ITエンジニアとして仕事をしていると、「応用情報技術者試験」の名前を聞いたことがある方は多いと思います。資格手当を設定している企業も多く、かつて人気のあった「ソフトウェア開発技術者」の後継資格ということからも、取得を推奨される場面も多いのではないでしょうか。 今回はそんな「応用情報技術者試験」について、ご紹介したいと思います。
1. 応用情報技術者試験とは
1.1 高度なIT系国家資格
情報処理推進機構(IPA)が運営する国家試験であり、「情報処理の促進に関する法律」に基づき経済産業省が認定している情報処理技術者試験の一区分です。
情報処理の入門レベルである「レベル1」としてITパスポート試験が、IT技術者の必須技能を問う「レベル2」として基本情報技術者試験が存在していますが、応用情報技術者試験はそれらのさらに上位である「レベル3」の試験として設定されています。
IPA公式サイトの対象者像では、次のように定義されています。
高度IT人材となるために必要な応用的知識・技能をもち、高度IT人材としての方向性を確立した者
なおレベル4以上は分野別の試験に分かれており、IT技術者としての総合力を問われる国家試験としては、応用情報技術者が最高難度の試験となっています。
1.2 応用情報技術者の正式名称・略称
正式な資格名は、そのまま「応用情報技術者試験」です。
公式などで利用される記号「AP」は、「Applied Information Technology Engineer Examination」の略とのことです。
1.3 資格ではなく試験?履歴書への書き方
履歴書には正式名称で書くことが一般的ですので、次のように表記できます。
「平成○○年○月 応用情報技術者試験 合格」
ただし履歴書はあまり厳密に書く必要はなく分かれば良いという側面がありますので、異なる書き方でも相手に伝わるようであれば問題ありません。
なお情報処理技術者試験は「試験」であり、厳密には公式に「資格」という表現はされていません。よって「取得」ではなく「合格」と記載することがおすすめです。
1.4 独学で合格できるの?
エンジニアとして多忙な仕事をこなしながら独学で合格している方も多数存在していますが、受験者数の多さと試験の難しさから、資格学校や通信講座が充実しています。
毎週定時後に通う塾タイプから1回のみの直前対策セミナーなど多様な講座が開講されていますので、独学が厳しいと感じた方はライフスタイルに合わせて受講してみてはいかがでしょうか。
2. 応用情報技術者合格のメリット
2.1 IT系職種への就職に影響あり
応用情報技術者試験に合格していると、少なくとも情報処理分野に対する学習意欲が大いにあることを十分示すことができます。
これさえあれば印籠のように効力を発揮するとはいきませんが、特に初めての就職(IT以外からIT系職種への転職も含む)時に合格済であれば、目を引くのではないでしょうか。
2.2 キャリアアップ転職でも有効なことも
企業により異なりますが、国家資格を重視するところは一定数存在します。官公庁関連の案件では、資格取得者の人数が入札条件となっているケースがあるためです。
ただ30歳をこえたエンジニアとしては、やや物足りない資格です。経験を積んだエンジニアとして経歴に説得力を持たせたい場面では、高度区分試験など専門性の高さを示せる資格が必要になります。
3. 応用情報技術者試験の試験時間・問題数・出題形式
試験時間 | 午前:150分(9:30~12:00)
午後:150分(13:00~15:30) |
---|---|
問題数 | 午前:小問80問 <分野別内訳>
午後:大問11問(うち5問に解答) |
出題形式 | 午前:多肢選択式(四肢択一)
午後:記述式 |
3.1 試験時間と問題数
応用情報技術者試験は基本情報と同じく「午前試験」と「午後試験」から構成されていますが、午後が記述式になるという大きな違いがあります。
◆ 午前試験
午前は試験時間150分で、小問形式(それぞれの問題が独立している)80題の内訳比率も基本情報技術者試験と同じです。早めに回答が終わった場合は、試験の途中退出が可能な点も同様です。
◆ 午後試験
午後も同じく試験時間150分で、大問形式(長めの問題文が提示され、関連する数問に回答する)の問題が11問出題されます。うち1問は必須問題で、残りは10問中4問回答する選択問題からなり、計5問に回答します。
3.2 午前はマーク、午後は記述式で回答
問題用紙と回答用紙は紙で配布され、鉛筆またはシャープペンシルで記入します。
◆ 午前試験
「ア・イ・ウ・エ」の4肢からうち1つを選択し、該当するマークを塗りつぶします。
◆ 午後試験
基本情報技術者試験とは異なり、午後試験は記述式となっています。
4. 応用情報技術者に受験資格はある?
