数ある国家資格の中でも難関資格であると言われているプロジェクトマネージャ試験ですが、どんな試験なのか、また取得難度に見合うメリットはあるのかをご紹介します。
1. プロジェクトマネージャ試験とは?
1.1 プロジェクトマネージャの役割と試験の目的
プロジェクトマネージャ試験を実施する情報処理推進機構(IPA)によると、プロジェクトマネージャの役割は次のように定められています。
このようにプロジェクトマネージャ試験は、「システム開発責任者に必要なスキルが備わっているか測るための試験」として実施されています。
資格がなくてもプロジェクトマネージャになることはできますが、合格することで様々なメリットがあります。メリットについての詳細は、後ほどご紹介します。
1.2 試験の種類と出題範囲
プロジェクトマネージャ試験には、「午前I」「午前II」「午後I」「午後II」の4つの試験で合格点を取る必要があります。
4つの試験の出題形式と出題範囲は、次の通りです。
【午前Ⅰ】
試験時間 | 9:30~10:20(50分) |
---|---|
出題形式 | 多肢選択式(四肢択一) |
出題数 | 小問30問 |
回答数 | 小問30問 |
出題範囲 | 共通試験の全範囲
※シラバスを見る |
【午前Ⅱ】
試験時間 | 10:50~11:30(40分) |
---|---|
出題形式 | 多肢選択式(四肢択一) |
出題数 | 小問25問 |
回答数 | 小問25問 |
出題範囲 |
【テクノロジ系】 ・セキュリティ、システム開発技術、ソフトウェア開発管理技術 【マネジメント系】 ・プロジェクトマネジメント、サービスマネジメント 【ストラテジ系】 ・システム企画、法務 |
【午後Ⅰ】
試験時間 | 12:30~14:00(90分) |
---|---|
出題形式 | 記述式(30文字程度の短い文章で答える) |
出題数 | 大問3問 |
回答数 | 大問2問 |
出題範囲 | 1 プロジェクトの立ち上げ・計画に関すること
2 プロジェクトの実行・管理に関すること 3 プロジェクトの終結に関すること ※シラバスを見る |
【午後Ⅱ】
試験時間 | 14:30~16:30(120分) |
---|---|
出題形式 | 記述式(原稿用紙2から3枚程度の長い文章で答える) |
出題数 | 大問2問 |
回答数 | 大問1問 |
出題範囲 | 1 プロジェクトの立ち上げ・計画に関すること
2 プロジェクトの実行・管理に関すること 3 プロジェクトの終結に関すること ※シラバスを見る |
プロジェクトマネージャ試験では開発の技術的な要素ではなく、プロジェクトのスムーズな進行や、人員のマネジメントについて主に問われます。(午前Iの全科目共通試験は除く)
午前については4つの選択肢から1つを選ぶ問題です。難易度は応用情報技術者試験ぐらいで、過去問を中心に演習を繰り返すことで充分合格可能です。
午後は I、II 共に論述が重要視されており、特に午後II試験では、3つの設問それぞれ「800文字以内」「800字以上1600文字以内」「600字以上1200字以内」で回答せよと求められています。つまり、最長で原稿用紙のべ9枚分もの文章を、2時間という短い時間で書き上げる必要があるのです。
もちろん下書きをして書き直している暇などなく、考えながら書き続け、論理を破綻させずに結論まで導かなければなりません。これは日頃から文章を書き慣れていなければ難しい量で、多くの方にとって試験の難度を大きく引き上げている要因となっています。
プロジェクトマネージャ試験の詳しい出題範囲は、次のページに掲載されているシラバスも参考にしてください。
▶ 試験要綱・シラバスについて|情報処理推進機構
1.3 午前I試験が免除になる条件
4つの試験のうち「午前I試験」は、次の条件を満たせば受験が免除になります。
• 応用情報技術者試験に合格
• 他の高度区分試験に合格
• 午前I試験の合格基準点を満たす
有効期限は、2年後の同一時期の試験までです。
1.4 受験の前提条件(受験資格)はある?
