SES事業とはどのようなビジネスモデルでしょうか。SES事業の定義や主な流れ、派遣との違いなどを紹介します。
1. SES(System Engineering Servece)とは
「SES」とは「システムエンジニアリングサービス」の略称で、システム開発の現場にエンジニア(人的資源)を提供することによって対価を得る契約形態のことです。
完成品のシステムやソフトウェアを納品して対価を受け取るのではなく、エンジニアの持つスキルを提供することで対価を受け取ります。ベンダー(サービスを提供する側)企業に所属するエンジニアが、クライアント企業に常駐(客先常駐)して作業を行うスタイルが一般的です。
1.1 SES(System Engineering Servece)の主な流れ
SES事業は、おおまかに「見積もり」「技術者のアサイン」「技術協力・技術の提供」「支払い」という4つの流れで行われます。具体的には、次の通りです。
■ 見積もり
クライアント企業がシステムの開発や運用、保守を行うために、SES事業のベンダー企業に対して依頼や相談、業務委託の打診を行います。SES事業のベンダー企業は、相談内容に沿って報酬の見積もりを行います。
■ 技術者のアサイン
SES事業のベンダー企業は、クライアント企業からの依頼に沿ったITエンジニア(SE等)を選定し、アサイン(配属)します。
ベンダー企業自身に在籍するエンジニアに適切な人材がいなかった場合、外部パートナー企業から選定することもあります。そのためにパートナー企業とは密に情報交換を行っているSES事業会社も多く存在します。
■ 技術協力・技術の提供
アサインされたITエンジニアはIT技術をクライアント企業に提供し、作業を支援します。常駐作業となることが一般的です。
■ 支払い
クライアントはITエンジニアの人月単価(人件費)を、技術提供の対価としてSES事業会社に支払います。
1.2 SES(System Engineering Servece)のビジネスモデル
SES事業のビジネスモデルには、「外部パートナーやフリーランスとの協業」「自社社員の常駐」などが挙げられます。
■ 外部パートナーやフリーランスとの協業
自社社員ではない「パートナー企業のエンジニア」や「フリーランスのエンジニア」と協業し、クライアント企業に常駐してもらう形式です。フリーランスエンジニアらに支払う報酬については「外注費」として計上します。
自社社員の常駐よりも固定費が削減できることが強みであり、今後、SES業界で主流になっていく可能性が高いビジネスモデルです。
■ 自社社員の常駐
自社社員のエンジニアをクライアントに直接的に常駐させる形式です。フリーランスエンジニアを活用するよりも固定費は高騰しやすいですが、提供できるサービスの品質も安定しやすいです。
2. SIerとSESの違い
SIerとSESは提供するサービスに違いがあります。
SIerが完成品のシステムやソフトウェアを納品して一括で報酬を受け取るサービスであるのに対して、SESはIT技術者を提供して毎月報酬を受け取るサービスです。
また、両者は法的にも違いがあります。
IT業界の契約形態は大きく「準委任契約」「請負契約」「労働者派遣契約」の3つに分けられます。このうち、SIerが締結する可能性があるのは「請負契約」です。一方でSESは「準委任契約」と同義となっています。
さらに詳しく見ていきましょう。
2.1 SIerとは
SIer(エスアイヤー)は、受託ソフトウェア開発または情報処理サービスを提供する企業のことです。システムインテグレーション、もしくはシステムインテグレーターとも呼ばれています。
システムインテグレータは、その扱うシステムによって大きく3つに分類されます。
• メーカー系SIer…コンピュータメーカー企業系列のシステム
• ユーザー系SIer…大手企業系列のシステム
• 独立系SIer…メーカー系、ユーザー系に属さない
それぞれの違いやSIer業界については、以下の記事でも紹介していますので、こちらも合わせて参考にしてください。
2.2 請負契約(SIer)と準委任契約(SES)の違い
◆ SIerとSESの違い
• SIer:受託開発を行う企業
• SES:契約形態の一つで、準委任契約とも言われる
SIerは、顧客からシステム開発の依頼を受けて業務を行う「企業」のことを指し、SESは業務上の「契約形態」のことを言います。
なお、IT企業の中には、受託開発を行うSIerの他にも、自社サービスを展開するIT企業、SES契約のみを取り扱うSES企業などが存在します。
SESという言葉自体が非常に曖昧であり、企業によりその意味合いも変わってきますが、SES =準委任契約であると認識して問題ありません。
2.3 派遣とSES事業の違い
◆ 労働者派遣契約とSESの違い
• 労働者派遣契約:発注元に業務指揮命令権がある
• SES:発注元に業務指揮命令権がない
労働者派遣契約の場合は発注元から業務指揮命令を受けて動きます。一方、SES(準委任契約)の場合はあくまでも自分が所属する自社(フリーランスの場合は自分)の業務命令に沿って任務を遂行します。
派遣とSESでは、一見すると「エンジニアの技術および労働力を提供する」という点で同じように見えますが、業務指揮命令権がクライアント側にあるかないかという点が異なります。
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3. SES(System Engineering Servece)のメリット・デメリット
SESのメリットとデメリットについて、エンジニア側とクライアント側のそれぞれの視点から解説します。
