IT業界は、パッケージソフト開発やゲームソフトウェア開発など、多くの分野に細分化されています。その中でもSIerとは、システムの受託開発をメインで行っている企業のことを指す名称です。今回は、ITエンジニアを目指している方、中でもSIer企業に転職をお考えの方へ向けて、SIerとは何かから始まり、その市場規模や仕事内容などについて、わかりやすく解説いたします。
なお、「IT業界とは」についての詳細は、以下の記事で解説されていますので、ぜひ参考にしてください。
1. SIerとは何か?
SIer(読み方:エスアイヤー/エスアイアー)とは、システムインテグレーター(System Integrator)の略称です。主に非IT企業や官公庁等のITシステムのコンサルティング、設計、開発、運用、ハードウェアの選定等を一括で請け負うことを事業としている企業を指します。これらの事業は、SI(エスアイ/システムインテグレーション)事業とも呼ばれています。
SIerは主に「メーカー系」「ユーザー系」「独立系」に大別できます。
1.1 SIerとSESの違い
システムの受託開発を行うSIerに対し、エンジニアのSES契約のみを取り交わす企業を「SES企業」と呼びます。
SES(読み方:エスイーエス)とは、System Engineering Service(システムエンジニアリングサービス)の略称で、IT業界における「契約形態」のうちの一つです。IT業界の契約形態には主に「準委任契約」「請負契約」「労働者派遣契約」の3種類があり、このうちの「準委任契約」が「SES」と呼ばれています。
SIerとSESの違いについてもっと詳しく知りたい方は、次の記事をご覧下さい。
2. SIerの業界構造・業界地図を知る
SIerが属する「情報サービス業」の2020年の市場規模は、18兆7,928億円です。その売上高の割合は「受託開発ソフトウェア業」が約半分(8兆7,673億円)を占め、次いで「情報処理サービス業」が4分の1(4兆5,805億円)と高い割合となっています。
出典:2021年情報通信業基本調査(2020年度実績)|総務省
SIerはこのうち「受託開発ソフトウェア業」をメインで行っています。
さらにSIerの市場規模について詳しく知りたい方は、次の記事をご覧下さい。
SIer業界では、NTTデータ、富士通、日立製作所等の大手SIerが一括で様々なIT業務を請け負い、さらに、子会社や下請けのソフトウェア開発会社がこれらの業務を請け負う形でIT業界は成り立っています。
このような構造から別名ITゼネコンと呼ばれることもあります。
また、SIerの企業は大きく分けて3つに分類することができます。
• メーカー系
大手コンピューターメーカーからの系列企業のことを指し、 システム開発部門が分立してできた子会社を示す場合もあります。
• ユーザー系
大手企業において、情報システム部門を分立させて設立した企業のことを指します。 そのため、下の図からも分かりますが、金融系・通信系など、 ユーザー系のSIerには様々な系統があります。
• 独立系
独立系は、メーカー系・ユーザー系のどちらにも属さず、システム開発を専門に扱う企業を指します。 自社パッケージ開発を行うなど、分野を問わないシステム開発を行っていることが特徴です。
2.1 メーカー系SIer
会社名 | 売上 | 経常利益 | 平均年収 | 社員数 |
---|---|---|---|---|
日立製作所 | 8兆7,291億円 | 4,951億円 | 890万円 | 368,636人 |
東芝 | 3兆543億円 | 1,044億円 | 866万円 | 117,446人 |
富士通 | 3兆5,897億円 | 2,663億円 | 856万円 | 126,371人 |
NEC | 2兆9940億円 | 1,537億円 | 829万円 | 114,714人 |
システムインテグレーションとハードウェアをセットで提供できることが強みのメーカー系SIerの中でも、富士通はサーバー製品の国内シェアが高いだけでなく、理化学研究所と共同でスーパーコンピューター「富岳」の開発なども手がけている総合ITベンダーです。
特に傘下の富士通エフサスがSI事業を大きく担っており、製造・金融・流通業界や官公庁など、幅広いソリューションを提供しています。