受験に必要な資格は特になく、学歴や年齢の制限なし、実務経験も不要で、下位資格に合格している必要もありません。
しかし実際にSEの実務経験がないと、トラブルのケースやその対処法など、参考書の学習だけでは自分の言葉で文章にするのが難しい設問が数多く出題されます。新規での就職に直接有利となりやすい資格でもないため、ある程度の実務経験を積んでからのチャレンジがおすすめです。
1.5 不合格になった場合、再受験に割引制度や申込制限はある?
2年間の午前I免除以外に、再受験と初回受験の違いは特にありません。受験料の割引や受験の制限なども特にないため、初回と同様に申し込むことができます。
なお午前I試験免除がある方のみ、受験申込時に「一部免除申請番号」を入力すると、午前I試験が免除になります。(受験料の割引はありません)
一部免除申請番号には、次の番号を入力します。それぞれの番号は、受験者マイページから確認することができます。
応用情報技術者試験に合格 | 合格証書番号 |
---|---|
他の高度区分試験に合格 | 合格証書番号 |
午前I試験の合格基準点を満たす | 午前Ⅰ通過者番号 |
2. 試験の難易度と合格率、学習時間の目安
経済産業省が認定するITスキル標準(ITSS)によると、情報処理技術者試験には次のような難易度の区分があり、プロジェクトマネージャ試験は「レベル4」に設定されています。
難易度 | 試験区分 |
---|---|
レベル1 | ITパスポート試験、ITIL® 4 ファンデーション |
レベル2 | 基本情報技術者試験、情報セキュリティマネジメント試験 |
レベル3 | 応用情報技術者試験、ITIL® 4 スペシャリスト、PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル) |
レベル4 | 8種類の高度試験(プロジェクトマネージャ試験、ネットワークスペシャリスト試験、情報処理安全確保支援士試験など)、CCIE、ORACLE MASTER Platinum |
このレベル4は、高度IT人材としてのスキルを有していると評価される段階です。レベル4に該当する他のIT関連資格には、同じ情報技術者試験の9つの高度試験のほか、次のようなものがあります。
▶ CCIE、ORACLE MASTER Platinum など
なお、同じくプロジェクトマネージャ系の資格である「ITIL® 4 スペシャリスト」や、「PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)」はレベル3です。プロジェクトマネージャ試験が少し難しいと感じた方は、ITILやPMPの受験もおすすめです。
プロジェクトマネージャ試験のさらに詳しい難易度と合格率、学習時間の目安については、次の記事をご覧ください。
3. プロジェクトマネージャ試験の試験日、試験会場、受験料
情報処理技術者試験は、インターネットまたは郵送での申し込みが可能となっています。
申し込み受付期間 | 試験のおよそ3か月前から2か月前まで |
---|---|
試験日 | 秋期試験:10月の日曜日 |
試験時間 | 午前 I:9:30~10:20(50分)
午前II:10:50~11:30(40分) 午後 I:12:30~14:00(90分) 午後II:14:30~16:30(120分) |
受験料 | 7,500円(税込) |
試験会場 | 全国47都道府県の主要都市 |
3.1 申し込み受付期間
例年、申し込み受付期間は試験日のおよそ3か月前から約1か月の間に設定されています。基本情報技術者試験のように直前申し込みはできませんので、忘れずにチェックして下さい。
3.2 試験の日程
プロジェクトマネージャ試験は現在、秋期試験の期間に年1回実施されています。
令和7年度の秋期試験は、10月の日曜日に行われる予定です。
参考に、令和6年度は次の日程で実施されました。
3.3 令和7年度の試験申し込み期間
令和7年度の秋期試験の申し込み日程は、2025年1月時点で未発表です。
参考に、令和6年度の日程は次の通りでした。
申し込み日程を逃したくない方は、公式のメールニュースに登録しておくと安心です。
▶ メールニュース|IPA