3.1 エンジニア側のメリット/デメリット
エンジニアがSES(System Engineering Service)として働く場合、契約のたびにクライアントが変わるため、様々な現場で経験を積めるメリットがあります。
しかし、デメリットとして労働環境が客先常駐先に左右されやすく、クライアントごとのルールの違いに戸惑いやすいことに注意が必要です。
3.2 クライアント側のメリット/デメリット
クライアントにとってのSES(System Engineering Service)のメリットは、優秀なエンジニア確保が容易で、エンジニアの研修や教育にかかるコストが抑えやすいことです。
一方で、デメリットとして契約期間が終わるまでに期待した成果が得られない可能性があります。
4. SES(System Engineering Servece)の市場動向・将来性
最後に、SES事業の市場動向と将来性を解説します。2022年現在は、大企業や官公庁の大規模開発ニーズなどは堅調。一方で簡易なシステムの開発ニーズは、RPAやクラウドに置き換えられつつもあります。今後のSESの「予測されるビジネスモデルの変化」も解説します。
4.1 大企業や官公庁の大規模開発ニーズがなくなることは考えにくい
大企業や官公庁が求める大規模開発のニーズは、今後も無くなる可能性が低いでしょう。
たとえばSESの大口クライアントの1つは、大企業や省庁から案件を受注しているSIerです。SIerの売上高上位10社を調査すると、ここ数年はプラスの成長を続けています。SESはSIerに対して開発リソースを提供する立場であり、すぐにSESのニーズが無くなるとは考えにくいです。
4.2 簡易的なシステムはクラウドやRPAに置き換えが進む
SESのニーズが無くなる可能性が低いとはいえ、今後簡易的なシステムについてはクラウドサービスのSaaS(Software as a Service)や、RPA(Robotic Process Automation)に移行していくとも予想できます。
汎用性の高いシステムであれば「わざわざ自前で用意せずとも必要な分だけ、クラウド経由などで利用すればいい」という考え方ができるためです。
クラウドサービスの利用が広がると、フルスクラッチでのシステム開発を行う場面は減少すると考えられます。そのためSESも今のままの事業形態ではなく、いずれは対応の必要性が生まれてくる可能性があるでしょう。
4.3 フリーランス活用ニーズは広がる
昨今のSES業界では、自社にエンジニアを抱えて常駐させるのではなく、フリーランスエンジニアと提携してクライアントに常駐させる形態が広がっています。フリーランスエンジニアの常駐の場合、人件費は変動費や外注費として計上することができ、柔軟な人材活用が可能になります。副業解禁や働き方改革により、フリーランスエンジニアの数は年々増加傾向にあります。
SES事業者とフリーランスエンジニアとの提携は、双方にとってメリットがあるのです。
5. SES(System Engineering Servece)の運営に必要なスキル
SES事業の運営に必要なスキルとして、「プロジェクトマネジメント」「開発に関する知識」「ドキュメント作成」「コミュニケーション能力」の4つが挙げられます。それぞれについて詳しくご紹介します。
5.1 プロジェクトマネジメント
SESはその特性上、エンジニアの労務管理や作業指示は、自社サイドで行う必要があります。常駐先のエンジニアの置かれている状況をベンダーが正確に把握することは難しいため、「エンジニアのマネジメントをしっかりと行えること」はSES事業の運営において非常に重要なスキルです。
5.2 開発に関する知識
自社やパートナー企業に所属するエンジニアの作業見積もりをこなすには、開発技術に関する知識が必要になります。要求されている技術レベルをエンジニアが満たしているか選定するために必要なだけでなく、アジャイルやウォーターフォールなど開発手法の選定も重要です。
SES契約は完成義務も瑕疵担保責任もないため、いざとなればプロジェクトからの撤退という選択も可能です。しかしクライアント側は「納品」を強く意識するものです。ダメージを最小に留めるための調整を行えるだけの技術知識を持っておく必要があります。
5.3 ドキュメント作成
開発に関わるフェーズが上流工程になるほど、「要件定義」とそれに伴うドキュメントの作成がメインの業務になります。特に大企業や官公庁の大規模プロジェクトに参加する場合、開発工程や工数、参画するエンジニアの数は莫大です。全体を見渡して管理に携わるためには、工数を正確に見積もったドキュメントが必須です。
言語やフレームワーク、ライブラリの選定や開発工数の見積もりを正確に行うことができる事業者はクライアント企業から重用されます。
5.4 コミュニケーション能力
SES事業は労働集約型で、「ヒト」の労働力を扱うビジネスです。平均単価×稼働人数で売り上げが決まるシンプルな仕組みとなっています。しかし人数を増やせば増やすほど、対人関係によるトラブルも増えるものです。トラブルが起きたときに仲裁し、落としどころを探ってゆくためのコミュニケーション能力も大切です。
6. まとめ
今回はSES事業について、その定義や事業の流れ、必要なスキル、メリットやデメリットについてご紹介しました。一言でSES事業と言っても、同グループ内の企業にIT専門の社員を送り込むスタイルの企業から、現場を問わず様々なプロジェクトに関わるスタイルの企業まで、様々な形態があります。本記事での紹介が、SES事業に興味を持つきっかけとなりましたら幸いです。
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