近年注目をあびているAIエンジニアですが、資格がなければなれないというわけではありません。しかしその試験範囲を勉強をすることにより、AIエンジニアとしてのスキルアップやキャリアアップを図れるという資格は、たくさんあります。今回はそんなAIエンジニアの方におすすめの資格について、選定基準に触れつつご紹介したいと思います。
1. AIエンジニアにおすすめの資格の基準とは?
AIエンジニアにおすすめの資格を考える場合、最重要となるのは「その資格の勉強を通して、AIエンジニアに必要なスキルの確認や学習ができること」です。そこでまずAIエンジニアに必要となるAI関連技術を確認していきましょう。
1.1 代表的なAI(人工知能)の関連技術
AIエンジニアに必要な技術には、次のようなものが挙げられます。
■ ディープラーニング
ディープラーニング(深層学習)とは人工知能研究のうちの一分野であり、ニューラルネットワークを多層に用いた機械学習の手法です。なおニューラルネットワークとは、人の脳の構造をモデルに作られた情報を処理する仕組みです。このニューラルネットワークを使うことによって、従来のようないかにも機械的な処理による認識ではなく、まるで人間が認識する時のような過程をたどって、機械に対象を認識させることができるようになったのです。
■ クラウドAI
クラウドAIとは、簡単に言うとクラウド上で利用するAIのことです。機械学習などで処理したいデータは、大量になりがちです。その大量のデータをクラウドに送信し、そのクラウドの演算処理装置を使って学習するという方法です。クラウドを利用することによって、大量のデータ保持や強力な演算装置を自前で用意する必要がないというメリットがあります。さらに各大手クラウドサービスでは、AIを利用しやすい環境が次々と提供されていいます。例えばGoogleの提供するクラウドサービスであるGCP(Google Cloud Platform)では、AI PlatformというAIエンジニアやデータサイエンティストのための開発環境が提供されています。
■ エッジAI
エッジAIのエッジ(edge)とは、「端末」のことです。従来はクラウド上で利用することが前提となっていたAIを、スマートフォンなどの端末上で直接動かして処理を行うという仕組みです。例えば通信遅延が許されない処理を行う場合、クラウドとのデータ送受信があまり必要ないエッジAIは重宝されています。またクラウドとの通信をあまり行わないということは、データ通信量を削減したり、情報漏洩を防ぐことができるというメリットもあります。
クラウドAIとエッジAIの比較を、表にまとめてみました。
クラウドAI | エッジAI | |
---|---|---|
処理を行う場所 | クラウド上 | 端末上 |
セキュリティ | 弱い | 強い |
大量データの処理 | 強い | 弱い |
データ通信量 | 多い | 少ない |
通信遅延の影響 | 発生しやすい | 発生しにくい |
1.2 AIエンジニアにおすすめの資格の選定基準
AIエンジニアに必要な技術を確認したところで、それを加味したおすすめの資格の選定基準をご紹介します。
■ 実用性
資格勉強にとって重要なのは、その勉強内容に実用性はあるのか?という点です。試験範囲の内容がAIエンジニアに必要な範囲と特に一致している資格として、例えば「Python3エンジニア認定データ分析試験」がおすすめです。この資格はまだ新しい資格であり歴史はほぼありませんが、「NumPy」「pandas」など実用性が高いライブラリが出題範囲に入っています。そのため試験対策を行う中で、データ分析実務の知見を得ることができるのです。例えば「Python3エンジニア認定データ分析試験」で出題されるライブラリには、ほかに次のようなものがあります。
• NumPy
• pandas
• Matplotlib
• scikit-learn
このように試験範囲を確認することにより、実用性を検討しています。
■ 受験者数
AIに直接関連した資格はどれも歴史が浅く、知名度のない資格もまだ多数あります。そんな中でも多くの受験者を集めている資格は認知度が高いことが分かり、その資格を取得したときに客観的なスキルの証明になりやすいのです。
例えば、日本ディープラーニング協会(JDLA)が実施する2つの資格試験「G検定(ジェネラリスト向け)」と「E資格(エンジニア向け)」の現時点での累計受験者数は、それぞれ次の通りです。
• G検定:60,887名
• E資格:4,150名
■ 汎用性
汎用性を考えて、データベース関連やIT全般の基礎知識を問うものなど、ITエンジニア全体に向けた内容や、統計関連の資格もピックアップしています。AIを学ぶ前提として、基礎的なIT知識や数学的知識なども重要となってくるためです。
2. AIエンジニアにおすすめの資格10選
次におすすめの資格をそれぞれ、詳しくご紹介していきます。
2.1 G検定(ジェネラリスト)
一般社団法人である日本ディープラーニング協会(JDLA)が実施するG検定は、ディープラーニングの基礎を習得して、適切に事業活用する能力や知識を有しているかを確認するための検定です。
受験資格 | なし |
---|---|
合格者数/受験者数 | 40,143名/60,887名(累計 2021年第2回時点) |
合格率 | 65.9%(累計 2021年第2回時点) |
