SIerで働いていて、会社の将来性に不安を感じる社員、もしくはSIerを視野に入れている就活生の方の悩みと解決策を解説します。SIerには将来性が無いと言われていますが、本当なのでしょうか。今回は、Slerの将来性、仕事内容、Slerに不安を感じた人がチェックしておきたいことなどを1つ1つ見ていきましょう。
1. SIerには将来性がない?ヤバい?
SIerには将来性がないのでしょうか?今回は、
- SIerとは
- SIerの仕事内容
- SIerの市場規模
- SIerの将来性に関する著名人の発言
それぞれについて解説し、SIerには将来性があるかどうかをお伝えします。
1.1 SIerとは
SIer(エスアイアー/エスアイヤー)は、別名システムインテグレーター(System Integrator)とも呼ばれます。主に、医療機関や金融機関、官公庁等の非IT企業のITシステムのコンサルティング、設計・開発・運用などを一貫して請け負うことを事業にしています。これらの事業はシステムインテグレーターの頭文字をとってSI事業とも呼ばれています。
SIerについて詳しく知りたい方はこちらも参考にしてください。
1.1.1 SIerとSESの違い
よく言われているSES企業とは簡単に言うと、プロジェクトで人員が欲しいと言われ、顧客企業に出向いて仕事をする事業をメインで行っている企業のことです。
SIerとSESの違いは
- SIer→受託開発を行う企業
- SES→契約形態の一つで、準委任契約とも言われる
準委任契約とは、発注元に業務指揮命令権がない契約のことを指し、あくまでも自分が所属する会社(フリーランスの場合は自分)の命令に従って業務を遂行します。
SlerとSESの違いについて詳しく知りたい方はこちらも参考にしてください。
1.2 SIerの仕事内容
SIerは官公庁や医療機関、金融機関など堅牢性が要求され、なおかつ開発規模が大きい案件を安定的に受注しているケースが多いです。開発手法は基本的にウォーターフォールで、請負開発になるため、プロセス・納品物を明確化するためにウォーターフォールが採用されています。
SIerでは要件定義・設計をはじめとする上流工程を実施した後、コーディング作業は下請けに外注するケースもあります。大手SIerの代表格は、NTTデータ、富士通、日本IBMなどが挙げられます。
これら大手SIerが旧社会保険庁(現日本年金機構)の年金システム※1、特許庁の特許管理システム※2、防衛庁の防衛システムなどの官公庁のシステム開発※3、運用プロジェクトや、銀行系の案件※4など大口案件を受注し、さらに、子会社や下請けのソフトウェア開発会社がこれらの業務を請け負う形となっています。よって「ITゼネコン」とも呼ばれます。
出典:
※1:年金システム開発が1年以上停滞|日経クロステック
※2:年表で見る年金機構・特許庁のシステム調達改革、新たな課題も|日経クロステック
※3:中央官庁のシステム開発に見るウイングの強み~従来のIT諸問題を解決!~|株式会社ウイング
※4:みずほシステム統合の謎、参加ベンダー「約1000社」の衝撃|日経クロステック
1.3 SIerの市場規模
2018年の国内ITサービス市場は5兆6,664億円で前年比成長率は2.1%でした。
ここで、売上額が高い企業を5つご紹介します。
ランキング | 企業名 | 2016年 売上額(億円) |
2017年 売上額(億円) |
2018年 売上額(億円) |
---|---|---|---|---|
1 | 富士通 | 11,830 | 11,925 | 11,987 |
2 | 日立製作所 | 8,676 | 8,706 | 9,128 |
3 | NTTデータ | 8,396 | 8,674 | 8,886 |
4 | NEC | 9,006 | 8,725 | 8,804 |
5 | IBM | 6,884 | 7,010 | 7,110 |
出典:国内ITサービス市場シェア、2018年:既存システムの刷新/更新需要が成長を支える|IDC
Slerの市場規模は年々拡大しており、サービスセグメント別にみると、プロジェクトベース市場では、製造や流通、政府/公共分野を中心に、上位10社が全てプラス成長を遂げています。サーバー運用管理、保守や障害時の対応を行うマネージドサービス市場では、上位においてランキングの変化はなく、富士通が1位をキープし続けています。
