PHPは数あるサーバー側プログラミング言語の中でも特にシェアが大きく、2024年10月時点で75.7%を占めています。さらにPHP技術者認定機構が発表した市場動向によると、2024年11月の時点で日本市場におけるPHPの求人数は25000件超であり、JavaやC言語をおさえ第一位という結果になっています。これは2022年と比較すると3倍近くに増加しており、今後も大いに期待されている言語です。
出典:PHP、WordPress市場動向|PHP技術者認定機構
今回は、そんなPHPの現時点で唯一の資格である「PHP技術者認定試験」をご紹介したいと思います。
1. PHP技術者認定試験の種類と試験概要
1.1 PHP技術者認定試験とは
PHP技術者認定試験とは、2011年2月に設立された「一般社団法人 PHP技術者認定機構」が運営する民間資格です。昨今の日本国内でPHPを習得している技術者は10万人を超えていますが、個々の技術者間での技量に差が開いてきており、大きな課題となっています。そこで「PHP技術の習得度合い」を測ることで、PHP技術者の育成と納品品質の向上を図ることを目的に、この試験は立ち上げられました。
受験者数・合格者数の詳細は公開されていませんが、設立からたったの2年で累計受験者数が1000名を超えており、その後もますます増加しています。
1.2 試験の種類(グレード)
■ 初級試験
同試験の中では最も簡単なグレードであり、学生、または社会人1~2年目の受験を想定した試験内容とされています。
■ 上級試験(準上級試験)
PHPの言語仕様を理解し、実用的かつ高度なプログラミングテクニックを持つ、上級者の受験を想定した試験内容とされています。
なお2015年4月より、上級試験で5割以上7割未満の点数を取得すると、「準上級試験合格」に認定され、準上級認定の認定証と認定カードが発行されるようになりました。
■ 認定ウィザード
PHP技術者認定ウィザードは、設立当初は「論文審査」スタイルで試験が実施されていました。2024年3月18日より、次のように改訂が行われました。
PHP技術者認定ウィザードは上級試験(PHP8 以降)でスコア1275点以上(正答率85%)以上を取得したがPHP技術者認定ウィザードの呼称とロゴマークを使用できるものとします。
出典:PHP技術者認定ウィザード - PHP技術者認定機構
なおウィザードに認定されるのは、PHP8対応以降の試験とされています。
例えばPHP対応試験で条件を満たした場合、名刺などに記載できる呼称は、次の通りです。
設立から4年目でようやく初めての合格者が出た旧試験に比べて、取得へのハードルが大幅に緩和されています。上級試験を受ける際には、ぜひ高得点合格にチャレンジしてみてください。
1.3 就職・転職へのメリット
■ 未経験者から就職する場合
新卒や業界を変えての転職など未経験者から就職する場合、PHPに対する学習意欲を十分に示すことができます。企業により差はありますが、初級合格であっても他の未経験応募者より有利になるケースは少なくありません。
ただし無資格の経験者と比べると、アピールが弱いのも事実です。「この資格さえあれば大丈夫」ではなく、資格取得を通して何が得られたのかをきちんと説明できるようにしておくことが重要です。
■ 経験者から転職する場合
経験者であれば初級は物足りない資格になりますが、上級試験に合格していると客観的に示せるスキル指標の1つになります。ただしこちらも就職時と同じで、資格を取ったから終わりではなく、どういった経緯で受験したのか、取得する過程でどんなスキルが得られたのかを説明できるようにしておくことが重要です。
また転職時に直接有利にならない場合でも、自分の技術が井の中の蛙ではなく一般的に通用するものなのかを確認し、他所の現場でも通用する技術を持っていると自信を得られるようになります。さらに自分に足りない部分があればそれを見つけて補えることも、上級試験受験のメリットではないでしょうか。
1.4 受験料など試験の概要
初級および上級は、その他民間資格の受験でもおなじみのテストセンター(プロメトリック)で行われる、CBT(コンピュータ入力)試験になります。
受験料は国家試験よりは少し高価ですが、ベンダー試験よりは安価に設定されています。
グレード | 問題数 | 試験時間 | 受験料 | 合格ライン |
---|---|---|---|---|
初級試験 | 40問 | 1時間 | 12,000円 | 70%(28問以上) |
上級試験 | 60問 | 2時間 | 15,000円 | 70%(42問以上)
(準上級認定:50%) (ウィザード認定:85%) |
1.5 試験日と試験会場
全国のプロメトリック試験会場で、いつでも希望した日に受験することができます。