同じくハードウェア提供との組み合わせが強みのNECは、傘下のNECネッツエスアイがSI事業を大きく担っています。 公的機関やインフラに対するソリューション提供に強みを持つだけでなく、IoTやAI、サイバーセキュリティ、ロボット活用など、新しい分野へも積極的に取り組んでいます。
2.2 ユーザー系(金融)SIer
会社名 | 売上 | 経常利益 | 平均年収 | 社員数 |
---|---|---|---|---|
野村総合研究所(NRI) | 5,503億円 | 807億円 | 1,225万円 | 16,196人 |
みずほ情報総研 | 3兆2,180億円 | - | 729万円 | 53,952人 |
三菱総合研究所 | 1,030億円 | 68億円 | 1,111万円 | 4,059人 |
ニッセイ情報テクノロジー | - | - | 535万円 | 900人 |
野村證券から独立して設立されたSIerである野村総合研究所は、現在も野村ホールディングスを最大の顧客として抱えています。
リサーチやコンサルティングに強みを持っていることが特徴であるだけでなく、5Gやマルチクラウドといった先進的テクノロジーの活用にも力を入れています。
2.3 ユーザー系(通信)SIer
会社名 | 売上 | 経常利益 | 平均年収 | 社員数 |
---|---|---|---|---|
NTTデータ | 2兆3186億円 | 1,391億円 | 841万円 | 149,100人 |
ソフトバンク・テクノロジー | 704億円 | 38億円 | 696万円 | 1,328人 |
SIer業界を代表する企業であるNTTデータは、メーカー系と違いハードウェアを取り扱っていない、SI専業の企業です。
NTTグループの中核を担う企業の1つであり、ビッグデータ、AI、IoT、ロボティクス、クラウドなど、最先端の技術を用いたソリューションを提供しています。
さらに海外進出も積極的に行っており、アメリカやヨーロッパ向けの海外事業も拡大しつつある企業です。
2.4 ユーザー系(その他)SIer
会社名 | 売上 | 経常利益 | 平均年収 | 社員数 |
---|---|---|---|---|
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC) | 4,798億円 | 436億円 | 933万円 | 9,289人 |
SCSK | 3,968億円 | 458億円 | 752万円 | 14,907人 |
日鉄ソリューションズ | 2,519億円 | 245億円 | 855万円 | 7,199人 |
ネットワンシステムズ | 2,021億円 | 196億円 | 825万円 | 2,702人 |
電通国際情報サービス(ISID) | 1,120億円 | 137億円 | 1,057万円 | 3,240人 |
伊藤忠テクノソリューションズは、伊藤忠グループに属する商社系のSIerです。企業や官公庁を中心にソリューションを提供しており、特にITインフラの構築に強みを持っています。さらに近年では、グローバル展開にも意欲的に取り組んでいます。
日鉄ソリューションズは、製鉄メーカーである日本製鉄の情報システム部門から独立して設立されたSIerです。製造業向けのシステム開発によって培ったノウハウを武器として、製造業界・流通業界を中心に幅広い顧客に対して経営課題解決のためのソリューションを提供しています。
2.5 独立系SIer
会社名 | 売上 | 経常利益 | 平均年収 | 社員数 |
---|---|---|---|---|
大塚商会 | 8,518億円 | 558億円 | 822万円 | 9,171人 |
ITホールディングス | 4,483億円 | 457億円 | 717万円 | 21,887人 |
トランスコスモス | 3,364億円 | 177億円 | 458万円 | 38,331人 |
法人向けECサイトの運営でも有名な大塚商会は、SI事業やアウトソーシング事業も行っているSIerです。親会社を持たないため使用するプラットフォームに縛られることなく、幅広いソリューションを提供しています。
3. SIerのプロジェクトの種類
SIerのプロジェクトは多岐にわたります。
旧社会保険庁(現日本年金機構)の年金システム、特許庁の特許管理システム防衛庁の防衛システムなどの官公庁のシステム開発、運用プロジェクト。銀行においては、各銀行の合併時におけるシステム統合、ネットバンキング、顧客や口座情報管理システム。
コンビニやスーパーであれば、商品配送システム、レジ情報とマーケティングと在庫管理を繋ぐPOSシステム。