このように、SIer市場は着々と伸びているのがわかります。
参照:国内ITサービス市場、2018年のトップ5は、富士通、日立製作所、NTTデータ、NEC、IBM――IDCがランキング発表|EnterpriseZine
1.4 SIerの将来性に関する著名人の発言
「2ちゃんねる」を開設したひろゆき氏によると、「SIerで働いているエンジニアは今すぐ逃げた方がいい」と述べています。
参照:SIerって本当にヤバいの? ひろゆきが語る、業界ごと沈まないためのキャリア戦略|type
その理由としては、
- 他社にモノを売るビジネスモデルはたくさんある
- 競争に勝つためには、コストを削減しなければならない→給料カット
- 工夫する機会に恵まれない
などがあります。
自社開発企業であれば、まれに「当たる」こともあり、社員に還元されるパターンがありますが、SIerでは基本的に他社にモノを納品するスタイルなのでそのようなことはありません。
また、SIerに在籍していると、仕様書通りに進めるのが基本のため、「ユーザーのためになるにはどうすれば良いか」「こう書いた方がリソースコストが下がる」のような工夫は喜ばれません。そのため、工夫する機会に恵まれず、エンジニアとして成長しづらいと述べています。
2. SIerが「将来性のない仕事」「なくなる仕事」と見なされることがある理由
SIerが「将来性のない仕事」「なくなる仕事」と見なされることがある理由については以下の4つがあります。
- 下請け構造
- ウォーターフォール開発
- SaaSやクラウドサービスへの移行
- 2025年の崖問題
2.1 下請け構造
SIerは仕組み上、多重下請け構造があり、下請けにとっては「手掛けるフェーズが限られていてキャリアアップを図りづらい」「上の商流のエンジニアと同じ業務を手掛けていながら給与が低い」といった問題が発生しやすいです。
発注元の要求は厳しさを増し、過酷な労働環境や低賃金を強いられており、離職率も高く、人手不足です。下請けから元請けに昇格した中堅・中小SIerも中にはありますが、多くはなく、元請けのSIerが競争力を失えば下請けも総崩れするリスクを抱えています。
2.2 ウォーターフォール開発
SIerではウォーターフォール開発が主流ですが、Web系企業ではアジャイル開発が主に用いられています。アジャイル開発とは、プロダクト開発における開発手法の1つの理念・モデルのことでウォーターフォール開発に比べて、サービスインまでの時間が大幅に短縮できるという特徴があります。
アジャイル開発のメリットは、
- 仕様変更に強い
- サービスインまでの所要時間の短縮
- 顧客ニーズに寄り添った開発ができる
などがあります。
柔軟性がないウォーターフォールは現在のような流動性が早く予測できない経済環境、つまりVUCA時代に対応できるのか懸念点があります。一度仕様を決めてから、手直しが発生した場合、大幅な工数がかかるような、柔軟性のない開発スタイル自体が時代と合っていない可能性があります。
2.3 SaaSやクラウドサービスへの移行
SaaSの市場規模は、2018年現在で4798億と、ITサービス市場の5兆6664億の約10分の1の大きさです。
参照:システムインテグレーターとDX|DX-Compass by Genesia.
SaaSはSIerよりも市場規模がはるかに小さいですが、世界に400 社以上存在するユニコーン企業(企業価値1,000 億円以上の未上場企業)のうち、50社以上がSaaSを手掛けていると言われ、急成長業界でもあります。
官公庁や大企業への導入にあたってはセキュリティ面のリスクも要検討ではあるものの、簡易的なシステムなどの開発は、SIerではなくSaaSやクラウドに移行していく可能性も高いでしょう。
2.4 2025年の崖問題
2025年には21年以上稼働しているレガシーシステムがシステム全体の6割を占めると予測されており、技術者の引退などに伴い、レガシーシステムの問題が徐々に顕在化してくるでしょう。そもそも日本企業のシステムはスクラッチ(カスタマイズされたもの)が多すぎ、ブラックボックスを生んでいる理由でもあります。今後、これらのシステムを刷新する必要があり、この刷新の波に乗り遅れた企業は多くの事業機会を失います。刷新に当たってクラウドに移行する事業者も増えると予測され、スクラッチを多用していたSIerの存在価値が揺らぐことになるでしょう。