試験時期 | 3月、7月、11月の、年三回 |
費用 | 一般:13,200円(税込)
学生:5,500円(税込) ※最終受験日から2年以内の再受験の場合は半額 |
受験方法 | G検定申し込みサイトから受験を申し込む |
公式サイト | https://www.jdla.org/certificate/general/ |
■ G検定の難易度
G検定の難易度目安については、現時点で公表はされていません。しかし合格率が65.9%と高いことから、合格率が50%程度のITパスポート試験と比較して、簡単な試験と思われがちです。ですが学生やIT未経験者が主な受験者層であるITパスポート試験に対して、始まったばかりのG検定の存在を知り、かつ受験しているのは、元からAIに対する興味関心の高い人々です。そのため単純に簡単だとは言えないレベルの試験となっているようです。
2.2 E資格(エンジニア)
G検定と同じく日本ディープラーニング協会(JDLA)が実施するE資格は、ディープラーニングの理論を正しく理解した上で、適切な手法を選択してプログラムに実装する能力や、AIに関するさらに深い知識を有しているかを証明する資格です。
受験資格 | JDLA認定プログラムを、試験日の過去2年以内に修了していること |
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合格者数/受験者数 | 2,984名/4,150名(累計 2021年第1回時点) |
合格率 | 71.9%(累計 2021年第1回時点) |
試験時期 | 2月、8月の、年二回 |
費用 | 一般:33,000円(税込)
学生:22,000円(税込) 賛助会員:27,500円(税込) |
受験方法 | まずJDLA認定プログラムの受講をこちらから申し込む |
公式サイト | https://www.jdla.org/certificate/engineer/ |
■ E資格の難易度
E資格の合格率もG検定と同じく、71.9%とかなりの高さになっています。しかしこの結果は、あくまで認定プログラムの受講を終えた方による受験結果であり、そもそもAIに関する深い知見を持った方が受けに来る資格なのです。
なお「Study AI 株式会社」が調査したE資格受験者アンケート(有効回答者数:68名)によると、「難易度が近しいと思う試験」に最も多くの方が挙げたのは「応用情報技術者試験」で、39.71%でした。さらにオラクルマスターPlatinumやプロジェクトマネージャ試験、PMP試験なども並ぶ設問の中で「この一覧より難しい」との回答が応用情報の次に多い26.47%となっており、かなりの難関資格であることが窺えるでしょう。
2.3 画像処理エンジニア検定
画像処理エンジニア検定は、公益財団法人画像情報教育振興協会が実施する、民間資格です。ディープラーニングの活用方法のうちのひとつである画像処理分野において、設計・開発における必要な知識の、習得状況などを評価する試験となっています。受験者数はひかえめですが、提供開始から15年経過する老舗の資格となっています。
受験資格 | ベーシック:なし
エキスパート:なし |
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合格者数/受験者数 | ベーシック:不明/510名 (2021年前期)
エキスパート:不明/524名(2021年前期) |
合格率 | ベーシック:66.5% (2021年前期)
エキスパート:32.6%(2021年前期) |
試験時期 | 前期(7月頃)、後期(11月頃)の、年二回 |
費用 | ベーシック:5,600 円(税込)
エキスパート:6,700円(税込) |
受験方法 | CG-ARTSの個人受験申込ページから受験を申し込む |
公式サイト | https://www.cgarts.or.jp/kentei/guidance/index.html |
■ 画像処理エンジニア検定の難易度
画像処理エンジニア検定はマークシート方式で実施されており、回答率70%以上で合格となります。合格率はそれぞれベーシックが60~70%程度、エキスパートが30~40%となっています。ITパスポート試験が合格率50%程度、応用情報技術者が20%程度と考えると、それより少し簡単な程度にも思えます。しかしそもそも、これは画像処理に興味のあるエンジニアや研究・開発関係の方が受ける検定です。そのため、数字から受けるイメージより実際の難度は少し高いものとなるでしょう。
2.4 アクチュアリー資格試験
アクチュアリー資格試験は、公益財団法人日本アクチュアリー会が実施する資格試験です。アクチュアリーとは日本語で「保険数理人」とも呼ばれ、金融商品の分析や保険料の算定などを、高度な確率論や統計学などの数理を用いて行う人のことを指します。現在の試験範囲にはAIに直接絡むものはありませんが、そこで扱われる数学知識の多くはデータサイエンスに活かせるものです。さらにアクチュアリーが担う数理処理の多くはAIが得意とするものであり、将来的にAIの導入が期待されている分野でもあります。
受験資格 | なし |
---|---|
合格者数/受験者数 | 不明 |
合格率 | 不明 |
試験時期 | 12月頃 |
費用 | 10,000 円(税込) |
受験方法 | 日本アクチュアリー会の個人受験申込ページから受験を申し込む |