医療系であれば、電子カルテ、保険、医療画像処理、治験データ管理。
社内システムであれば、会計処理、人事管理、顧客管理システムなどがあります。
SIerのプロジェクトの割合で見ると、IT業界向け23%、製造業22%、金融19%、情報通信10%、官公庁8%、卸業・小売業6%となっております。
これらを見ると、IT・情報通信向けプロジェクトと製造業向けプロジェクトで全体の半分を占めていることがわかります。
(経済産業省特定サービス産業実態調査 2013)
4. SIer業界における業務工程
SIer業界における業務工程は、多くの現場でウォーターフォール型開発が採用されており、1社のみではなく下請けの会社に依頼して進めます。
多くのSIerで採用されているウォーターフォール型開発では、大きく「要件定義」「基本設計」「詳細設計」「開発」「テスト」の流れで業務を行います。
4.1 要件定義
顧客の求めるシステムがどんな条件下で動作し、どんな機能を持つものなのかなど、顧客要望の詳しいヒアリングを行います。
4.2 基本設計
顧客の求めるシステムに必要な機能を選別し、その機能の実現に必要な画面の数や大まかな処理の流れを決定します。
4.3 詳細設計
基本設計をもとに、それぞれの画面で行う細かな処理内容を決めるなど、肉付けを行います。
4.4 開発(コーディング=プログラミング=製造)
詳細設計で決定した内容をもとに、プログラミングを行います。
4.5 テスト
プログラミングして出来上がったものが、ちゃんと設計通りになっているか動作テストを行います。
これらは、ウォーターフォール型開発と呼ばれる手法で、上記の工程に従い順番に作業を行います。 1つひとつの工程ごとに仕様書、設計書、テスト仕様書等でドキュメントを作り、成果物を明確にしていくという特徴があります。
ウォーターフォール型開発についてさらに詳しく知りたい方は、次の記事をご参照下さい。
SIerでシステム開発を仕事とするエンジニアは、一般的にSE(システムエンジニア)、またはPG(プログラマー)と呼ばれる技術者となります。
5. SIerで使用される技術の多くはライセンスベース
SIerで使用されている技術の多くは、ソフトウェアベンダーやハードウェアベンダーの製品が多いのが特徴で、反対にWeb系(インターネット業界)等で使用されることが多いOSS(オープンソースソフトウェア)が使用されることは稀です。
下記は、SIerで使用されている代表的な技術例です。
カテゴリ | 技術名称 | 製品元 |
---|---|---|
プログラミング言語 | Java | Oracle(元サン・マイクロシステムズ) |
C | ベル研究所 | |
COBOL | アメリカ国防総省 | |
C# | マイクロソフト | |
VB | マイクロソフト | |
OS | Windows | マイクロソフト |
Linux(RedHat) | レッドハット | |
Solaris | Oracle(元サン・マイクロシステムズ) | |
AIX# | IBM | |
HP-UX | HP(ヒューレット・パッカード) | |
データベース | Oracle | Oracle |
SQLServer | マイクロソフト | |
AIX | IBM |
オープンソースの使用が稀な理由は、導入実績が豊富な技術を重視するプロジェクトが多いためです。
「SIerは枯れた技術を採用している」という見方をされることがありますが、枯れた技術とは安定性が高い技術のことでもあります。安定性の高い技術を採用することで、納期通りのプロジェクト進捗がより確実になる利点があります。
6. SIer業界の課題・将来性
SIer業界には労働環境に課題があります。課題に触れた上で将来性について見ていきましょう。
6.1 下請け構造の下に位置するITエンジニアの労働環境が課題
SIer業界ではピラミッドのような多重下請け構造で開発が進められる実態があります。下請け構造の下に行くほど報酬は少なく、待遇も悪いです。
理由は、顧客から直接受注する元請けSIerでは適正な報酬を受け取る一方、下請けがさらに下請けのSIerに発注するたびにマージンが発生するため。元請けから離れるほどマージンが大きくなり、下部の下請けが得られる報酬が減ってしまいます。
報酬が少ない一方で、スケジュールに余裕がないケースが多く、ハードな働き方を求められる労働環境となっています。