3.4 受験料と支払い方法
プロジェクトマネージャ試験の受験料は、次の通りです。
特に割引制度などはなく、再受験でも毎回同様の金額を支払う必要があります。
支払いには、次の方法から選ぶことができます。
• クレジットカード
• コンビニでの支払い
• 銀行ATM(Pay-easy)での支払い
• バウチャーチケット
バウチャーチケットは団体申し込みなどの際に利用します。バウチャーの購入には申請が必要で、支払い方法は銀行振込やクレジットカードが利用可能です。
バウチャーを持っている方は、受験申込の際にバウチャーコードを入力して使用することができます。
3.5 試験会場
プロジェクトマネージャ試験は、全国47都道府県の主要都市で実施されます。その年の試験会場は、受験票に記載されています。
なお令和6年度の試験地は、次の通りです。東京など大都市は試験会場が一か所とは限らないため、受験票が届いたらまず試験会場までのアクセス方法チェックをお勧めします。
【全国の試験地一覧】
3.6 試験結果発表の日程
プロジェクトマネージャ試験の合格発表は、受験者マイページで行われます。
参考に、令和6年度の発表日は次の通りでした。
3.7 受験申し込みの方法と、手続きの流れ
プロジェクトマネージャ試験は、受験者マイページから行います。初めて受験する方は早めにメールアドレスを登録し、受験者マイページを作成しておくことがおすすめです。
▶ 受験者専用サイト|IPA
その先の申し込みの流れは、次の日程で進みます。
令和7年度の日程は未発表ですが、例年次のような日程で実施されています。
1 | IPA未登録者のみ | メールアドレス登録、受験者マイページ作成 |
---|---|---|
2 | 7月頃 | 受験申込み、受験料の支払い |
3 | 9月下旬 | 受験票の発送 |
4 | 受験票到着から試験前日まで | 受験票氏名変更申請期間 |
5 | 試験の10日前から5日前まで | 受験票再発行受付期間 |
6 | 10月の日曜日 | 試験日 |
7 | 12月下旬 | 合格発表 |
8 | 合格者のみ | 合格証書交付 |
日程発表を逃したくないという方は、メールニュースへの登録がおすすめです。
▶ メールニュース|IPA
4. プロジェクトマネージャ試験に合格するメリット
プロジェクトマネージャ試験に合格すると、キャリアアップや年収アップと言ったメリットがあります。
4.1 キャリアアップへの影響(就職・転職・昇進)
■ SEとして未経験から就職する場合は、受験の動機づけが必要です。
個人でも磨ける技術関係の試験とは違い、プロジェクトマネージャ試験はチームで開発業務をこなしていなければ実践は不可能な内容です。そのため新卒での就職活動だったり未経験からの転職活動では、実践を伴わない「資格のための資格」とみなされてしまうケースがあります。しかし記載するとその難度の高さからも目を引く要素となるのは事実ですので、なぜこれを取得しようと思ったのか?という疑問にきちんと答えられたら強い武器となります。
ただプロジェクトマネージャ試験合格者の存在は、官公庁系システム(国や自治体が顧客となるシステム開発)の開発案件では、入札条件となっている場合があります。そういった案件に入札したいが資格保持者が少ないという企業では、実務を伴わない資格でも歓迎されるケースがあります。
■ キャリアアップ転職や昇進の場面では、実力の裏付けとして作用します。
実際に現在プロジェクトマネージャとして活躍していたり、SEからプロジェクトマネージャを目指したいとアピールする場合には、プロジェクトマネージャ試験合格は実力の裏付けとして役立ちます。学習意欲と向上心の高さを示すことができ、評価に反映される確率は高いでしょう。
また就職時と同様、入札での必要数に対して有資格者数が不足している企業であれば、評価はさらに高まります。
4.2 資格手当など年収アップの可能性と企業からの評価
実例を挙げると、ある官公庁系案件をメインに長年受注しているシステム開発会社では、資格保持者に毎月3万円の資格手当を支給しているケースがあります。このようなケースでは単純に年収が36万円アップとなり、影響は大きいでしょう。