(ただし試験日と試験開始時刻は、各会場の営業日と営業時間に依存します)
1.6 初級の出題範囲と出題率
現行の最新バージョンである「PHP8初級試験」の出題範囲は、「独習PHP 第4版」より次の比率で出題されます。
出題率 | |
---|---|
第1章 イントロダクション | 2.5% |
第2章 PHPの基本 | 12.5% |
第3章 演算子 | 10.0% |
第4章 制御構文 | 13.8% |
第5章 組み込み関数 | 8.8% |
第6章 ユーザー定義関数 | 7.5% |
第7章 標準クラスライブラリ | 7.5% |
第8章 リクエスト情報 | 10.0% |
第9章 データベース連携 | 5.0% |
第10章 オブジェクト指向構文 | 17.5% |
第11章 高度なプログラミング | 5.0% |
2. PHP技術者認定試験の難易度
PHP技術者認定試験の難易度について、いくつかのアプローチからご紹介します。
2.1 合格率から考える
初級試験 | 70%程度 |
---|---|
上級試験(準上級) | 55.8% |
上級試験(上級) | 23.4% |
初級の合格率は約70%と、合格率50%程度のITパスポート試験と比較すると簡単に見える割合です。しかし実際には、学生や非エンジニアが多く受験するITパスポート試験に対して、PHPは受験者の多くがエンジニアと考えられます。そのため実務未経験者にとっては、数字上の印象よりは少し難しい試験となりえます。
上級試験は、準上級と上級を合わせて80%程度が合格していますが、上級合格者は23.4%にとどまっています。
2.2 ITスキル標準(ITSS)から考える
IPA(情報処理推進機構)が制定するITスキル標準に照らすと、各グレードの試験は次のレベルに相当するとされています。
初級試験 | レベル1 |
---|---|
準上級試験 | レベル2 |
上級試験 | レベル3 |
参考まで、おなじみ情報処理技術者試験のレベルは次のように設定されています。
ITパスポート試験 | レベル1 |
---|---|
基本情報技術者試験 | レベル2 |
応用情報技術者試験 | レベル3 |
初級試験についてはITパスポート試験と同程度のレベル1とされていますが、体感ではITパスポートよりPHP初級の方が難しいと感じる方が多いようです。
上級試験については公式アナウンスより「資格を持っているだけでステータスとなるようなハイレベルな人材の認定を目指している」とのことで、前述の合格率から考えても「レベル3」という難易度設定には頷けると思います。上級試験は実際に、応用情報技術者試験と同レベルかそれ以上と考えてもいい難易度ではないでしょうか。
2.3 一般的な勉強時間から考える
■ 初級試験合格までの勉強時間
実務2年目程度のプログラマーを想定した場合、一般的に10時間程度の試験勉強を要する内容に設定されています。
未経験から始める場合はその他言語を習得しているか否かで状況は変わりますが、後述する合格教本の内容を9割以上理解するのに必要な時間が、そのまま最低限の勉強時間の目安になります。
■ 上級試験合格までの勉強時間
出典:「PHP8上級試験のご紹介、合格率、学習時間、市場動向」- PHP技術者認定機構
2024年10月に発表されたPHP8上級試験の紹介によると、上級試験にかかった勉強時間は「30時間以上」が最も多く、「10~20時間」が次いで多いという結果になりました。このことから、PHP8上級試験を受験する方には、実務経験者が多いことがうかがえます。
3. PHP技術者認定試験の対策方法
3.1 未経験者向け、レベル別おすすめの参考書
PHP技術者認定試験対策におすすめの参考書と問題集を、これまでのプログラミング経験別に紹介致します。
◆ その他言語を習得済のプログラマーの方などにおすすめの参考書

(公式サイト:https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798168494)
「独習PHP 第4版」
この「独習PHP」は公式の指定する主教材であり、試験はこの中から出題されます。
ただプログラミングの基礎知識があることを前提とした作りとなっているため、プログラミング初心者には難しいかもしれません。その代わり他のPHP入門書では省かれているような仕組みの部分まで丁寧に説明されています。試験対策だけでなく、PHPを体系的に理解したい人におすすめです。
なお出版社の公式通販サイトでは、PDF版を購入することができます。紙書籍ではB5変形サイズで664ページあるため、手軽に持ち歩いて勉強したい方には公式サイトの利用がおすすめです。
