近年多くの企業やチームがアジャイル開発を導入しています。そして、スピード感のある開発が求められるなか、アジャイル開発を導入するメリットはますます大きくなっています。
そこで、この記事ではアジャイル開発のメリットについて詳しく解説していきます。デメリットやアジャイル開発が向いているシステムについても説明しているので、ぜひ参考にしてみてください。
1. アジャイル開発のメリットとは?
アジャイル開発導入のメリットは、開発に「柔軟性」や「スピード感」を与えられる点にあります。とはいえ、単にメリットだけを把握しても意味がありません。アジャイル開発の意味や理念・原則、デメリットも理解することで、アジャイル開発の持つメリットや効果を最大化させることが可能となります。
1.1 アジャイル開発の定義
アジャイル開発は、プロダクト開発における開発手法の1つの理念・モデルのことです。従来型のウォータフォール開発に比べて、サービスインまでの時間が大幅に短縮できるという特徴があります。
アジャイル開発は、アメリカ合衆国のユタ州に集まった17名の有名な技術者・プログラマによって考案されました。それぞれに持ち寄った開発手法の重要だと思われる部分を抽出・統合し、「アジャイルソフトウェア開発宣言」としてまとめられたのが始まりです。
それでは、なぜ「アジャイル」なのか、「アジャイルソフトウェア開発宣言」とは何かについて詳しく解説していきます。特に、アジャイル開発を行う上で、「宣言」の内容についてチームで共有していることは大前提となります。
1.1.1 直訳すると「素早い」「頭の回転が速い」という意味
アジャイル(Agile)を直訳すると、「素早い」「機敏な」「頭の回転が速い」などの意味があります。つまり、アジャイル開発とは「素早い」開発を志向するものだということです。従来型の開発手法に比べて、リリースまでの期間が大幅に短縮されます。
アジャイル開発の「素早さ」を象徴するものの1つが、イテレーション(反復)という開発手法です。イテレーションでは、「計画」「設計」「実装」「テスト」、そしてリリースまでの一連の工程を2~3週間、遅くとも2~3ヶ月という短期間で回します。
なお、アジャイル開発については、こちらの記事でも詳しく扱っています。
1.1.2 アジャイルソフトウェア開発宣言に原則・マインドが集約
アジャイル開発を行う上でとりわけ重要なのが、「アジャイルソフトウェア開発宣言」に込められたマインドを理解することです。宣言の内容は以下の画像の通りです。
出典:アジャイルソフトウェア開発宣言の読みとき方|IPA情報処理推進機構
宣言中の「左記のことがら」とは、主に従来型の開発で重視されていた価値です。アジャイル開発ではそれら「よりも」、「個人との対話」「実際に動くソフトウェア」「顧客との継続的な協調関係」「変化への対応」を重視します。
さらに、以上の理念は12の原則が背後に控えています。原則は、4つの理念の具体的な内容を説明するものとなっています。アジャイル開発を導入する際は、「チーム全体で」理念・原則を理解しなければなりません。
1.2 アジャイル開発に向いているシステム
サービスインまでの所要時間が短いという特徴だけを見るならば、アジャイル開発は常に導入すべきもののようにも感じられます。しかし、デメリットもいくつかあり、なおも従来型の開発手法が適しているシステムも多くあります。アジャイル開発の導入を考えているシステムは、本当にアジャイル開発に向いているものなのか、今一度熟考してみましょう。
1.2.1 予見性が低く「仕様が変わる」ことが前提のシステム
アジャイル開発では、「変化」をむしろ歓迎すべきことだと捉えます。そのため、技術的課題の予見性が低く、仕様変更が前提とされているプロジェクトではアジャイル開発が適しています。
アジャイル開発は短いスパンで成果物を顧客に提出し、その都度ブラッシュアップを重ねていけるので、特に中流工程で強みを発揮することができます。
1.3 アジャイル開発のメリット
ここでは、アジャイル開発のメリットについて詳しく解説していきます。メリットを理解しておくことで、アジャイル開発が導入を考えているプロジェクトに適しているのかの判断もできるようになります。
1.3.1 仕様変更に強い
アジャイル開発は、ウォーターフォール開発に比べて仕様変更に対して強みを発揮します。
ウォーターフォール開発では初めに綿密な要件定義を行います。そのため、開発途中の仕様変更はイレギュラーそのものです。開発チームは仕様変更による影響範囲を確定し、定義書の書き直しやスケジュールの調整まで行わなければなりません。
一方、機能別に「計画」や「設計」を行うアジャイル開発は、仕様変更に対しても柔軟に対応することができます。顧客のフィードバックの後に仕様変更や要望の追加が発生しても、その内容を次のイテレーションに反映させることで対応可能です。
1.3.2 サービスインまでの所要時間の短縮
アジャイル開発は、その名の通りサービスインまでの所要時間を短縮させることにも強みがあります。