公式サイト | http://www.actuaries.jp/examin/info.html |
■ アクチュアリー資格試験の難易度
アクチュアリーは資格試験に合格しなければ名乗れない職種ですが、その登録人数は現在1500名程度と言われています。需要に供給が追い付いていない状況ですが、その理由は難解な数理の理解が必要となるためです。かなり高難度な試験ですが、これを突破できるほどにもなれば、プログラムに数理を組み込む際にもう苦労することはないでしょう。
2.5 オラクルマスター(ORACLE MASTER)
オラクルマスター(ORACLE MASTER)は、Oracleデータベースの提供元(ベンダー)である日本オラクル社が実施している認定資格制度(ベンダー資格)です。Oracleデータベースの運用や管理などについて、知識やスキルを証明できる資格となっています。
受験資格 | Bronze:なし
Silver:Bronze合格から有効期限内であること Gold:Silver合格から有効期限内であること |
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合格者数/受験者数 | 不明(2020年10月時点で日本の累計取得者数27万人突破) |
合格率 | 不明 |
試験時期 | 随時 |
費用 | 37,730円(税込) |
受験方法 | CertView(オラクル認定システム)からピアソンVUEのサイトを開き、希望するテストセンターと日時を指定して予約する
試験はCBT方式で行われる |
公式サイト | https://www.oracle.com/jp/education/index-172250-ja.html |
■ オラクルマスターの難易度
経済産業省が定める「ITスキル標準(ITSS)」によると、オラクルマスターの各グレードが所属する難易度は、次のようになっています。ブロンズでITパスポート試験程度、Platinumで高度区分試験程度の難易度と認定されています。
ITSSの認定レベル | 同レベルの主な試験 |
---|---|
エントリレベル
(レベル1) |
ORACLE MASTER Bronze、
ITパスポート試験、LPIC-1、PHP初級 など |
エントリレベル (レベル2) |
ORACLE MASTER Silver、
基本情報技術者試験、LPIC-2、CCNA、PHP準上級 など |
ミドルレベル (レベル3) |
ORACLE MASTER Gold、
応用情報技術者試験、LPIC-3、CCNP、PHP上級 など |
ミドルレベル (レベル4) |
ORACLE MASTER Platinum、
情報技術者試験(高度区分)、情報処理安全確保支援士試験、CCIE など |
2.6 統計検定
統計検定は、一般財団法人 統計質保証推進協会によって実施される民間試験ですが、日本統計学会、および各種省庁の後援を受けている検定試験です。統計データの利用に必要な知識を基礎から高度なものまで網羅しており、AIエンジニアとして統計データの処理を扱う上で、とても重要な知識を確認することができる試験です。
受験資格 | なし |
---|---|
合格者数/受験者数 | 不明 |
合格率 | 不明 |
試験時期 | 6月頃、11月頃の年二回 |
費用 | 3000円~10000円(税込)
※試験によって変動 |
受験方法 | CBT申し込みサイトにて |
公式サイト | https://www.toukei-kentei.jp/ |
■ 統計検定の難易度
統計検定は4、3、2、準1、1級の5段階のレベルがあり、とても幅広い難易度に対応しています。小中学生の受験者もいる4級から、大学の専門課程で習得する統計数理が問われる1級まで、こつこつとレベルアップしていくことが可能となっています。
2.7 データベーススペシャリスト試験(高度情報技術者試験)
データベーススペシャリスト試験は、情報処理技術者の高度区分試験のうちのひとつです。データベースに関する深い知識や、豊富な経験を問われる内容となっています。こちらも国家試験であり、高品質なデータベースの要件定義から運用保守までを行える水準が期待されています。
受験資格 | 特になし |
---|---|
合格者数/受験者数 | 1,591名/11,066名(H31年度) |
合格率 | 14.4% |
試験時期 | 秋期(10月頃) |
費用 | 7,500円(税込) |
受験方法 | IPA公式サイトから受験を申し込む
受験票で指定された会場にて、筆記試験を行う |
公式サイト | https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/db.html |
■ データベーススペシャリスト試験の難易度
「ITスキル標準(ITSS)」によると、データベーススペシャリスト試験はミドルレベル(レベル4)に区分されています。ミドルというと普通に聞こえますが、ORACLE MASTER PlatinumやCCIEなど、各分野の最高難度の試験と同等となっており、かなりの難関資格と言えるでしょう。
なおデータベーススペシャリスト試験の勉強法などについては、次の記事も参考にしてみて下さい。
2.8 AWS認定 機械学習 – 専門知識