◆「独習PHP」が難しいと感じた方におすすめの参考書

(公式サイト:https://www.ric.co.jp/book/introductory-book/detail/2726)
「いきなりはじめるPHP 改訂版 新・ワクワク・ドキドキの入門教室」
プログラミング全くの初心者から、たった1日で簡単なWebサイトとデータベースまで作れてしまう、「入門書の前の入門書」です。PHPの入門書ではなくPHPを使って初めてのプログラミングを学ぶ方におすすめです。
独習PHPが難しいと感じた方は、こちらの参考書から初めてみてください。
◆ 公式の認定問題集

(Amazon販売サイト:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D3BMKWZS/)
「PHP8技術者認定初級試験公式問題集A」
PHP7まで認定問題集だった黒本に代わり、PHP技術者認定機構が発行する公式問題集です。本番の試験問題に近い問題を収録しているので、実際の試験会場での出題イメージをしやすい構成となっています。
こちらは現在、Amazonでのみの販売となっているようです。
3.2 独学で勉強する場合の対策方法
初級の場合、まず「独習PHP」を読んで理解する事が大切です。試験に受かるためには、この本を一通り理解しておく必要があります。またこの過程では、本を読むだけでなくコードを自分で書くことも重要です。
次に「PHP8技術者認定初級試験公式問題集A」で問題を解きつつ、理解が浅いところはネットで検索しながら勉強することも大事です。試験に受かるためには、この本の問題は8~9割正解出来るようになる必要があります。
この過程では、次のようなPHPのマニュアルや解説サイトも参考にしながら勉強することがおすすめです。
▶ PHPマニュアル
▶ Let’sプログラミング
▶ そふぃのPHP入門
上級試験についても、多くの方が独学で合格しています。ただ初級に比べると出題範囲がとても広いものとなっており、通常業務では使用しない範囲まで問われるようになります。公式が推奨する参考書には掲載されていない、PHPのオンラインマニュアルにしかない範囲から出題される問題も存在するため、マニュアルにも一通り目を通して把握しておく必要があります。
さらに、いつもの業務ではネットを参照しながらコーディングすることができますが、試験中は自分の持つ知識のみで勝負する必要があります。存在は知っているけどうろ覚えな部分などある場合は、きちんとチェックしておくことがおすすめです。
3.3 ちゃんと勉強しないと受からない理由
ITスクールやオンライン講座でPHPを勉強しただけでは、確実には受からない試験です。
例えば、これらの講座で習う判定(if文)は、下記のような単純な文です。
$a = 5;
if($a > 2){
echo "X";}
実際の試験ではこれだけでは受かりません。判定の項目でも、
・整数の0はfalseである
・" = TRUE はfalseである
・abc < xyz はtrueである
なども理解しておく必要があります。
また「php.ini(設定ファイル)」の中の、「error_reporting」や「display_errors」なども押さえておく必要があります。
4. 上級試験は未経験者が独学で合格できる最高難易度
余談になりますが、教えて!gooでアドバイスを求める未経験者の方に対し、試験運営関係者を名乗る方がこう回答されています。
上級試験は未経験者が独学で合格できる最高難易度に設定しています。未経験者でもこの上級試験さえ合格できれば、仕事に困らないような資格を作りたかったから、この難易度にしました。それ故に、上級試験はものすごく難しいです。ただ、初級試験といっても初級のイメージではないため、それはそれで合格することで、基礎知識を習得した証明になります。(そんなに優しくはありません。ちゃんと勉強しないと初級試験でも30点40点というのは結構あります)
出典:教えて!goo
このように未経験者でも独学で上級試験に合格可能な難易度に設定されているようですが、その道はとても険しいものとなりそうです。しかし同質問には、こうも回答されています。
もし、ものすごく、勉強されて上級試験に合格されて、それでも仕事がないようでしたら、いつでもWebページから相談ください。
出典:教えて!goo
現在この回答を行ったユーザはサイトを退会済みのようですが、関係者という言葉を信じるのであれば、とても心強い運営姿勢ではないでしょうか。これからますます発展していきそうなPHP技術者認定試験に、今後も大注目です。
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