基本情報技術者試験と同じく、応用情報技術者試験にも受験資格や前提となる条件はありません。基本情報などの下位資格に合格していなくても受けることが可能であり、年齢も問わず誰でも受験することができます。
5. 応用情報技術者試験の出題範囲と配点
2022年4月からの新しい出題範囲は、次の通りです。 午前試験については基本情報技術者試験と全く同じですが、より深い知識が問われる内容となっています。
5.1 午前試験の出題範囲
◆ テクノロジ系
基礎理論 | 離散数学、応用数学、情報理論、通信理論、計測・制御理論 |
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アルゴリズムとプログラミング | データ構造、アルゴリズム、プログラミング、プログラム言語、その他言語 |
コンピュータ構成要素 | プロセッサ、メモリ、バス、入出力デバイス、入出力装置 |
システム構成要素 | システムの構成、システム評価指標 |
ソフトウェア | オペレーティングシステム、ミドルウェア、ファイルシステム、開発ツール、オープンソースソフトウェア |
ハードウェア | ハードウェア |
ヒューマンインタフェース | ヒューマンインタフェース技術、インタフェース設計 |
マルチメディア | マルチメディア技術、マルチメディア応用 |
データベース | データベース方式、データベース設計、データ操作、トランザクション処理、データベース応用 |
ネットワーク | ネットワーク方式、データ通信と制御、通信プロトコル、ネットワーク管理、ネットワーク応用 |
セキュリティ | 情報セキュリティ、情報セキュリティ管理、セキュリティ技術評価、情報セキュリティ対策、セキュリティ実装技術 |
システム開発技術 | システム要件定義・ソフトウェア要件定義、設計、実装・構築、結合・テスト、導入・受入支援、保守・廃棄 |
ソフトウェア開発管理技術 | 開発プロセス・手法、知的財産適用管理、開発環境管理、構成管理・変更管理 |
◆ マネジメント系
プロジェクトマネジメント | プロジェクトマネジメント、プロジェクトの統合、プロジェクトのステークホルダ、プロジェクトのスコープ、プロジェクトの資源、プロジェクトの時間、プロジェクトのコスト、プロジェクトのリスク、プロジェクトの品質、プロジェクトの調達、プロジェクトのコミュニケーション |
---|---|
サービスマネジメント | サービスマネジメント、サービスマネジメントシステムの計画及び運用、パフォーマンス評価及び改善、サービスの運用、ファシリティマネジメント |
システム監査 | システム監査、内部統制 |
◆ ストラテジ系
システム戦略 | 情報システム戦略、業務プロセス、ソリューションビジネス、システム活用促進・評価 |
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システム企画 | システム化計画、要件定義、調達計画・実施 |
経営戦略マネジメント | 経営戦略手法、マーケティング、ビジネス戦略と目標・評価、経営管理システム |
技術戦略マネジメント | 技術開発戦略の立案、技術開発計画 |
ビジネスインダストリ | ビジネスシステム、エンジニアリングシステム、e-ビジネス、民生機器、産業機器 |
企業活動 | 経営・組織論、OR・IE、会計・財務 |
法務 | 知的財産権、セキュリティ関連法規、労働関連・取引関連法規、その他の法律・ガイドライン・技術者倫理、標準化関連 |
5.2 午後試験の出題範囲
問1(必須) | 情報セキュリティ |
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問2~11(10問中4問選択) | <ストラテジ系>