3. SIerは本当に「なくなる仕事」なのか?
SIerは本当に「なくなる仕事」なのでしょうか。結論から言えば、上流で受注するSIerがなくなることはないです。下請け構造は働き方改革で改善が進み、スクラッチ開発は減り、SaaSの導入が進むでしょう。スクラッチ多用で下請け・孫請けに案件を振り続けていた旧来型のSIerは厳しくなることが予想されます。
3.1 官公庁やインフラの大規模案件を受注する企業がなくなることは考えづらい
官公庁やインフラの案件は、セキュリティホールを生んではならず、堅牢性の高さが求められます。スピードよりも圧倒的にセキュリティ重視かつ、案件規模が大きいことが特徴です。規模と堅牢性を同時に要求される案件を安定的にこなせる事業者は、これはこれで価値があるので、受注するSIer的存在の企業がなくなることは考えづらいです。
3.2 下請け構造は徐々に是正が進む
下請け構造は徐々に是正が進んでいくでしょう。働き方改革が進み、長時間労働が是正されつつあります。また、ウォーターフォールで要件定義を行い、中間の開発をアジャイルで進めるウォーターフォールとアジャイルのハイブリッド型の開発も広まっています。ウォーターフォール開発でこれまで発生しがちだった、手戻りの大きさとそれに伴う残業の恒常化や締め切りの厳しさは徐々に和らいでいく可能性があります。
3.3 簡易的なシステムは徐々にクラウドやRPAに移管
2025年の崖問題の大きな問題点の1つが、スクラッチの多用によるシステムのブラックボックス化です。簡易的なシステムであればスクラッチは不要で、クラウドやRPAなどに移管していけば十分という認識が広がっていくことが予測されます。スクラッチ開発は減り、SaaSの導入が進むでしょう。スクラッチ多用で国内下請け・孫請けに案件を振り続けていた旧来型のSIerは厳しくなることが予想されます。
3.4 海外アウトソーシングという選択肢もある
SaaSやクラウドでなくスクラッチをクライアントが希望するとしても、高価な日本人エンジニアでなく海外アウトソーシングを活用すればよりコストが抑えられます。やはりスクラッチ多用で国内の下請け・孫請けに案件を振り続けていた旧来型のSIerは厳しくなるでしょう。
4. SIer業界の将来性に不安を感じる人がチェックしておくべきポイント
SIer業界の将来性に不安を感じる人がチェックしておくべきポイントは以下の3つです。
- 主な取引先
- キャリアパス
- 自分が身に付けたいスキルは「マネジメント」か「プログラミング」か
それぞれ詳しく解説します。
4.1 主な取引先
官公庁、インフラ、銀行など大手クライアントから安定的に案件を受注し続けているSIerは、景気変動にも比較的強く、経営の安定性が期待されます。
4.2 キャリアパス
多くのSIerでのキャリアパスはマネジメント寄りです。下流工程で経験を積んだのち、クライアント企業から業務要件をヒアリングしてシステム仕様に反映したり、仕様をクライアントにプレゼンテーションするといったマネージャー/ディレクター寄りの業務に移行します。
さらに経験を積むとチームリーダーとなり、プロジェクトマネージャとなるキャリアが一般的です。とは言え「自分の興味関心は、マネジメント寄りのキャリアパスではない」というケースもあるはずで、多様性のあるキャリアパスが会社側から提示されているかも見ておくべきです。
4.3 自分が身に付けたいスキルは「マネジメント」か「プログラミング」か
自分が本当に身に付けたいスキルは、マネジメントなのかプログラミングなのかを今一度整理しましょう。エンジニアとして技術を極めていきたい場合は、コーディング機会が少なく新たな技術の積極的な導入が難しいSIerはつまらないと感じられることも多いです。その場合は、自社開発企業への就職なども視野に入れると良いです。
5. まとめ
今回は、Slerの将来性、仕事内容、Slerに不安を感じた人がチェックしておきたいことなどを解説しました。上流のSlerは仕事がなくなることはありませんが、下請け・孫請けに案件を振り続けていた旧来型のSIerは厳しくなっていくことでしょう。
また、SIerはマネジメント寄りのキャリアパスが一般的で、プログラミングの機会に恵まれないケースも多いです。自分が「マネジメント」または「プログラミング」どちらを重視するかによって、場合によっては転職も視野に入れることをおすすめします。