アジャイル開発では、ソフトウェアの各種機能をひとつの単位として、「計画」「設計」「実装」「テスト」という一連の工程を回し、リリースします。その際、ユーザーストーリーを取り込んだリリース計画を立てることによって、いち早くユーザーのニーズを満たしたプロダクトを提供することが可能となります。
また、短期間でサービスインを行うことによって、市場において競合他社より優位に立つこともできます。そのため、アジャイル開発はリーンスタートアップとの相性の良い開発モデルだと言えるでしょう。
1.3.3 顧客ニーズに寄り添った開発ができる
アジャイル開発は、開発進捗が見えやすいという特徴があります。従来型のウォーターフォール開発は対照的に、プロジェクト全体の最後の工程にリリースが位置付けられているため、顧客にとって途中の成果はブラックボックスのようなものです。
一方、アジャイル開発では短いスパンで成果物をリリースするため、顧客は開発進捗を確認できて、開発チームはその都度フィードバックを得ることができます。そして、次のイテレーションに仕様変更や要望をタスクとして追加することによって、顧客のニーズに最大限寄り添った開発を行うことができます。
1.4 アジャイル開発のデメリット
アジャイル開発のデメリットは、メリットと表裏一体の関係にあります。仕様変更への強さは、場当たり的な開発のリスクがつきまとい、顧客との協調のなかで進められる開発は、要求の引き出しに失敗する可能性が伴います。しかし、この記事でしっかりデメリットを理解しておくことで、アジャイル開発のメリットを最大化することにつながります。
1.4.1 場当たり的な開発に陥るリスクがある
アジャイル開発は上流工程に弱く、プロダクトの全体像が見えにくいというデメリットがあります。プロジェクトの方向性がはっきりしていないと、強みであるはずの仕様変更への対応も、場当たり的で整合性・一貫性の無いものになってしまいます。
以上のような事態を避けるためにも、適切なプラクティスやツールの導入、プロジェクトマネージャーを中心としたプロジェクトの管理が行われる必要があります。
1.4.2 顧客から最適な要求を引き出しきれないことも
顧客が、システムやソフトウェアが解決すべき課題や開発目的を整理し切れていない場合、要求を引き出し切れずに終わってしまうリスクがあります。その結果、出来上がったものが当初予定していた方向性と大きくずれてしまう可能性があります。
アジャイル開発は初動が速いことにメリットもありますが、最初の要件定義をどの程度固めておくべきかは、自社なりの基準を定めておくべきです。また、以上のような事態を想定して、契約上のリスクも見積もっておくべきです。
2. アジャイル開発とウォーターフォール開発の比較
ウォーターフォール開発は上流工程・下流工程に強く、方向性に一貫性を持たせた開発を行うことが可能です。他方、アジャイル開発は中流工程に強く、仕様変更などに柔軟に対応することができます。
このような比較からわかるように、両者は必ずしも相反する関係性にあるわけではありません。むしろ、両者を適切に使い分けることで、デメリットを補い合った「ハイブリッド開発」を行うことも可能です。
なお、アジャイル開発とウォーターフォール開発の関係性については、こちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
3. アジャイル開発の具体的な手法・プラクティス
アジャイル開発の開発手法の1つに「スクラム開発」があります。スクラム開発は「チームで開発を進める」ためのフレームワークで、「スプリント」という短いスパンの一連の工程を繰り返します。
そして、スクラム開発あるいはアジャイル開発では「チーム」を重視しますが、目的に応じてプラクティスを導入することによって、「チーム作り」を円滑に行うことができます。代表的なプラクティスには以下のようものがあります。
◆ インセプションデッキ
特定の10個の質問にチームで答えを出しながら、プロジェクトの全体像・方向性をチーム内で共有する。
◆ ドラッカー風エクササイズ
スキルや自己評価に関する4つの質問に各自答えていき、チームの中におけるメンバーの立ち位置を明確化する。
◆ 星取表(スキルマップ)
いくつかのスキルが書かれた表に、各自そのスキルの習熟度を記していく。技術的な面でのチーム運営を円滑化する。
先述したように、アジャイル開発にはいくつかデメリットがあります。しかし、スクラム開発やプラクティスはアジャイル開発のデメリットを補い、メリットを最大化させることに役立ちます。
なお、アジャイル開発のプラクティスについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
4. まとめ
アジャイル開発のメリットは、「仕様変更への強さ」「サービスインまでの速さ」「顧客ニーズへの寄り添い」などが挙げられます。しかし、以上のメリットはデメリットとの表裏一体の関係にあることも忘れてはなりません。メリットを最大化し、デメリットを避けるためにも、ツールの導入やプラクティスなども試してみてはどうでしょうか。