経営戦略、情報戦略、戦略立案・コンサルティング技法 <マネジメント系> サービスマネジメント、プロジェクトマネジメント、システム監査 <テクノロジ系> システムアーキテクチャ、ネットワーク、データベース、組込みシステム開発、情報システム開発、プログラミング(アルゴリズム) |
試験範囲についてさらに詳しく確認したい方は、リンク先のシラバスをご確認下さい。
▶ 情報処理技術者試験 試験要綱(2022年4月時点最新)|IPA
▶ 応用情報技術者試験(レベル3)シラバス(2022年4月時点最新)|IPA
5.3 試験の配点
◆ 午前試験(満点:100点)
テクノロジ系 | 50問×1.25点=62.5点 |
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マネジメント系 | 10問×1.25点=12.5点 |
ストラテジ系 | 20問×1.25点=25点 |
◆ 午後試験(満点:100点)
問1(必須) | 1問×20点=20点 |
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問2~11(うち4問選択) | 4問×20点=80点 |
6. 応用情報に合格すると高度試験が一部午前免除に
基本情報技術者試験と異なり、応用情報技術者試験には午前試験が免除になる制度はありません。
ただ応用情報技術者試験に合格していると、その後2年間は高度区分試験の午前Ⅰ試験が免除になるという特典があります。
7. 試験日・試験会場・受験料
情報処理技術者試験は、インターネットまたは郵送での申し込みが可能となっています。
申し込み受付期間 | 試験のおよそ3か月前から2か月前まで |
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試験日 | 春期試験:4月の日曜日
秋期試験:10月の日曜日 |
試験時間 | 午前試験:9:30~12:00(150分)
午後試験:13:00~15:30(150分) |
受験料 | 7,500円(税込) |
7.1 申し込み受付期間
例年、申し込み受付期間は試験日のおよそ3か月前から約1か月の間に設定されています。
ITパスポートのように直前申し込みはできませんので、忘れずにチェックして下さい。
7.2 試験の日程
春期試験が4月の日曜日に、秋期試験が10月の日曜日に、年2回開催されています。
7.3 令和4年度の試験日程
令和4年度春期試験については、申し込み受付が終了しています。
次回の令和4年度秋期試験は、令和4年10月9日(日)に実施予定です。
申し込み受付期間は未定ですが、例年通りであれば7月頃の予定です。
受験を予定している方は公式のメールニュースに登録しておくと安心です。
▶ メールニュース|IPA
7.4 試験会場
基本情報技術者試験と同様に、会場は自分で選択することはできません。ただし、申込時に希望する試験地までは選択可能です。
詳細な会場の案内(会場名と住所、地図)は、受験票の送付と共に通知されます。
7.5 受験料の改定
令和4年度春期試験から、受験料は「7,500円(税込)」に改定されました。
8. 午後試験の難易度が下がった今がチャンス?
高度なIT人材であることを認定する応用情報技術者試験ですが、多くの方がつまづくのは午後の記述試験です。
ところがこの午後試験について、平成27年度秋期試験から制度が変更になりました。
• 回答する問題数が6問から5問に減少した(試験時間は変更なし)
• 選択問題の分野が統合され、10問中4問回答となった
• 配点がどの問題も一律20点に統一された
この変更により、受験者には次のようなメリットが生まれました。
• 問題数の減少により、1問あたりの回答時間に余裕ができた
• 選択問題が分野別でなくなったため、得意分野のみ選んで解けるようになった
(テクノロジ系中心、マネジメント/ストラテジ系中心など、偏った選択が可能)
以前受験や勉強したものの午後が難しくて諦めてしまったという方は、再挑戦してみてはいかがでしょうか。