また、構造の下部に位置するSIerでは上流工程に関わる機会も少ないです。ITエンジニアとして得られる経験が限定されるため、スキルアップしにくいでしょう。
6.2 オフショア開発が進む
近年は、下請けのSIerに案件を依頼する方法以外に、オフショア開発を利用するケースが増えています。
オフショア開発とは、システム開発などを海外の企業や現地法人に委託することです。コストが抑えられるメリットがある一方で、言語の壁によるコミュニケーションが取りづらいことやQCDの担保が難しいデメリットもあります。
しかし、日本と比較して人件費が安い中国・インド・ベトナムなどの企業へのアウトソーシングすることで、コストを抑えたシステム開発が実現できるのは大きな魅力といえるでしょう。
6.3 自社開発を行うSIerも徐々に登場
システム開発を請け負うだけでなく、自社開発に取り組むSIerも登場してきました。
• クラウドへの移行
• 社内でのシステム開発を行う企業の増加
• 開発スピードの遅さ
などを背景として、SIerには安定した需要があります。そのため、SI事業と並行して自社開発のサービスの提供に取り組む企業が増えてきているのです。
その他に、従来の上流から下流へと進めるウォーターフォール開発ではなく、高い柔軟性とスピーディーな開発を実現するアジャイル開発の体制を取るSIerも現れてきています。
6.4 SIer不要論は本当か?
世の中には「SIerは不要・将来性がない」という声もあります。SIerが不要と言われる理由は、下請けSIerのITエンジニアの待遇が悪いことで人材が好待遇のWeb系企業へと流れ、業界自体が衰退することが予想されるためです。
しかし、「SIerは必要・将来性がある」という意見もあります。理由は、高い堅牢性を持つ大規模システムの開発実績が豊富にあるためです。システム開発の業界では、SIerの存在が重要な役割を果たしています。
特に今後はユーザー企業のDXなどでSIerの豊富な開発実績が強く求められるでしょう。
SIerはBtoBのビジネスモデルとして強固であるといえます。
7. SIer業界の業界研究・企業研究でチェックするべきポイント
SIer業界の業界研究・企業研究においてチェックすべきポイントを解説します。
7.1 対象企業がSIerの分類上、何に合致するか
まずは、研究を行いたい対象企業が、SIerの分類の何に合致するのか考えましょう。
上述のとおり、
• メーカー系SIer
• ユーザー系SIer
• 独立系SIer
SIerは大きく3つに分類できます。どれに該当するか判断したい場合には、SIerの成り立ちについて調べるのがおすすめです。
分類が判断できれば、取引先企業の傾向や案件の内容などをある程度予測できます。分類の理解は、より深く特定の企業を分析する企業研究を行うための基礎となります。
7.2 取引先企業
分類が判断できたら、次はより詳細な企業研究を行うために取引先企業を調べましょう。
例えば、官公庁を顧客として抱えている企業は、品質と堅牢性が高い開発を期待されていると捉えられます。また、ベンチャーやスタートアップなどから案件を受注している企業は、柔軟性の高いスピード感のある開発を求められているケースが多いと予想できますよ。
7.3 技術力
SIerの企業分析を行う際は、どのような技術力が求められるか調べることも大切です。
SIerの中には既存のシステムとの兼ね合いや安定性の観点から、現在主流ではない技術をメインで扱う企業もあります。そのようなSIerでは、新しい技術にどんどん触れる積極性よりも、既存の技術への理解度が評価されるため注意が必要です。
対象企業のSIerがどのような技術力を求めるか調べ、自分がなりたいITエンジニアとしてのビジョンとマッチするか見極めましょう。
8. 今後のSIerの形
今後のSIerは下記のいずれかの形に進む可能性が高いでしょう。
• 高い技術力とソリューション力を持ってクラウド等のサービスを展開する
• 世の中にある様々なクラウドサービスを組み合わせて顧客のビジネスを成功に導くコンサルティングを行う
• 既存のクラウドサービスのカスタマイズを行う
• 既存のクラウドサービスでは対応できないようなシステムのスクラッチ開発を行う
• 顧客の保有している老朽化したシステムを新しいクラウド等のシステムに載せ換える
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