PHPは数あるサーバー側プログラミング言語の中でも特にシェアが大きく、2022年2月時点で77.6%を占めています。さらにPHP技術者認定機構が発表した市場動向によると、2022年1月の時点で日本市場におけるPHPの求人数は「82794件」であり、JavaやC言語をおさえ第一位という結果になっています。特に前年度比の増加率は192%であり、今後も大いに期待されている言語です。
出典:PHP、WordPress市場動向|PHP技術者認定機構
今回は、そんなPHPの現時点で唯一の資格である「PHP技術者認定試験」をご紹介したいと思います。
1. PHP技術者認定試験の種類と試験概要
1.1 PHP技術者認定試験とは
PHP技術者認定試験とは、2011年2月に設立された「一般社団法人 PHP技術者認定機構」が運営する民間資格です。昨今の日本国内でPHPを習得している技術者は10万人を超えていますが、個々の技術者間での技量に差が開いてきており、大きな課題となっています。そこで「PHP技術の習得度合い」を測ることで、PHP技術者の育成と納品品質の向上を図ることを目的に、この試験は立ち上げられました。
受験者数・合格者数の詳細は公開されていませんが2013年5月11日時点で累計受験者数が1000名を超えており、その後もますます増加しています。
1.2 試験の種類(グレード)
■ 初級試験
同試験の中では最も簡単なグレードであり、学生、または社会人1~2年目の受験を想定した試験内容とされています。
■ 上級試験(準上級試験)
PHPの言語仕様を理解し、実用的かつ高度なプログラミングテクニックを持つ上級者の受験を想定した試験内容とされています。
なお2015年4月より、上級試験で5割以上7割未満の点数を取得すると、「準上級試験合格」に認定され、準上級認定の認定証と認定カードが発行されるようになりました。
■ 認定ウィザード
PHP技術者認定試験の最上位は「PHP技術者認定ウィザード」と呼ばれる資格ですが、通常の試験とは異なり、研究論文またはコードを提出して他の有資格者から審査を受ける「論文審査スタイル」になります。
詳細な受験条件は、次の通りです。
• 上級試験に合格してから2年以内
• 複数提示されるカテゴリから1つ選択し、論文(4000文字以上)を提出
(1年につき各1本まで、複数カテゴリに応募可。論文はコードでの提出可)
• 提出した論文の領布権をPHP技術者認定機構に付与することに同意すること
(論文の公開審査が行われるため)
上級試験の合格点が基準点となり、それに論文審査の点数が加算されて100点を超えたらウィザード認定となります。
なお2012年度は応募1で合格なし、2013年度は応募2で合格なし、2014年度は応募なしなのか、発表ページが存在せずでした。試験実施4年目となる2015年度にて、初めての認定ウィザードが誕生しています。
2016年度は、募集が2017年2月より募集開始され、5月に結果発表予定となっていましたが、応募はありませんでした。2017年度以降は長らく応募情報のない状態でしたが、2020年3月14日から申し込みの受付が再開されたようです。興味のある方は、目指してみてはいかがでしょうか。
1.3 就職・転職へのメリット
■ 未経験者から就職する場合
新卒や業界を変えての転職など未経験者から就職する場合、PHPに対する学習意欲を十分に示すことができます。企業により差はありますが、初級合格であっても他の未経験応募者より有利になるケースは少なくありません。
ただし無資格の経験者と比べると、アピールが弱いのも事実です。「この資格さえあれば大丈夫」ではなく、資格取得を通して何が得られたのかをきちんと説明できるようにしておくことが重要です。
■ 経験者から転職する場合
経験者であれば初級は物足りない資格になりますが、上級試験に合格していると客観的に示せるスキル指標の1つになります。ただしこちらも就職時と同じで、資格を取ったから終わりではなく、どういった経緯で受験したのか、取得する過程でどんなスキルが得られたのかを説明できるようにしておくことが重要です。
また転職時に直接有利にならない場合でも、自分の技術が井の中の蛙ではなく一般的に通用するものなのかを確認し、他所の現場でも通用する技術を持っていると自信を得られるようになります。さらに自分に足りない部分があればそれを見つけて補えることも、上級試験受験のメリットではないでしょうか。
1.4 受験料など試験の概要
初級および上級は、その他民間資格の受験でもおなじみのテストセンター(プロメトリック)で行われる、CBT(コンピュータ入力)試験になります。
受験料は国家試験よりは少し高価ですが、ベンダー試験よりは安価に設定されています。