AWS認定(機械学習 – 専門知識)は、Amazonが提供するクラウドサービスである「AWS(Amazon Web Service)」が公式で実施するベンダー試験です。AWSの機能のうち特に機械学習に重点を置いて問われる内容となっており、業務でAWSを利用されている方などに、特におすすめの試験となっています。
受験資格 | ベーシックレベル(クラウドプラクティショナー)またはアソシエイトレベル(三種類)のうち、いずれかに合格していること |
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合格者数/受験者数 | 不明 |
合格率 | 不明 |
試験時期 | 随時 |
費用 | 300 USドル |
受験方法 | AWS認定アカウントを作成し、PSIまたはピアソンVIEWから希望するテストセンターと日時を指定して予約する
試験はCBT方式で行われる |
公式サイト | https://aws.amazon.com/jp/certification/certified-machine-learning-specialty/ |
■ AWS認定(機械学習 – 専門知識)の難易度
AWS認定の中でも、認定専門知識の5つはかなりの高難度試験です。なお機械学習は5つの中でもっともAWS特有の出題は少ないとされており、AWSの機能としての機械学習だけでなく、機械学習そのものの学習も重要となっています。AWSには公式で手厚い無料トレーニング(eラーニング教材や講習動画など)が提供されていますので、興味のある方はまず無料トレーニングの確認がおすすめです。
2.9 GCP Professional Data Engineer
GCP Professional Data Engineerは、Googleが提供するクラウドサービスである「GCP(Google Cloud Platform)」が公式で提供しているベンダー試験です。GCPを用いてセキュリティや効率性、柔軟性などを考慮したデータ処理システムの設計・構築ができるかを問われる、データエンジニア向けの試験となっています。
特に、次の4つに関する能力を評価されます。
• データ処理システムの設計
• データ処理システムの構築と運用化
• 機械学習モデルの運用化
• ソリューションの品質の確保
受験資格 | なし |
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合格者数/受験者数 | 不明 |
合格率 | 不明 |
試験時期 | 随時 |
費用 | 200 USドル |
受験方法 | KRYTERIONから希望するテストセンターと日時を指定して予約する
試験はCBT方式で行われる |
公式サイト | https://cloud.google.com/certification/guides/data-engineer?hl=ja |
■ GCP Professional Data Engineerの難易度
AWSと違い下位試験に合格していなくても受験することが可能です。しかし「GCP を使用したソリューションの設計と管理の経験1年以上を含む、業界経験3年以上」という受験者像が公式で推奨されており、難度高めの試験です。多くのベンダー試験同様に実機の操作経験がなければ難しい試験となっていますので、実務経験のない方には特に難度の高い試験となります。なおこちらも公式で無料トレーニングが公開されていますので、まず確認してみることがおすすめです。
参照:Google Cloudのコースとトレーニングトレーニング|Google Cloud
2.10 応用情報技術者試験
応用情報技術者試験は、ITに関する知識をとても広範囲に問われる試験です。この試験に合格すると、情報処理技術者試験の高度区分である「情報セキュリティ、ストラテジ、アーキテクト、プロジェクトマネジメント、データベース、ネットワーク、サービスマネジメント、エンベデッドシステム、システム監査」の9分野について、基本となる知識がひと通り身についているということが証明できます。広範囲にITに精通した人材であるという、証明になるのです。
受験資格 | なし |
---|---|
合格者数/受験者数 | 30,710/6,605名(H31年度秋期) |
合格率 | 21.5% |
試験時期 | 春期(4月頃)、秋期(10月頃)の、年二回 |
費用 | 7,500円(税込) |
受験方法 | IPA公式サイトから受験を申し込む
受験票で指定された会場にて、筆記試験を行う |
公式サイト | https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/ap.html |
■ 応用情報技術者試験の難易度
「ITスキル標準(ITSS)」によると、応用情報技術者試験はミドルレベル(レベル3)に区分されています。こちらもミドルという響きではありますが、他の同レベル試験の顔ぶれからも分かるとおり、高難度の試験となっています。
応用情報技術者試験の詳しい勉強法については、次の記事も参考にしてみて下さい。
3. まとめ
今回はAIエンジニアに役立つ資格を、習得すべき技術や難易度の観点からご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。資格の取得は自分の持つスキルや知識の再確認ができるだけでなく、新しい発見にもつながります。ぜひ興味のある分野を見つけて、積極的にチャレンジしてみて下さいね。