とはいえ、具体的な評価には直結しない企業が多いのも事実です。このように企業により重要度には差が見られますが、合格して損をすることはない試験です。
4.3 自己成長と自信の向上
プロジェクトマネージャ試験に合格すると、これまで実地で積んできた自分の知識と経験の棚卸しをすることができます。知識を整理することで、それが一般的に通用するスキルであるという自信の向上にもつながります。
ITILスペシャリストが研修費込みで20万円程度、PMPが10万円程度かかることを考えると、7500円でメリットの多いプロジェクトマネージャ試験はとてもコスパの良い国家試験です。
現役PMの方だけでなくPMを目指している方も、ぜひ一度チャレンジしてみてください。
5. プロジェクトマネージャ試験の学習方法
まず午前I試験については、応用情報技術者試験の午前とほぼ変わりはありません。午後II試験は範囲を絞ってより高度な内容が問われますが、早めに教科書を読み終えて過去問の演習を繰り返すことが、基本的ながら合格への近道です。
対して午後試験は、文章構成力が問われます。小論文が苦手だった方や、近ごろあまり長文を書く機会がないという方には鬼門になる可能性が高いため、次のような論文練習のための参考書を使うことがおすすめです。
■ プロジェクトマネージャ 合格論文の書き方・事例集 第6版

【著者名】 岡山昌二、落合和雄、佐々木章二、長嶋仁、満川一彦 共著
【出版社】 アイテック
【発売日】 2020/8/21
【ページ】 357P
【サイズ】 B5
【価 格】 3,300円(税込)
出典:Amazon
さらに詳しい実体験を交えた学習方法や、おすすめの参考書や問題集については、次の記事をご覧ください。
6. プロジェクトマネージャ試験合格後のキャリアパス|フリーランスPMという働き方も
プロジェクトマネージャ試験の合格後には、次のような選択肢があります。
• プロジェクトマネージャとして経験を積む
• コンサルタントやPMOに転身する
• フリーランスのPMになる
プロジェクトマネージャ試験に合格した後は、プロジェクトマネージャとして経験を積むだけでなく、より上流工程であるコンサルタントや、逆にPMの補佐であるPMOとなって活躍している方も数多くいらっしゃいます。
さらにフリーランスのPMになる場合、国家資格であるプロジェクトマネージャ試験合格は大きなメリットとなります。例えばプロジェクトマネージャ試験に合格していることでより大規模な案件に挑戦したり、スクラム開発案件を中心に経験した方がウォーターフォール開発案件にチャレンジする場合など、案件の幅を広げたいときにも知識の裏付けとして役立ちます。
6.1 フリーランスPMの単価相場|実際に需要はあるの?
弊社が運営するフリーランスITエンジニア専門の案件紹介・転職支援エージェント「プロエンジニア」でご紹介している案件は、月額単価90~100万(年収1000万円強)ほどが目安です。 案件内容によっても様々で、100万以上出る案件もあります。 実際のフリーランスPMの市場や需要などについて詳しくは、次の記事もご覧ください。
6.2 プロジェクトマネージャが独立するまでの手順
プロジェクトマネージャがフリーランスとして独立するまでのよくある手順は、次の通りです。
より詳しい手順や必要な準備について知りたい方は、次の記事もご覧ください。
6.3 フリーランスPMのキャリアパス
フリーランスPMのキャリアパスには、次のようなものがあります。
• フリーランスのPMとして、より大規模の案件にチャレンジする
• フリーランスのITコンサルタントになる
それぞれ具体的にどんな案件があるか、どうすればフリーランスPMになれるかなど、詳しくは次の記事もご覧ください。
7. まとめ:プロジェクトマネージャ試験はあなたのキャリアアップの第一歩!
プロジェクトマネージャ試験に合格したからといって、必ずキャリアアップや年収アップにつながるとは限りません。しかし大きな助けになるのは確かな、信頼度の高い試験です。またフリーランスのPMを目指す方には、国家試験は安価のわりにとても大きなメリットがあります。特に文章を書くのが得意という方は、この機会にぜひ検討してみてくださいね。
実際にフリーランスエンジニアとして活躍されている方のインタビューはこちら