グレード | 問題数 | 試験時間 | 受験料 | 合格ライン |
---|---|---|---|---|
初級試験 | 40問 | 1時間 | 12,000円 | 70%(28問以上) |
上級試験 | 60問 | 2時間 | 15,000円 | 70%(42問以上) (準認定:50%) |
1.5 試験日と試験会場
全国のプロメトリック試験会場で、いつでも希望した日に受験することができます。
(ただし試験日と試験開始時刻は、各会場の営業日と営業時間に依存します)
1.6 初級の出題範囲と出題数
公式で発表されているPHP7初級試験の出題範囲と出題数は、次の通りです。
項目 | 出題数 |
---|---|
PHPの特徴 | 2 |
テキストと数の操作 | 3 |
ロジック:判定と繰り返し | 2 |
データのグループ:配列の操作 | 3 |
ロジックのグループ:関数とファイル | 3 |
データとロジックの結合:オブジェクトの操作 | 2 |
ユーザとの情報交換:Webフォームの作成 | 4 |
情報の保存:データベース | 4 |
ファイルの操作 | 2 |
ユーザの記憶:クッキーとセッション | 2 |
他のWebサイトやサービスとのやり取り | 2 |
デバッグ | 2 |
テスト:プログラムが正しく動作するようにする | 2 |
ソフトウェア開発で心得ておきたいこと | 1 |
日付と時刻 | 1 |
パッケージ管理 | 1 |
メールの送信 | 1 |
フレームワーク | 1 |
コマンドラインPHP | 1 |
国際化とローカライゼーション | 1 |
合計 | 40問 |
2. PHP技術者認定試験の難易度
PHP技術者認定試験の難易度について、いくつかのアプローチからご紹介します。
2.1 合格率から考える
初級試験 | 70%程度 |
---|---|
上級試験 | 10%程度 |
初級の合格率は70%と、合格率50%程度のITパスポート試験と比較すると簡単な方に見える割合です。しかし実際には、学生や非エンジニアが多く受験するITパスポート試験に対して、PHPは受験者の多くがエンジニアと考えられます。そのため実務未経験者にとっては、数字上の印象よりは少し難しい試験となりえます。
上級では極端に合格率が落ち、数字上では情報処理技術者試験の高度区分と同レベルの難関試験となっています。
2.2 ITスキル標準(ITSS)から考える
IPA(情報処理推進機構)が制定するITスキル標準に照らすと、各グレードの試験は次のレベルに相当するとされています。
初級試験 | レベル1 |
---|---|
準上級試験 | レベル2 |
上級試験 | レベル3 |
参考まで、おなじみ情報処理技術者試験のレベルは次のように設定されています。
ITパスポート試験 | レベル1 |
---|---|
基本情報技術者試験 | レベル2 |
応用情報技術者試験 | レベル3 |
初級試験についてはITパスポート試験と同程度のレベル1とされていますが、体感ではITパスポートよりPHP初級の方が難しいと感じる方が多いようです。
上級試験については公式アナウンスより「資格を持っているだけでステータスとなるようなハイレベルな人材の認定を目指している」とのことで、前述の合格率から考えても「レベル3」という難易度設定には頷けると思います。上級試験は実際に、応用情報技術者試験と同レベルかそれ以上と考えてもいい難易度ではないでしょうか。
2.3 一般的な勉強時間から考える
■ 初級試験合格までの勉強時間
実務2年目程度のプログラマーを想定した場合、一般的に10時間程度の試験勉強を要する内容に設定されています。
未経験から始める場合はその他言語を習得しているか否かで状況は変わりますが、後述する合格教本の内容を9割以上理解するのに必要な時間が、そのまま最低限の勉強時間の目安になります。
■ 上級試験合格までの勉強時間
実務5年目程度のプログラマーを想定した場合、経験内容にもよりますが一般的に50時間程度の試験対策を要する内容に設定されています。
3. PHP技術者認定試験の対策方法
3.1 未経験者向け、レベル別おすすめの参考書
PHP技術者認定試験対策におすすめの参考書と問題集を、これまでのプログラミング経験別に紹介致します。
◆ その他言語を習得済のプログラマーの方などにおすすめの参考書
出典:Amazon
「初めてのPHP」
プログラマーの間ではおなじみの、オライリーの『動物本』です。この本が公式の主教材となり、一般的な知識やPHPオンラインマニュアルなどからも出題されます。「初めての」という名前ではありますがプログラミングや簡単なHTMLの知識はあることが前提の作りとなっており、プログラミング初心者には難しいかもしれません。その代わり他のPHP入門書では省かれているような仕組みの部分まで丁寧に説明されており、「なぜかよく分からないけど、こう入力すれば結果はこう」ではなく、なぜそうなるのかを納得しながら学習を進めることができる内容となっています。試験とは関係なく、PHPをちゃんと理解したい人におすすめです。
