長く続けていける社会にする」「世界の白線を変える」「世界のトイレを変える」といったことを本気で考えながら、日々研究に取り組んでいるのだといいます。
人から得られる情報を収集・分析し、日常の生活の中にシステムを自然に取り入れることで、人に負担を掛けることなく、より良い社会の実現を目指す小栗・河中研究室の皆さんの研究は、様々な分野において活用することができる、可能性のある物だと感じました。
皆さんの研究が実現し、世の中に広まっていく日が来ることが待ち遠しいです!!