◆「はじめてのPHP」が難しいと感じた方におすすめの参考書
出典:Amazon
「イラストでよくわかるPHP はじめてのWebプログラミング入門」
これまで全くプログラミングに触れたことのない超初心者向けに執筆された、PHP入門書です。イラストを主体に、PHPの仕組みや成り立ちが丁寧に解説されています。「はじめてのPHP」が難しいと感じた方は、まずこちらから読んでみてはいかがでしょうか。
◆ おすすめの問題集
出典:Amazon
「徹底攻略PHP7技術者認定[初級]試験問題集」
いわゆる『黒本』と呼ばれる、公式問題集です。試験範囲を網羅する書き下ろし問題が計173問掲載されており、設問ひとつひとつに丁寧な解説が行われています。基礎的な知識を身につけた後に試験対策として活用する使い方がおすすめです。
3.2 独学で勉強する場合の対策方法
初級の場合、まず「初めてのPHP」を読んで理解する事が大切です。試験に受かるためには、この本を一通り理解しておく必要があります。またこの過程では、本を読むだけでなくコードを自分で書くことも重要です。
次に「徹底攻略 PHP7技術者認定[初級]試験 公式問題集(黒本)」で問題を解きつつ、理解が浅いところはネットで検索しながら勉強することも大事です。試験に受かるためには、この本の問題は8~9割正解出来るようになる必要があります。
この過程では、次のようなPHPのマニュアルや解説サイトも参考にしながら勉強することがおすすめです。
▶ PHPマニュアル
▶ Let’sプログラミング
▶ そふぃのPHP入門
上級試験についても、多くの方が独学で合格しています。ただ初級に比べると出題範囲がとても広いものとなっており、通常業務では使用しない範囲まで問われるようになります。公式が推奨する参考書には掲載されていない、PHPのオンラインマニュアルにしかない範囲から出題される問題も存在するため、マニュアルにも一通り目を通して把握しておく必要があります。
さらに、いつもの業務ではネットを参照しながらコーディングすることができますが、試験中は自分の持つ知識のみで勝負する必要があります。存在は知っているけどうろ覚えな部分などある場合は、きちんとチェックしておくことがおすすめです。
3.3 ちゃんと勉強しないと受からない理由
ITスクールやオンライン講座でPHPを勉強しただけでは、確実には受からない試験です。
例えば、これらの講座で習う判定(if文)は、下記のような単純な文です。
$a = 5;
if($a > 2){
echo "X";}
実際の試験ではこれだけでは受かりません。判定の項目でも、
・整数の0はfalseである
・" = TRUE はfalseである
・abc < xyz はtrueである
なども理解しておく必要があります。
また「php.ini(設定ファイル)」の中の、「error_reporting」や「display_errors」なども押さえておく必要があります。
4. 上級試験は未経験者が独学で合格できる最高難易度
余談になりますが、教えて!gooでアドバイスを求める未経験者の方に対し、試験運営関係者を名乗る方がこう回答されています。
上級試験は未経験者が独学で合格できる最高難易度に設定しています。未経験者でもこの上級試験さえ合格できれば、仕事に困らないような資格を作りたかったから、この難易度にしました。それ故に、上級試験はものすごく難しいです。ただ、初級試験といっても初級のイメージではないため、それはそれで合格することで、基礎知識を習得した証明になります。(そんなに優しくはありません。ちゃんと勉強しないと初級試験でも30点40点というのは結構あります)
出典:教えて!goo
このように未経験者でも独学で上級試験に合格可能な難易度に設定されているようですが、その道はとても険しいものとなりそうです。しかし同質問には、こうも回答されています。
もし、ものすごく、勉強されて上級試験に合格されて、それでも仕事がないようでしたら、いつでもWebページから相談ください。
出典:教えて!goo
現在この回答を行ったユーザはサイトを退会済みのようですが、関係者という言葉を信じるのであれば、とても心強い運営姿勢ではないでしょうか。これからますます発展していきそうなPHP技術者認定試験に、今後も大注目です。
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